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ベトナム国家資本投資公社(SCIC)の子会社であるSIC(SCIC Investment Company)が、ベトナムIT最大手FPT(ホーチミン証券取引所上場、銘柄コード:FPT)の株式を当初計画の200万株に対し、わずか25万株(計画比12.5%)しか購入できなかったことが明らかになった。市場の変動が購入計画の未達成の主因とされるが、FPT自体の2026年序盤の業績は堅調であり、投資家にとっては複合的な情報を読み解く必要がある局面である。
SICによるFPT株取得の経緯と結果
SICは2025年2月25日から3月26日までの期間に、FPT株200万株を買い付ける計画を登録していた。取引目的は「財務投資」であり、取引所での板寄せ(マッチング注文)および相対取引(交渉取引)のいずれか、または双方の方法での購入を予定していた。
しかし、取引期間が終了した時点で実際に取得できたのは25万株にとどまり、これはFPTの発行済株式総数のわずか0.015%に相当する。SICは未達の理由について「市場の変動」を挙げている。
SICはSCIC(ベトナム政府が保有する大型国有企業の株式を一括管理・運用する投資公社)の関連組織であり、FPTの内部関係者に関連する組織として報告義務を負っている。SCICはかつてFPTの大株主であったが、段階的に持ち分を縮小してきた経緯がある。今回の買い付け計画は「買い増し」の動きとして市場の注目を集めていたが、結果的に計画の8分の1程度で終わったことになる。
FPTの2026年1〜2月業績:成長は継続
FPTが公表した2026年1〜2月の速報ベースの業績は以下の通りである。
- 連結売上高:7兆9,000億ドン(前年同期比+7%、VCSCの2026年通期予想の14%に相当)
- 少数株主持分控除後の純利益:1兆6,000億ドン(前年同期比+16%、VCSCの2026年通期予想の15%に相当)
VCSC(ベトナム大手証券会社ヴィエットキャピタルセキュリティーズ)は、この2カ月間の実績は同社の2026年通期予想と概ね整合的であり、現時点で予想を大きく修正する必要はないとの見解を示している。VCSCが提示するFPTの目標株価は1株あたり116,600ドンである。
セグメント別の業績詳細
海外IT事業(最注目セグメント)
FPTの成長エンジンである海外IT事業は、売上高が前年同期比+12%、税引前利益が同+9%と引き続き拡大基調にある。VCSCの分析によれば、成長を牽引しているのはDX(デジタルトランスフォーメーション)サービスであり、前年同期比+15%の伸びを見せ、海外IT売上高全体の48%を占めるに至っている。
市場別では、日本市場がFPTにとって最大の売上貢献市場であり続けており、2026年1〜2月の売上高は前年同期比+24%と突出した伸びを記録した。FPTは日本市場において長年にわたりオフショア開発のパートナーとして存在感を高めてきたが、近年はDXコンサルティングやAI関連サービスへと事業領域を拡大しており、日本企業のIT投資拡大の追い風を受けている格好である。
また、新規受注額は2026年1〜2月で10兆ドンに達し、前年同期比+21%と力強い伸びを示した。受注残の積み上がりは、今後数四半期にわたる売上計上の裏付けとなるため、投資家にとって重要な先行指標である。
国内IT事業
国内IT事業の売上高は前年同期比で横ばいとなった。ただしVCSCは、報告期間が2カ月と短いことから、すでに署名済みの契約がまだ初期段階にあり、売上として計上されていないケースがある点を指摘しており、現時点で過度に悲観する必要はないとしている。
教育・投資・その他
教育セグメントの売上高は前年同期比−8%と減少した。これは2025年末時点で在籍者数が前年末比−8%と減少していたことの「タイムラグ」による影響である。新規入学者数が横ばいであった一方、卒業・退学による減少が大きかったことが背景にある。一方で税引前利益は前年同期比+17%と増益を確保しており、関連会社からの利益貢献が寄与している。
2026年4月16日の株主総会と経営計画
FPTは2026年4月16日にハノイのFPTタワー(10 Pham Van Bach通り、カウザイ区)で定時株主総会を開催する予定である。総会に提出される2026年度の経営計画は、FPTテレコム(通信子会社)の連結除外後のLFL(Like-for-Like、同一基準)ベースで以下の通りとなっている。
- 売上高計画:58兆5,800億ドン(前年同期比+16%、VCSCのLFL予想の103%に相当)
- 税引前利益計画:11兆6,290億ドン(前年同期比+15%、VCSCのLFL予想の117%に相当)
VCSCは、特に利益計画がVCSC予想を上回っている点に注目し、「現在の予想に対して上振れの可能性がある」としつつ、詳細な精査が必要との姿勢を示している。
配当政策とESOPプログラム
FPTが株主総会に提案する還元策は多岐にわたる。
- 2025年度現金配当:1株あたり2,000ドン(利回り2.6%)。うち1,000ドンは2025年中に中間配当として支払い済みであり、残りの1,000ドンは2026年第2四半期に支払い予定。
- 株式配当:10%の比率で株式配当を実施(10株保有につき1株の新株を付与)。2026年第3四半期までに実施予定。
- 2026年度現金配当:株式配当後の新発行株式数ベースで1株あたり最大2,000ドン(利回り2.6%)。現行株式数ベースに換算すると1株あたり2,200ドン(利回り2.9%)に相当。
- ESOP(従業員向け株式報酬):2026〜2028年の3カ年プログラムとして、毎年発行済株式数の最大0.5%を、1株10,000ドンの価格で重要貢献者に付与。株式は3年間の譲渡制限付きで、2027〜2029年の3回に分けて発行される。
株式配当10%の実施は、既存株主にとっては持ち株数の増加というメリットがある反面、発行済株式数の増加による1株あたり利益(EPS)の希薄化効果も伴う点は留意が必要である。
投資家・ビジネス視点の考察
SCICの買い付け未達が意味するもの:SICがFPT株を計画通り買えなかった最大の理由は「市場の変動」とされている。FPT株は2025年末から2026年初にかけて値動きが激しく、購入希望価格帯で十分な売りが出なかった可能性が高い。これは裏を返せば、FPT株への市場の評価が底堅く、大口の買い手であっても安値での大量取得が難しい状況にあることを示唆している。
日本市場の重要性:FPTの海外IT事業において日本市場が前年同期比+24%という突出した成長を見せている点は、日本の投資家にとって特に注目に値する。日本企業のDX需要は引き続き旺盛であり、FPTは日本語対応可能なエンジニアの大量育成や、日本国内拠点の拡充を進めている。FPTの成長は、日本のIT人材不足という構造的な問題と表裏一体であり、今後も日本市場からの受注拡大が期待できる。
FPTテレコムの連結除外:2026年度の経営計画がLFL(FPTテレコム除外後)ベースで示されている点は重要である。FPTは通信子会社FPTテレコムの持ち分を段階的に手放す方向にあり、今後はITサービスと教育を中心とした「テクノロジー純粋企業」としての性格が強まる。これは株式市場においてバリュエーションの見直し(テック企業としてのプレミアム付与)につながる可能性がある。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナム株式市場は2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みであり、実現すればグローバルな機関投資家からの資金流入が期待される。FPTはベトナム株式市場の時価総額上位銘柄であり、格上げの恩恵を最も受ける銘柄の一つと見られている。SCICの関連会社が「財務投資」目的でFPT株の買い増しを図った背景にも、こうした中長期的な値上がり期待があると考えられる。
VCSCの目標株価116,600ドンの評価:VCSCは2カ月間の速報値を踏まえても予想を大きく変更する必要はないとしているが、会社計画がVCSC予想の利益ベースで117%に相当する点は注目すべきである。今後の四半期決算で計画通りの進捗が確認されれば、目標株価の上方修正が行われる可能性もある。
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