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ベトナム財務省(Bộ Tài chính)が、未上場証券を含む資本譲渡から得られる所得に対して一律20%の税率を課す新たな提案を打ち出した。現行制度では上場株・未上場株を問わず売却額の0.1%が一律課税される仕組みが採用されているが、今回の提案が実現すれば、未上場株式を売買する個人投資家やスタートアップ関係者に大きなインパクトを与える可能性がある。
提案の概要—何が変わるのか
ベトナムの現行個人所得税法では、証券(上場・未上場を問わず)の譲渡に対しては、譲渡価格の0.1%を課税する「みなし課税方式」が広く利用されている。これは取得コストの立証が困難なケースが多い証券取引において、簡便な徴税を可能にする仕組みとして導入されたものである。
一方、資本譲渡(chuyển nhượng vốn)——すなわち非公開企業の持分や出資金の売買——については、譲渡益(売却額から取得原価・関連費用を差し引いた利益)に対して20%の税率が適用されてきた。今回の財務省の提案は、この「資本譲渡」の枠組みに未上場証券(chứng khoán chưa niêm yết)を明確に含めるというものである。
つまり、これまで未上場株の売買でも0.1%のみなし課税を選択できた個人投資家にとっては、売却益が大きい場合に税負担が大幅に増加する可能性がある。逆に、損失が出た場合には課税所得がゼロとなるため、現行の「売却額×0.1%」よりも有利になるケースも想定される。
背景にある問題意識—税の公平性と市場整備
ベトナムでは近年、未上場株式(OTC市場で取引される株式)の売買が活発化してきた。IPO(新規公開)前の企業株式が個人間で売買されるケースや、スタートアップへのエンジェル投資の増加がその要因である。しかし、現行の0.1%みなし課税は売却額に対して課されるため、巨額の譲渡益を得た投資家であっても極めて低い税率で済む構造になっていた。
財務省はこの状況を「税の公平性」の観点から問題視してきた。上場株式であれば市場価格が透明であり、取引記録も証券会社を通じて明確に残る。一方、未上場株式は取引価格の透明性が低く、実態と乖離した価格での申告も起こりやすい。今回の提案は、未上場証券の譲渡を「資本譲渡」と同じカテゴリーに統合することで、実際の利益に基づいた課税を徹底しようとする狙いがある。
また、ベトナム政府は証券市場の制度整備を急ピッチで進めている最中であり、税制の見直しもその一環と位置づけられる。未上場株取引にまつわる不透明な慣行を是正し、市場全体の信頼性を高める意図が読み取れる。
現行制度との比較
整理すると、現行制度と提案後の制度の違いは以下の通りである。
【現行】
・上場株式の譲渡:売却額の0.1%(みなし課税)
・未上場株式の譲渡:売却額の0.1%(みなし課税)を選択可能
・資本譲渡(非公開企業の持分売買):譲渡益の20%
【提案後】
・上場株式の譲渡:売却額の0.1%(変更なし)
・未上場株式の譲渡:譲渡益の20%(資本譲渡と同等の扱い)
・資本譲渡:譲渡益の20%(変更なし)
上場株式については従来通りの0.1%課税が維持される見通しであり、今回の提案はあくまで「未上場証券」に焦点を当てたものである点に留意が必要である。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響
まず、ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)に上場している銘柄については、直接的な税制変更はないため、上場株の投資家にとっては即座に影響が出るわけではない。しかし、間接的な影響は複数の経路で考えられる。
第一に、未上場株への投資妙味が低下することで、IPO前の株式を保有していた投資家が「上場前に売却する」インセンティブが弱まり、IPOそのものの促進につながる可能性がある。上場すれば0.1%課税の恩恵を受けられるため、企業側にも上場を急ぐ動機が生まれる。これは証券市場の拡大・深化にとってプラス要因である。
第二に、UPCoM(未上場企業株式取引システム)で取引されている銘柄の取り扱いがどうなるかが焦点となる。UPCoMはハノイ証券取引所が運営する登録取引市場であり、正式には「上場」ではなく「登録」という位置づけである。今回の提案で「未上場証券」にUPCoM銘柄が含まれるのかどうかは、今後の法案の詳細次第であり、ここが明確になるまでは市場に不透明感が漂う可能性がある。
日本企業・ベトナム進出企業への影響
ベトナムに進出している日系企業や、現地企業との合弁事業を展開している日本企業にとっても、この税制変更は無関係ではない。たとえば、非上場のベトナム企業に出資している日本企業が持分を売却する場合、法人であれば現行でも資本譲渡として課税対象となっているが、個人投資家の立場で関与しているケースでは影響が出る。また、M&A(合併・買収)の文脈でも、未上場株式の価値評価や税務コストの見直しが必要になるだろう。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連
ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数(Secondary Emerging Market)への格上げが決定される見通しであり、政府は市場の透明性・制度面での整備を急いでいる。今回の未上場株への課税強化提案は、この文脈において「市場の健全性を高める制度改革の一環」として、FTSE側に好印象を与える可能性がある。未上場市場の不透明な取引慣行が縮小し、より多くの企業が正規の上場市場に流入すれば、市場の厚みと流動性が向上するためである。
ベトナム経済全体における位置づけ
ベトナム政府は近年、歳入基盤の強化を政策の柱のひとつに据えている。付加価値税(VAT)の税率引き上げ議論や、グローバルミニマム税(国際最低法人税率15%)への対応など、税制改革が同時並行で進められている。今回の未上場株課税の見直しもこの大きな流れの中に位置づけられるものであり、「高成長の恩恵を享受する投資家にも応分の負担を」という方向性は今後も強まるとみられる。
ただし、提案段階から法律として成立するまでには国会審議を含む複数のプロセスが残されており、具体的な施行時期や細則は未確定である。投資家としては、今後の法案審議の進展を注視しつつ、ポートフォリオにおける未上場株式のポジションを見直す好機と捉えるべきだろう。
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