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米中間の貿易摩擦が再び激化の兆しを見せている。中国商務部は3月27日、米国が発動した「通商法301条」に基づく調査に対抗し、独自の調査2件を開始すると発表した。トランプ大統領の訪中が数週間後に控えるなか、世界の二大経済大国の対立は新たな局面に突入しつつある。ベトナムを含むアジア新興国への波及効果も注視すべき状況である。
中国が米国の301条調査に「対抗調査」を宣言
事の発端は、2025年3月初旬に米国が中国をはじめ数十カ国を対象に発動した、1974年通商法301条に基づく新たな調査である。これは米最高裁判所がトランプ政権の対等関税(いわゆる報復関税)政策を違憲と判断した後に打ち出された措置であり、関税以外の手段で通商上の不均衡に切り込む狙いがある。
これに対し中国商務部は3月27日(金)、「米国が課す貿易障壁に関する調査を加速させ、中国の合法的な権利・利益を断固として守るための対応策を講じる」と表明。具体的には、米国の301条調査そのものがWTO(世界貿易機関)の規定に違反する可能性があるとの認識を示し、2件の対抗調査を開始すると発表した。
米国側は「象徴的な措置に過ぎない」と一蹴
米通商代表部(USTR)のジェイミソン・グリア代表は、中国の対抗調査について「象徴的なものに過ぎない」と切り捨てた。グリア氏は、むしろ中国こそがクリーンエネルギー製品のサプライチェーンを最も攪乱している国であると指摘。過去1年間にわたり、中国がレアアース(希土類)、肥料、精製燃料といった基幹物資の供給を絞ることで、グローバルサプライチェーンに深刻な混乱をもたらしてきたと批判した。
さらにグリア氏は、中国が市場メカニズムに完全には基づかない形で過剰生産能力を構築し、EV(電気自動車)や太陽光パネルを世界中に大量に流出させている現状にも言及。先進国の製造業と労働者に大きな圧力をかけていると強調した。一方で、トランプ大統領と習近平国家主席が合意した「貿易均衡に向けた対話」の枠組みは維持するとも述べ、完全な決裂を避ける姿勢を示している。
パナマ運河問題が新たな火種に
米中摩擦は通商分野にとどまらない。中国商務部の発表の前日(3月26日)、米国連邦海事委員会(FMC)のローラ・ディベラ委員長は、中国がパナマ船籍の船舶を自国の港で一時拘束する動きを見せており、これが世界の海上輸送に影響を及ぼしていると警告した。
この問題の背景には、パナマ運河の港湾運営権をめぐる一連の動きがある。2025年1月、パナマ最高裁は、香港系大手コングロマリットCKハチソン傘下のパナマ・ポーツ・カンパニーがパナマ運河の両端に位置するバルボア港とクリストバル港を運営する権利を無効と判断した。これを受け、パナマ政府は2月、デンマークのマースクとスイスのMSCの米国子会社を暫定運営者として指名した。
CKハチソンはこの決定を不服としてパナマを提訴し、賠償請求額は20億ドル超に上ると報じられている。中国側はCKハチソンの権益を事実上守る立場から、パナマ船籍船の拘束という形で圧力をかけているとみられる。パナマ船籍は米国のコンテナ貨物輸送の相当割合を担っており、ディベラ委員長は「米国の海運に重大な通商上・戦略上の影響を及ぼし得る」と危機感を表明した。
トランプ訪中は5月に延期──イラン情勢が影響
当初、トランプ大統領は3月30日〜4月1日に中国を訪問し、習近平主席と会談する予定であった。しかし、イランにおける軍事的緊張の処理を優先する必要から、訪中は5月14〜15日に延期された。昨年10月に韓国で行われた米中首脳会談では、1年間の「貿易休戦」で合意した経緯があり、今回の訪中ではその延長や新たな枠組みの構築が焦点となるはずであった。
注目すべきは、中国の国営メディアが最近、米国に対する直接的な批判を抑制していた点である。ベネズエラやイランといった中国と関係の深い国々に対して米国が軍事・外交面で動いているにもかかわらず、中国側は公にはトーンを落としていた。しかし通商分野に関しては、今回の対抗調査が示すように一歩も引かない姿勢を明確にしている。外交と通商を切り分ける中国の戦略的な対応が見て取れる。
投資家・ビジネス視点の考察──ベトナムへの影響
米中貿易摩擦の再燃は、ベトナム経済と株式市場に複数の経路で影響を与える。
1. サプライチェーン移転の加速:米国の301条調査は中国だけでなく数十カ国を対象としているが、中国企業が関税回避のためにベトナムを経由地として利用する「迂回輸出」への監視強化が予想される。短期的にはベトナムの輸出にもリスクとなるが、中長期的には「チャイナ・プラスワン」戦略の受け皿としてベトナムが選ばれる構図は変わらない。工業団地を運営するキンバックシティ(KBC)やベカメックス(BCM)などの関連銘柄は引き続き注目に値する。
2. レアアース・基幹物資のリスク:中国がレアアースや肥料の供給を絞っていることは、ベトナムの製造業にも打撃を与えうる。特に電子部品やハイテク製造業への部材供給の安定性が課題となる。一方で、ベトナム自身もレアアース埋蔵量が世界第2位とされており、資源開発分野での投資機会が中長期的に拡大する可能性がある。
3. 海運リスク:パナマ船籍船の拘束問題が長期化すれば、グローバルな海上輸送コストの上昇につながり、輸出依存度の高いベトナム経済にとってマイナス要因となる。港湾関連銘柄(ジェマデプト〈GMD〉など)の動向にも注意が必要である。
4. FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に判断が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、米中摩擦が激化するほど「中国リスク回避」の文脈で追い風となりうる。グローバル投資家が中国株のウエイトを落とす際、ベトナムが代替先として選好される余地がある。ただし、迂回輸出問題で米国からベトナム自体が標的にされるシナリオには警戒が必要である。
5. 日本企業への影響:ベトナムに製造拠点を持つ日本企業にとって、米中摩擦の激化は「ベトナム活用のメリット拡大」と「対米輸出規制の巻き添えリスク」という両面がある。原産地規則の厳格化や米国側の新たな調査対象にベトナムが加わる可能性も視野に入れ、サプライチェーンの透明性確保と多元化を進めることが肝要である。
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