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ベトナム最大の国有通信グループであるViettel(ベトテル、正式名称:軍隊工業・通信グループ)が、ベトナム企業の海外投資を国家戦略として体系化する「国家プログラム」の策定を政府に提言した。2026年第1四半期の業績が前年同期比19%増、海外事業に至っては約30%の成長を記録したことを背景に、ベトナム経済の「二桁成長」実現に向けた具体的な制度設計を求めた形である。
Viettel会長が首相主催の企業会議で提言
2026年3月27日、ベトナム政府が主催した「二桁成長への企業の貢献と首相による企業への感謝」と題された会議において、Viettelのタオ・ドゥック・タン会長兼社長が発言に立った。タン会長は、2026年初頭からViettelが全事業領域で同時多発的に成長施策を展開してきたことを説明し、第1四半期の実績を報告した。
具体的には、2026年第1四半期の生産・経営実績として、四半期計画の107%を達成し、前年同期比で19%の成長を記録した。特筆すべきは海外投資事業で、約30%という高い成長率を維持し、グループ全体の成長に対する貢献度は約60%に達している。つまり、Viettelの成長エンジンはもはや国内市場ではなく海外事業にあるということだ。
なぜ今「海外経済圏の拡大」が必要なのか——3つの根拠
タン会長は、ベトナム企業の海外投資を国家レベルで推進すべき理由として、3つの論拠を示した。
第一に、ベトナムの国際的地位の向上である。党と国家の指導のもと、経済外交がすでに戦略的な尖兵となっており、海外投資を後押しする外交的基盤が整ってきたという認識だ。
第二に、党の政策的裏付けである。政治局が発出した決議第59号(新情勢下の国際統合に関する決議)では「ベトナム企業の効果的な海外投資・経営を奨励し、国際水準の国家ブランドを構築・保護する」ことが明記されている。さらに、民間経済に関する決議第68号、国家経済に関する決議第79号はいずれも、ベトナム企業が地域・世界のトップ企業群に入ることを目標として掲げている。
第三に、すでに海外投資の実績を持つ企業群が育っている点である。タン会長は具体例として、1998年からソフトウェア輸出戦略を開始したFPT(ベトナム最大手のIT企業)、約24年にわたりグローバルなエネルギープロジェクトで実績を積んできたPetroVietnam(ベトナム石油ガスグループ)、約10年にわたり米国・欧州向けの自動車輸出を進めてきたVinGroup(ベトナム最大手のコングロマリット)、そしてViettel自身の20年以上に及ぶ通信・デジタルソリューション分野での海外投資経験を挙げた。
加えてタン会長は、海外投資が経済的効果にとどまらず、党の対外活動、国家外交、国防外交にも貢献すると指摘した。2024年7月13日にトー・ラム党書記長(当時)がカンボジアのViettel拠点を訪問した際に述べた「海外投資は経済的利益だけでなく、政治・外交・国防の国家利益に資し、ベトナムのイメージと地位の向上に貢献する」という発言も引用された。
6つの戦略的柱——日韓中のモデルを意識した構想
タン会長は、海外投資戦略の基盤となる6つの要素を整理した。
①思考の転換:国際的な経済空間の拡大を「国家成長の重要な柱」と位置づけるべきとした。海外投資は単に「外へ出る」ことではなく、外への展開と同時にグローバルな資源をベトナムに引き込む「双方向型」の経済運営であるという発想だ。
②対象空間の拡大:従来の市場に加え、ASEAN、南アジア、中東、アフリカ、中南米といったベトナムの展開能力に適した新興市場への注目を呼びかけた。同時に、先進国市場にも積極的にアプローチし、技術・基準のアップグレードを図り、ベトナム自体をグローバルな価値連鎖の結節点とすべきだとした。
③優先分野:戦略的インフラ、ハイテク産業、国際的な支出を呼び込める高付加価値サービス業を重点分野として挙げた。
④競争優位の活用:適応力の高い人材、合理的なコスト、大規模なインフラ・サービス展開の経験、深い国際統合ネットワーク、そして国際関係における「バランスの取れた地位」をベトナム固有の強みとして列挙した。特に、製品だけでなく「ビジネスモデルそのもの」を輸出できる能力に言及した点は注目に値する。
⑤組織体制:主力経済グループを「国家ゼネコン」として位置づけ、エコシステム型で他企業を牽引しながらバリューチェーン全体で海外展開する体制の構築を求めた。これは日本の総合商社・財閥モデル、韓国の財閥モデル、そして中国が大規模に展開中のモデルを意識した構想である。
⑥制度・政策:国家レベルのアプローチが不可欠であるとし、日本のJETRO(日本貿易振興機構)やJICA(国際協力機構)、韓国のKOTRA(大韓貿易投資振興公社)やKOICA(韓国国際協力団)、中国の一帯一路戦略を先行事例として挙げた。
5つの具体的提言——政府保証による地政学リスクのヘッジも
これら6つの柱を踏まえ、タン会長は以下の5つの具体的施策を提案した。
(1) 国際的な経済空間拡大に関する「国家プログラム」の策定。
(2) 主力グループが新技術分野や戦略的市場に投資する際の、リスク許容を含む特別メカニズムの試験的導入。
(3) グローバルな地政学的変動から企業を保護するための、政府レベルの金融メカニズムおよびリスク保証の創設。
(4) 在外公館の役割を、実質的な市場開拓の拠点へとアップグレード。
(5) 国家間で締結済みの協力合意の実施状況を定期的に検証・評価し、実質的な効果を担保すること。
タン会長は「国家レベルの組織構造を形成しなければ、ベトナム企業は引き続き個別バラバラに海外へ出ることになり、グローバルな競争力を構築することは困難だ。国際的な経済空間の拡大は選択肢ではなく、ベトナムが次の段階で飛躍するための必須の道である」と力を込めた。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の提言は、単なる一企業の要望ではなく、ベトナム経済の構造的転換を示唆する動きとして注目すべきである。以下、いくつかの視点で考察する。
■ Viettel関連銘柄・ベトナム株市場への影響
Viettel自体は非上場だが、傘下のViettel Global(VGI)はホーチミン証券取引所に上場しており、海外通信事業の成長が直接的に業績に反映される。海外事業が約30%成長し、グループ全体の成長の約60%を占めるという実績は、VGIの投資妙味を裏付けるデータである。国家プログラムが実現すれば、政府保証や特別メカニズムの恩恵を最初に受ける企業群にViettelが入る可能性は極めて高い。
■ 日本企業への示唆
興味深いのは、タン会長がJETROやJICAを「手本」として明示的に言及している点だ。ベトナム版JETROのような組織が設立されれば、ベトナム企業の海外展開が加速するだけでなく、日本企業との協業機会も広がる可能性がある。特にインフラ分野では、Viettelが「国家ゼネコン」として第三国市場でのプロジェクトを受注する際、日本企業がサプライチェーンの一角として参画するケースも想定される。
■ FTSE新興市場指数への格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げは、ベトナム市場へのグローバル資金流入を大幅に拡大させる。こうしたタイミングで「ベトナム企業のグローバル化」が国家戦略として打ち出されることは、海外投資家に対して「ベトナムは投資を受け入れるだけの国ではなく、自ら海外に投資し価値を創出する国である」というメッセージを発信する効果がある。国としてのリスクプレミアムの低下にもつながり得る。
■ 地政学的文脈
米中対立が長期化し、サプライチェーンの再編が進む中で、ベトナムが国際関係における「バランスの取れた地位」を競争優位として明示的に打ち出した点は極めて戦略的だ。これは、ベトナム企業がどの陣営の市場にもアクセスできるという中立的ポジションを、経済的価値に転換しようとする試みと読める。FPT、VinGroup、PetroVietnamといった具体名を列挙したことで、ベトナムの「グローバル企業候補群」の輪郭が明確になった点も、投資判断の材料として重要である。
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