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ベトナムの首都ハノイで、クレジットカードの返済代行(đáo hạn=借り換え代行)サービスを名目に、高利回りの出資を持ちかけて約101億ドンを集め、うち88億ドン超を詐取したとされる女性被告に対し、懲役18年の実刑判決が言い渡された。被告は集めた資金をFX(外国為替証拠金取引)の損失補填や個人的な借金返済に充てていたことが捜査で判明しており、ベトナムで繰り返し社会問題となっている「高利回り投資詐欺」の典型的な構造が改めて浮き彫りとなった。
事件の概要と判決
2025年3月26日、ハノイ人民裁判所はブイ・ビック・トゥイ(Bùi Bích Thùy、1985年生まれ、ハノイ市タインスアン区在住)に対し、「財産詐取罪(Lừa đảo chiếm đoạt tài sản)」で懲役18年の判決を下した。ベトナム刑法において財産詐取罪は、被害額が5億ドンを超える場合、最高で終身刑が科される重罪であり、今回の88億ドン超という被害規模を考慮した量刑となっている。
巧妙な手口——クレジットカード返済代行ビジネスの「裏側」
ベトナムでは、クレジットカードの利用残高を期限前に一時的に立て替えて返済し、すぐにカードから再度キャッシングすることで延滞を回避する「đáo hạn thẻ tín dụng(クレジットカード借り換え代行)」と呼ばれるサービスが非公式に広がっている。これは厳密には銀行の利用規約に抵触する行為だが、ベトナムの都市部では実質的に半ば公然と行われているグレーゾーンのビジネスである。
被告トゥイは2022年1月頃、知人を通じてハノイ在住のグエン・ドゥック・B氏と知り合い、自身がこのカード返済代行業を営んでいると紹介した。その後、同年8月になると、トゥイは「約400億ドン分のクレジットカードの借り換え案件がある」と虚偽の情報をB氏に伝え、共同出資を持ちかけた。
トゥイが提示したビジネスモデルは以下の通りである。
- 顧客のクレジットカード残高をトゥイが立て替えて返済する
- 返済完了後、顧客はトゥイに元金と手数料(元金の約0.45%)を支払う
- 1日に3回転させることが可能で、1日あたり元金の約1.5%の利益が出る
- 出資者であるB氏には、100万ドンあたり1日5,000〜10,000ドンの利益を分配する
日利0.5〜1.0%という利回りは、年換算すると180〜365%に相当する極めて高い水準であり、冷静に考えれば持続不可能な数字である。しかし、ベトナムでは銀行預金金利が低下傾向にある中、「知人の紹介」という信頼関係をテコに、こうした高利回りの話に乗ってしまうケースが後を絶たない。
被害の全容と資金の行方
B氏は2022年8月25日から同年9月19日までの約1か月間に、合計101億ドン以上をトゥイに送金した。トゥイはこの間、形式を整えるために4通の「協力契約書(Hợp đồng hợp tác)」を作成している。契約書には2022年9月1日、5日、14日、15日の日付が記され、「B氏が出資し、トゥイが顧客向けカード返済代行サービスを運営する」「協力期間は1〜6か月」「利益は固定費を差し引いた後に配分する」といった内容が記載されていた。契約書を作成することで被害者を安心させる、典型的な手口である。
トゥイはB氏に対し、一部の「利益」を送金して信用を維持していたが、実際にはカード返済代行事業はほとんど行っておらず、受け取った資金の大半を自身の借金返済と個人的な支出に充てていた。B氏が返金を求めたことから、2022年10月10日にトゥイは自身が所有するマンションの1室をB氏に譲渡し、7億ドンを借金から相殺する形で合意した。しかし、それでもなお88億ドン超が未返済のままであり、裁判所はこの金額を最終的な詐取額と認定した。
捜査段階でトゥイは、複数の人物から借金をしてFX(Forex=外国為替証拠金取引のオンラインプラットフォーム)に投資していたが損失を被り、2022年8月時点で約500億ドンもの負債を抱えていたと供述している。B氏から詐取した資金はすべてこの借金返済と生活費に消えたとされる。
ベトナムで頻発する「高利回り投資詐欺」の背景
ベトナムではここ数年、FX取引、仮想通貨、不動産投資、農業プロジェクトなど、さまざまな名目で高利回りをうたう投資詐欺事件が相次いでいる。国家銀行(中央銀行)がFX取引の個人向けライセンスを厳しく制限しているにもかかわらず、海外サーバーを利用した無許可のFXプラットフォームが横行し、多くの個人が損失を被っている。
本件の被告も、こうした無許可FXプラットフォームで巨額の損失を出した末に詐欺に走ったとみられ、FX投資→損失→借金→さらなる詐欺という負の連鎖が形成されている。ベトナム公安省は近年、こうした金融詐欺の取り締まりを強化しており、2023年以降だけでも数百件規模の摘発が行われているが、SNSや個人的な人脈を通じた勧誘は依然として根絶が難しい状況にある。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は個別の刑事事件であり、ベトナム株式市場やマクロ経済に直接的な影響を及ぼすものではない。しかし、ベトナムの金融市場の「制度的な成熟度」を測る観点では、いくつかの重要な示唆がある。
第一に、ベトナムの個人投資家層における金融リテラシーの課題である。ベトナム証券市場は個人投資家の取引比率が約8割と極めて高く、「高利回り」への期待が根強い土壌がある。こうした環境は、正規の株式市場においても過度な投機行動を誘発しやすく、市場のボラティリティ要因となり得る。
第二に、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナム当局は市場の透明性・信頼性向上を急いでいる。金融詐欺の厳正な摘発と司法処分は、国際的な機関投資家に対し「法の支配が機能している」というシグナルを送る意味で、間接的にはプラスに評価される可能性がある。
第三に、日本企業やベトナム進出企業にとっての教訓として、現地パートナーや取引先の信用調査の重要性が改めて浮き彫りになった。ベトナムでは契約書を交わしていても詐欺的な行為が行われるケースが存在し、デューデリジェンスの徹底が不可欠である。特に中小規模の投資案件や個人間の資金拠出においては、第三者機関による検証や、エスクロー口座の活用といった防御策を講じることが望ましい。
ベトナムは高い経済成長率と若い人口構造を背景に、東南アジア有数の投資先として注目を集め続けている。しかし、急速に拡大する金融市場の裏側には、こうした詐欺事件が潜んでいることも事実である。投資家としては、リターンの高さだけでなく、取引構造の透明性やカウンターパーティリスクを冷静に見極める姿勢が求められる。
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