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ベトナム最高人民検察院が、チタン鉱石の違法採掘事件で28人を起訴した。被告らは許可された生産能力を大幅に超過して採掘を行い、その総額は1,508億ドン超に上る。さらに、二重帳簿の作成や請求書の過少記載により、国家に50億ドン超の税収損害を与えたとされる。中国籍の被告も含まれ、密輸罪でも追及されるなど、国際的な広がりを持つ大規模資源犯罪の実態が明らかになった。
事件の全体像—5法人を操る「影のオーナー」
起訴状によれば、事件の中心人物はファン・タイン・ムオン(Phan Thành Muôn)被告である。同被告は、フンティン鉱産投資グループ(Tập đoàn Khoáng sản Đầu tư Hưng Thịnh、以下「フンティン・グループ」)を実質的に指揮・運営していた人物だ。興味深いのは、同被告は公式の書類上、グループ傘下の各法人の経営職に名を連ねていないという点である。しかし捜査の結果、ムオン被告がすべての株式を保有し、実質的にグループ全体を支配していたことが確認された。
フンティン・グループは以下の5法人で構成される。
- フンティン鉱産投資グループ株式会社(親会社格)
- フンティン・ジルコニウム&チタニウム製造株式会社(略称:HTZT社)—鉱石の採掘担当
- フンティン・チタニウム株式会社(略称:HTTT社)
- トゥー・ゾアン商業サービス有限会社
- ロン・ヴー商業サービス有限会社
ムオン被告には、▽資源の研究・探査・採掘に関する規定違反、▽会計規定違反(重大な結果を引き起こしたもの)、▽贈賄——の3つの罪名が適用されている。贈賄罪が含まれていることから、行政当局者への不正な資金供与があったことも強く示唆される。
許可量を大幅超過—4年間で約46万トンの過剰採掘
起訴状によると、2020年から2024年にかけて、被告らは年間の許可生産量を大幅に超えてチタン鉱石を採掘し続けた。その超過量は合計45万9,981.024トンに達し、その価値は1,508億ドン超に上るとされる。
ベトナムは世界有数のチタン鉱石埋蔵国であり、中部沿岸地域を中心に豊富な砂鉱床が分布している。チタンはチタン合金や酸化チタン(塗料・化粧品原料)として国際的な需要が高く、ベトナムからの輸出品目としても重要な位置を占める。それだけに、違法採掘による資源の流出は国家的な損失と捉えられている。
二重帳簿と請求書操作—巧妙な脱税スキームの詳細
本件で特に悪質とされるのが、組織的な会計不正による脱税スキームである。ムオン被告は顧客との間で直接交渉し、VAT(付加価値税)請求書に実際の販売価格よりも低い単価を記載することで合意していた。差額分は、指定された個人口座への振込か、フンティン・グループの出納係への現金支払いで処理された。
具体的には、2021年から2024年にかけて、ムオン被告の指示のもと、4万9,820.051トンの鉱石が247億ドン超の価格で販売されたが、実際の取引額との差額は173億ドン超に上った。この差額分について、被告らは独自の帳簿体系を構築して記録し、税務当局には一切申告しなかった。その結果、国家に50億ドン超の税収損害が生じたとされる。
HTZT社とタン・ザー社の取引
2021年から2023年にかけて、フンティン・グループの採掘担当法人であるHTZT社は、タン・ザー鉱産加工有限会社(Công ty TNHH chế biến khoáng sản Thân Gia)に対し、原鉱チタン2万8,500トンを販売した。VAT請求書43枚が発行され、記載された金額は313億ドン超であったが、実際の支払額は1,360億ドン超に達していた。HTZT社はこの1,360億ドン超を帳簿外処理とし、314億ドン超の税収損害を国家に与えた。
中国籍被告の関与—密輸罪も適用
2022年から2024年にかけて、中国籍のホアン・トゥオン・ハ(Huang ShangXia)被告(中国・広西柳豊鉱業有限公司の従業員)がムオン被告と交渉し、請求書上の単価を低く設定して鉱石を購入していた。これにより12億ドン超の税収損害が発生した。ホアン被告には密輸罪と会計規定違反(重大な結果)の二つの罪名が適用されている。中国企業の関与が明らかになったことで、ベトナム産鉱物資源の国際的な違法流通ルートの一端が浮き彫りとなった。
HTTT社とキムティン社の取引
2021年から2022年にかけて、HTTT社はキムティン投資株式会社(Công ty Cổ phần đầu tư Kim Tín)との間で3件のチタン鉱石売買契約を締結した。発行されたVAT請求書6枚には、1万2,317.42トン・242億ドン超と記載されていたが、実際の取引額は830億ドン超であった。これにより159億ドン超の税収損害が生じた。
押収資産と被害回復の状況
捜査当局は本件に関連して、以下の資産を差し押さえ・取引凍結している。
- ラムドン省(ベトナム中部高原地域の省)にある2つのプロジェクト
- 不動産8件
- HTZT社の鉱山および工場にある車両・機械・設備84点
また、被告らおよび関係者はこれまでに685億ドン超を弁済している。さらに、家宅捜索時に2万USDが押収され、公安省汚職・経済・密輸犯罪捜査局の仮預かり口座に入金されている。
会計不正に関与した被告ら
会計規定違反(重大な結果)で起訴された被告は、ムオン被告のほかに以下の人物が含まれる。
- ヴー・ドゥック・フオン・リン(Vũ Đức Phương Linh)—フンティン・グループ副官房長兼フンティン・チタニウム社副社長
- グエン・ティ・ハン(Nguyễn Thị Hằng)—フンティン・グループ従業員
- ゴー・クアン・アイン(Ngô Quang Anh)—タン・ザー鉱産加工有限会社社長
- グエン・アイン・トゥアン(Nguyễn Anh Tuấn)—フンティン・ジルコニウム&チタニウム社経理部長
- ハウ・トゥー・ゾアン(Hậu Tú Doanh)—フンティン・グループ営業担当
組織の上層部から現場の経理担当者まで幅広く起訴されており、グループ全体での組織的関与が認定された形である。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は、ベトナムの鉱業セクターにおけるガバナンスの脆弱性を改めて浮き彫りにした事例である。以下の観点から、投資家やベトナム進出企業にとって重要な示唆がある。
1. 鉱業セクターの規制強化の加速
ベトナム政府は近年、天然資源の違法採掘・輸出に対する取り締まりを大幅に強化している。本件のような大規模摘発は、鉱業関連銘柄の株価にネガティブな影響を及ぼす可能性がある。特に、許認可の透明性や環境規制への適合が問われる局面が増えるだろう。ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)に上場する鉱業関連企業の投資家は、各社のコンプライアンス体制を注視すべきである。
2. 二重帳簿・税務リスクへの警鐘
ベトナムでは中小・中堅企業を中心に、二重帳簿による税務回避が依然として問題視されている。本件で50億ドン超の税収損害が認定されたことは、税務当局の調査能力と摘発意欲が高まっていることを示す。日系企業を含むベトナム進出企業にとっても、取引先の会計処理の健全性を確認するデューデリジェンスの重要性が改めて認識される。
3. FTSE新興市場指数格上げとの関連
ベトナムは2026年9月のFTSE新興市場指数への格上げを目指しており、市場の透明性・ガバナンス向上が喫緊の課題となっている。本件のような大型摘発は、一見ネガティブに映るが、裏を返せばベトナム当局が法の支配と市場の健全化に本腰を入れている証左でもある。国際機関や海外投資家からの信頼獲得に向けた「浄化作用」として評価される可能性もある。
4. 中国企業との資源取引の監視強化
本件で中国籍の被告が密輸罪で起訴されたことは、ベトナムから中国への鉱物資源の違法流出ルートが存在することを公式に認めた形となる。ベトナム政府が資源ナショナリズムの観点からも監視を強化する流れは今後加速すると見られ、鉱物資源の輸出規制や貿易管理の厳格化につながる可能性がある。
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