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中東の地政学リスクを起点とする物流コストの高騰が、ベトナムの畜産・水産業を直撃している。飼料原料の65%超を輸入に依存する同国では、ホルムズ海峡の輸送混乱が原料価格を押し上げる一方、豚肉・鶏肉・エビの出荷価格は軒並み下落しており、生産者は「コスト高・売値安」の典型的なシザース(鋏状)現象に苦しんでいる。
飼料原料の輸入動向——2026年第1四半期は10.5億ドル
ベトナム農業環境省によると、2026年3月の飼料・飼料原料の輸入額は約4億2,000万ドルとなり、第1四半期の累計は約10億5,000万ドルに達した。これは前年同期比で9.5%の減少である。金額ベースでは縮小しているものの、これは数量減というよりも調達先の再編によるところが大きい。
主要調達先の構成は大きく変動した。米国が全体の26.5%を占め、前年同期比48.8%増と大幅に拡大。中国も9.8%のシェアながら33.3%増加した。一方、アルゼンチンは21.7%のシェアを維持しつつも62%の大幅減となった。特筆すべきはカナダで、輸入額が前年同期の2.6倍に急増している。逆にブラジルからの輸入は66.8%もの急減を記録した。
この調達先の変動は、南米の天候不順や為替変動に加え、中東情勢の悪化に伴う海上輸送ルートの混乱が複合的に影響した結果とみられる。
物流コスト上昇が飼料価格を押し上げ
ベトナムは飼料原料の65%超、飼料添加物に至っては90%以上を輸入に頼っている。このため、ホルムズ海峡周辺の緊張による海上輸送費の高騰は、国内の飼料生産コストに直結する。
2026年初頭から、多くの飼料メーカーが製品価格を1kgあたり100〜300ドン引き上げた。3月に入り中東情勢がさらに悪化すると、燃料費の上昇が輸送コストを押し上げ、完成飼料の国内価格は一段と上昇した。
具体的には、メコンデルタの主要省であるアンザン省(An Giang)では、家畜・家禽・水産用飼料が2月末と比べて1袋(25〜40kg)あたり7,000〜12,000ドン上昇している。主な価格水準は以下の通りである。
- 子豚用飼料:約48万ドン/袋(25kg)
- 肉豚用飼料(14〜30kg段階):36万〜37万ドン/袋
- その他家畜用飼料:33万〜35万ドン/袋
- 家禽用飼料:26万〜37万ドン/袋
出荷価格は下落——豚肉・鶏肉が全国的に値下がり
コストが上がる一方で、畜産物の出荷価格は逆方向に動いている。2026年3月の生体豚価格は、供給過剰と消費の低迷を背景に全国3地域すべてで下落した。
- 北部:2月末比7,500ドン/kg減の6万2,000〜6万3,000ドン/kg
- 中部・中部高原:同5,900ドン/kg減の6万1,000〜6万8,000ドン/kg
- 南部:同2,500ドン/kg減の6万7,000〜6万9,000ドン/kg
鶏肉も同様に下落している。地鶏(有色羽鶏)は北部で4,000ドン/kg減の5万4,000ドン/kg、中部で2,200ドン/kg減の4万7,000ドン/kg、南部で2,700ドン/kg減の4万6,000ドン/kgとなった。ブロイラー(工業鶏)はさらに下落幅が大きく、北部で1万ドン/kg減の3万ドン/kg、中部で8,000ドン/kg減の2万2,000ドン/kgまで落ち込んでいる。
なお、鶏卵は例外的に全国3地域で1個あたり160〜500ドンの小幅上昇を見せた。
国際市場では、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の2026年4月限豚肉先物が4.95USセント/ポンド安の90.775USセント/ポンドに下落した一方、生体牛先物は6.275USセント/ポンド高の238.5USセント/ポンドとなり、供給減を反映して堅調に推移している。
エビ市場も下押し——米国の反ダンピング税見直しが影響
水産分野では、2026年年初に好調だったエビ価格が3月に入り調整局面に入った。ソクチャン省(Sóc Trăng)、バクリエウ省(Bạc Liêu)、カマウ省(Cà Mau)といったメコンデルタの主要養殖地域で、バナメイエビ(白脚エビ)の価格が顕著に下落している。
カマウ省の具体的な価格をみると、20尾/kgサイズが約1万2,000ドン/kg下落して21万〜21万5,000ドン/kg、30尾/kgサイズは1万6,000ドン/kgもの下落で13万6,000〜14万1,000ドン/kgとなった。その他のサイズも2,500〜6,000ドン/kgの下落を記録している。
この下落の主因は、米国による反ダンピング関税の第19回行政見直し(POR19)で、暫定税率が市場予想を上回る水準に設定されたことである。これを受け、輸出向け加工企業が原料調達に慎重姿勢をとり、産地での買い付け価格が下がった格好だ。
唯一の明るい材料——パンガシウス(チャー魚)は堅調
厳しい環境が続く中で、パンガシウス(ベトナム語で「cá tra」、日本ではバサとも呼ばれるナマズの一種)は例外的に好調を維持している。2026年3月、メコンデルタにおけるパンガシウスの原料買取価格は高水準を継続し、ドンタップ省(Đồng Tháp)では700g〜1kgサイズが3万2,000〜3万4,000ドン/kgと、前月比約500ドン/kgの上昇となった。パンガシウスはベトナム水産輸出の主力品目の一つであり、この堅調さは輸出需要の底堅さを反映している。
政府と業界の対応策——原料自給率の向上が急務
農業環境省および業界団体は、サプライチェーン断絶リスクに対する複数の対応シナリオを策定している。主な方向性は以下の通りである。
- 国内原料の自給率向上:トウモロコシ、大豆、飼料作物の国内生産拡大
- 飼料配合の最適化:農業副産物や食品加工副産物など代替原料の研究・活用
- 物流の効率化:長期輸送契約の締結によるコスト安定化
- 輸入先の多角化:南米など新規調達先の開拓で特定市場への依存度を低減
- 戦略的備蓄倉庫の整備:国際市場の急変動に備えた国内原料備蓄体制の構築
長期的には、国内の原料生産基盤を強化し、輸入依存度を構造的に引き下げることが不可欠とされている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の動向は、ベトナム株式市場で畜産・水産関連銘柄に投資するうえで重要なシグナルを含んでいる。
飼料メーカー:マサングループ(MSN)傘下のマサンミートライフや、ダベコ(DBC、ベトナム大手養豚企業)など飼料・畜産一貫企業は、原料高と出荷安の二重苦で利益率が圧迫される可能性が高い。特にDBC株は豚肉価格との連動性が強く、短期的には下押し圧力が続くとみられる。
水産関連:ビンホアン(VHC、パンガシウス最大手)はパンガシウス価格の堅調さが追い風となる一方、エビ加工大手のミンフー(MPC)はPOR19の高関税リスクと原料エビ価格の不安定さが重荷となり得る。
日系企業への影響:ベトナムに飼料工場を持つ日本企業(伊藤忠飼料、日本農産工業など)にとっては、原料調達コストの上昇が収益を圧迫する要因となる。一方で、物流効率化や飼料配合技術において日本企業が持つノウハウは、ベトナム側のパートナーにとって価値が高く、技術提携や合弁の商機にもなり得る。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げにとって、農業セクターの業績悪化は直接的な障害にはならないものの、市場全体のセンチメントに影響する可能性はある。畜産・水産は時価総額ベースでの市場インパクトは限定的だが、消費者物価への波及を通じて金融政策に影響を与えるルートには注意が必要である。
総じて、2026年のベトナム畜産・水産セクターは「コストプッシュ型の逆風」に直面しており、短期的には業績悪化を織り込む局面が続く可能性が高い。ただし、パンガシウスのような堅調なサブセクターや、原料自給率向上に向けた構造改革の動きは中長期的な投資テーマとして注目に値する。
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