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ベトナムが国家エネルギー戦略の柱として掲げる洋上風力発電について、外国人投資家を呼び込むための制度・政策面の整備が依然として大きな課題となっている。制度の不透明さ、インフラ不足、許認可の一貫性欠如が重なり、巨額の資本を必要とする洋上風力プロジェクトへの海外資金流入が伸び悩んでいる状況である。ベトナム経済誌『Tạp chí Kinh tế Việt Nam』(ベトナム経済タイムズ)2026年3月30日発行号が詳報した。
国家電力計画VIII(PDP8)が描く壮大な洋上風力ロードマップ
ベトナム政府が策定した「2021〜2030年国家電力発展計画(2050年までの展望)」、通称「電力計画VIII(PDP8)」の調整版によれば、国内需要向けの洋上風力発電の総設備容量目標は約6,000〜17,032MWとされ、2030〜2035年にかけて順次運転を開始する計画である。
さらに長期的には2050年までに113,503〜139,097MWへと拡大させる構想が打ち出されている。これは洋上風力発電をベトナムの国家エネルギーシステムにおける最重要な柱の一つへと位置づけるという、極めて野心的なビジョンである。仮にこの上限値が実現すれば、世界でも有数の洋上風力大国となるポテンシャルを秘めている。
ベトナムは南北に約3,260キロメートルにわたる長い海岸線を持ち、特に南中部沿岸やメコンデルタ沖では年間を通じて安定した風況が確認されている。世界銀行の過去の調査でも、ベトナムの洋上風力発電ポテンシャルは東南アジアで最大級と評価されており、理論上の潜在容量は数百GWに達するとされてきた。
「10〜15年前の台湾と同等」—海外投資家の評価
外国人投資家の間では、現在のベトナムは洋上風力市場の発展段階として10〜15年前の台湾に匹敵する条件を備えているとの見方が広がっている。台湾はその後、制度整備と政府の強力なコミットメントにより、アジア有数の洋上風力市場へと成長を遂げた。デンマークのオーステッド(Ørsted)や日本のJERA(ジェラ)など大手がこぞって参入し、巨大プロジェクトが次々と稼働している。
こうした「台湾モデル」の成功例を背景に、ベトナム市場には国際的な投資家の関心が高まっている。その対象はプロジェクト開発のみならず、機器・設備のサプライチェーン、技術サービス、支援インフラに至るバリューチェーン全体に及んでいる。欧州やアジアの大手風力開発事業者、タービンメーカー、海底ケーブル施工企業などが、ベトナム市場の動向を注視している状況である。
立ちはだかる3つの壁—制度、許認可、インフラ
しかしながら、現状ではいくつかの深刻な障壁が外国人投資家の本格参入を阻んでいる。
第一に、政策・法制度の不透明さである。洋上風力に関する調査許可の発行、海域の配分、プロジェクト承認に関する政策枠組みが明確さと一貫性を欠いている。探査段階から建設・運転開始に至るまでの一貫したロードマップの構築が困難な状態が続いている。ベトナムでは現在、洋上風力発電に特化した包括的な法律がまだ整備途上にあり、海域利用権、環境アセスメント、送電網接続の手続きなど、複数の省庁にまたがる規制の調整が課題となっている。
第二に、投資判断の遅延とリスクの増大である。上記の制度的不確実性は、投資意思決定プロセスを大幅に遅延させるだけでなく、リスクプレミアムを著しく押し上げる要因となっている。洋上風力プロジェクトは準備段階から運転開始まで通常7〜8年を要する。プロジェクト規模は最大1,000MWに達し、1プロジェクトあたりの総投資額は40〜50億ドルにも上る。これだけの資本を長期間にわたって投じるプロジェクトにおいて、政策や手続きに関する不確実性は、国際資本にとって看過できない障壁となる。
第三に、技術インフラと施工能力の不足である。大規模洋上風力プロジェクトに対応するための港湾設備、造船施設、洋上設置用の専用船団が国内ではまだ十分に整っていない。特に大型・高出力タービン(近年では15MW超級が主流になりつつある)の輸送・据付や、複雑な洋上施工に対応できる体制が不足している。これは建設コストの上昇や工期の長期化に直結するため、プロジェクトの経済性を左右する重大な要素である。
専門家が提言する「透明性・安定性・予見可能性」の三原則
こうした課題を踏まえ、専門家や業界関係者は、ベトナムが外国投資を持続的に呼び込むためには、政策とマーケットの「エコシステム」を以下の三つの原則に基づいて構築する必要があると提言している。
すなわち、①透明性(Transparency)—許認可プロセスや入札制度を明確にすること、②安定性(Stability)—政策変更リスクを最小化し、長期にわたる投資回収の見通しを担保すること、③予見可能性(Predictability)—開発スケジュールや電力買取価格(FIT/入札価格)の中長期的な方向性を示すことである。
加えて、外国人投資家が特に強調しているのが、ベトナム国内企業と国際企業の間の「戦略的パートナーシップ」の構築である。洋上風力のバリューチェーンにおいて、現地企業が基礎・鋼構造物の製造、港湾オペレーション、O&M(運転保守)などの分野でローカルコンテンツを高めていくことが、長期的な市場発展とコスト競争力の確保に不可欠とされている。台湾や韓国でもこの「ローカルコンテンツ要件」の段階的導入が市場成熟に寄与した経緯がある。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は、ベトナム株式市場および関連産業に対して中長期的に大きなインパクトを持つテーマである。以下の観点から注目に値する。
関連銘柄への影響:ベトナム上場企業のうち、再生可能エネルギー事業を展開するBCG Energy(BCGエナジー)、PVパワー(POW)、ペトロベトナム技術サービス(PVS)などが洋上風力関連の恩恵を受ける可能性がある。特にPVS(ペトロベトナム技術サービス総公社)は石油・ガス分野で培った洋上施工の技術・船舶を持ち、洋上風力への転用が期待されている銘柄である。ただし、制度整備が遅れる限り、実際のプロジェクト受注や収益への寄与は先送りとなるリスクがある。
日本企業への影響:日本からはJERA、住友商事、丸紅、三菱商事などの大手商社・電力会社がベトナムのエネルギー市場に関心を示してきた。洋上風力は1件あたり40〜50億ドル規模の巨大プロジェクトであり、日本のEPC(設計・調達・建設)企業や重電メーカー(三菱重工、日立など)にとっても潜在的な事業機会となる。しかし、政策の不透明さが解消されるまでは、最終投資決定(FID)を下すことは難しいと見られる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に判断が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、海外からの資金流入が加速し、エネルギーインフラ関連セクターにも恩恵が波及する可能性がある。洋上風力のような大型インフラ投資の成否は、ベトナムが「投資適格国」としての信頼を国際社会から得られるかどうかにも密接に関わっている。
ベトナム経済全体のトレンド:ベトナムは製造業の集積地として急速に成長しているが、電力需要の急増に供給が追いつかないリスクが常に指摘されている。洋上風力の本格稼働が遅延すれば、2030年代前半の電力不足が深刻化する恐れがあり、これは製造業のサプライチェーン全体、ひいては外国直接投資(FDI)の誘致にもマイナスに作用し得る。逆に、制度整備が進み洋上風力プロジェクトが順調に立ち上がれば、ベトナムのエネルギー安全保障とグリーントランジションの両面でポジティブなシグナルとなるだろう。
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