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ホーチミン市近郊の大規模都市開発プロジェクト「Aqua City(アクアシティ)」を手がけるAqua City社(Công ty TNHH Thành phố Aqua)の2025年業績が大幅に悪化した。住宅引渡し件数が前年比で約5分の1に落ち込み、税引後利益もほぼ同じ割合で急減している。ベトナム不動産市場の回復が叫ばれる中、同プロジェクトが直面する現実は、セクター全体の課題を映し出すものである。
Aqua Cityとは何か——ベトナム南部最大級の新都市開発
Aqua Cityは、ベトナム南部のドンナイ省(Đồng Nai、ホーチミン市中心部から東へ約30〜40km)に位置する大規模複合開発プロジェクトである。開発面積は約1,000ヘクタールにおよび、住宅・商業・教育・医療施設を一体的に整備する「ニュータウン」として、発売当初から大きな注目を集めた。
同プロジェクトの実質的な開発主体は、ベトナム不動産大手ノヴァランド・グループ(Novaland Group、ホーチミン証券取引所上場・ティッカー:NVL)である。Aqua City社はノヴァランド傘下のプロジェクト会社として設立され、販売・引渡し・管理運営を担っている。ノヴァランドは2022年後半以降の不動産市場冷え込みと資金繰り問題で深刻な経営難に陥り、複数のプロジェクトで工事遅延や引渡し延期が発生してきた経緯がある。
2025年の業績——引渡し件数が約5分の1に
報道によれば、Aqua City社の2025年における住宅引渡し件数は前年比で約5分の1に激減した。不動産デベロッパーの収益は住宅の引渡し時点で計上されるため、引渡し件数の減少はそのまま売上高・利益の急落に直結する。結果として、同社の2025年の税引後利益も前年比で約5分の1の水準にまで落ち込んだとされる。
引渡し件数が大幅に減少した背景には、複数の要因が絡み合っている。まず、Aqua Cityプロジェクトは過去数年にわたり法的手続きの遅延に悩まされてきた。ベトナムでは不動産開発に必要な許認可が中央・地方の複数省庁にまたがるため、手続きの停滞がプロジェクト全体の進捗を大きく左右する。Aqua Cityもドンナイ省当局との土地使用権関連の手続きや建設許可の取得で遅れが生じ、完成済み住宅であっても正式な引渡しができない状態が続いていた。
加えて、親会社ノヴァランドの財務状況が依然として厳しいことも影響している。ノヴァランドは社債の償還延期や債権者との交渉を続けており、新規の建設資金投入が制約される状況にある。こうした資金面の制約は、インフラ整備や住宅の最終仕上げ工事にも波及し、引渡し可能な物件数を抑制する一因となっている。
ベトナム不動産市場の「回復」と「二極化」
ベトナム政府は2023年以降、不動産市場の回復に向けた政策を矢継ぎ早に打ち出してきた。2024年8月には改正土地法・改正住宅法・改正不動産事業法のいわゆる「不動産三法」が施行され、許認可手続きの簡素化や外国人の住宅購入要件の緩和などが進められている。2025年に入ってからはホーチミン市を中心に新規プロジェクトの認可が加速し、一部のデベロッパーでは販売が好調に推移している。
しかし、市場全体の回復は一様ではなく、「二極化」が鮮明になりつつある。財務基盤が強固で法的リスクの少ないプロジェクトを持つ大手デベロッパー——たとえばビンホームズ(Vinhomes、ティッカー:VHM)やキョイランド(Khang Điền、ティッカー:KDH)など——は引渡しを順調に進め、業績を伸ばしている。一方、ノヴァランドのように過去の過剰投資や社債問題を抱える企業は、法的問題の解決に時間を要し、回復の波に乗り切れていない。Aqua Cityの業績急落は、こうした二極化の「負の側」を端的に示す事例である。
ドンナイ省の開発ポテンシャルと課題
ドンナイ省はホーチミン市に隣接し、ロンタイン国際空港(Long Thành、2026年開港予定の新空港)の建設地でもあることから、中長期的には不動産需要の高いエリアとして位置づけられている。日系企業の工業団地進出も多く、物流・製造業の集積地として経済成長が見込まれる地域である。
Aqua Cityの立地自体は、ロンタイン空港や高速道路網へのアクセスが良好であり、完成すれば高い資産価値を持つポテンシャルがある。問題は、そのポテンシャルがいつ現実の収益に転換されるかという「時間軸」にある。購入者の中には、2020〜2021年の不動産ブーム期に購入契約を結びながら、数年経っても引渡しを受けられていない層が相当数存在するとみられ、消費者保護の観点からも注視が必要である。
投資家・ビジネス視点の考察
ノヴァランド(NVL)株への影響:Aqua Cityはノヴァランドのフラッグシッププロジェクトのひとつであり、引渡し遅延の長期化は同社の連結業績と株価に直接的なマイナスインパクトを与える。NVL株は2022年の急落以降、低迷が続いており、今回の報道はさらなる下押し圧力となり得る。ただし、ノヴァランドが債務再編を進め、ドンナイ省との法的問題を解決できれば、大量の引渡しが一気に計上される「業績の谷からの反転」シナリオも否定できない。投資判断にあたっては、四半期ごとの引渡し件数と許認可の進捗を注視すべきである。
不動産セクター全体への示唆:ベトナム不動産セクターは2025〜2026年にかけて本格回復期に入るとの見方が市場のコンセンサスであるが、銘柄選別の重要性がかつてなく高まっている。法的リスクが低く、キャッシュフローの安定した企業(VHM、KDHなど)と、過去の負の遺産を抱える企業(NVLなど)との間のパフォーマンス格差は、当面拡大する可能性がある。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に最終判定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、海外からの資金流入を大幅に増やすと期待されている。格上げが実現すれば、流動性の高い大型優良株を中心に恩恵を受けるが、法的リスクや財務リスクを抱える銘柄にはむしろ「選別の目」が厳しくなる可能性がある。グローバル機関投資家はガバナンスや法的透明性を重視するため、ノヴァランドのようなケースは格上げメリットを享受しにくい立場にある。
日系企業への影響:ドンナイ省に工業団地を構える日系企業にとって、周辺の住宅・生活インフラの整備状況は駐在員の生活環境や現地従業員の通勤利便性に直結する。Aqua Cityのような大規模開発の遅延は、エリア全体の生活環境整備の遅れを意味し、間接的に日系企業の人材確保にも影響し得る点は留意が必要である。
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出典: 元記事(VnExpress)












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