ベトナム、カーボンクレジットの最大90%を国際移転可能に—政令112号が拓く炭素市場の新局面

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ベトナム政府は、温室効果ガス(GHG)削減成果およびカーボンクレジット(炭素排出権)の国際取引に関する初の包括的な法的枠組みとなる政令112/2026/NĐ-CP号を公布した。2026年5月19日に施行されるこの政令は、パリ協定の履行を前提に、プロジェクト類型ごとに最大90%までの国際移転を認める内容であり、ベトナムのグローバル炭素市場への本格参入を告げるものである。

目次

政令112号の全体像——パリ協定に基づく初の法的枠組み

政令112号は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のパリ協定に基づき、ベトナムが創出したGHG削減成果およびカーボンクレジットを国際パートナーと取引するためのルールを初めて体系的に定めたものである。従来、ベトナムではクリーン開発メカニズム(CDM)や日本との二国間クレジット制度(JCM)など個別の枠組みは存在したが、国としての統一的な移転ルールは整備されていなかった。今回の政令により、投資誘致と国家の排出削減目標(NDC)の達成を両立させるための制度設計が明確化された。

移転比率の二段階構造——90%と50%の線引き

政令の最大の特徴は、削減活動の技術的成熟度に応じて移転上限比率を分類している点である。

【最大90%移転が認められるカテゴリー】
ベトナム国内で未導入または導入実績が乏しい先端技術・高コスト分野が対象となる。具体的には以下のとおりである。

  • 地熱発電
  • 洋上風力発電
  • 系統非接続型太陽光発電(15MW未満)
  • 波力・潮力発電
  • グリーン水素・グリーンアンモニアの製造
  • バイオガス(メタン)
  • 炭素回収・利用・貯留技術(CCUS/CCS)の産業プロセス、建材製造、エネルギー分野への適用
  • 大気中からの直接CO2回収(DAC)
  • 廃棄物の焼却発電処理
  • 埋立地からのガス回収・利用
  • バイオ燃料製造

いずれもグローバルに注目が集まる次世代脱炭素技術であり、高い移転比率を設定することで海外資本と先端技術の流入を促す狙いが読み取れる。

【最大50%移転が認められるカテゴリー】
すでにベトナム国内で一定の展開実績があるものの、さらなる資金・技術支援を必要とする分野が対象である。

  • 輸入LNGを使用するガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電
  • バイオマス発電
  • JCM登録済みの再生可能エネルギー・省エネプロジェクト
  • CDMからパリ協定第6条4項メカニズムへの移行が承認されたプロジェクト
  • 陸上(近海)風力発電

なお、「対応調整(Corresponding Adjustment)」を伴わない国際移転の場合は、すべてのプロジェクト類型において最大90%の移転が認められる。対応調整とは、移転元国が自国のNDC達成量からクレジット分を差し引く手続きのことであり、これを行わない場合は移転先の国がNDCへの算入に使えない代わりに、ベトナム側の排出削減目標には影響しないという整理になる。国際移転後に残ったクレジットは、将来発足予定のベトナム国内炭素取引市場で売買することが可能である。

収入管理の仕組み——公共投資・PPPプロジェクトへの適用

政令はカーボンクレジット売却収入の管理メカニズムについても明確に規定している。公共投資プロジェクトの場合、クレジット売却は所管機関の決定を要し、関係省庁への意見照会が必要となる。一方、官民連携(PPP)プロジェクトでは、クレジット収入はプロジェクトの事業収入に算入され、財務計画の調整に反映できる。これにより、インフラ事業者にとってカーボンクレジットが新たな収益源として公式に位置づけられることになる。

投資家・ビジネス視点の考察

今回の政令112号は、ベトナムの炭素市場整備における画期的な一歩であり、複数の観点から投資・ビジネスへのインパクトが大きい。

①再生可能エネルギー関連銘柄への追い風:洋上風力、グリーン水素、CCUS等の分野で90%という高い移転比率が設定されたことで、海外からの投資資金が流入しやすくなる。ベトナム株式市場ではREE(冷熱電気機械株式会社)、PC1(パワーコンストラクション・ジョイントストック第1)、GEX(ジェレックス・グループ)など再エネ関連銘柄への関心が高まる可能性がある。

②日本企業への直接的影響:JCMプロジェクトが50%移転カテゴリーに明記されたことは、日本の経済産業省・環境省が推進してきたJCMスキームに法的安定性を与えるものである。JICA案件や日本企業が関与する省エネ・再エネプロジェクトにとって、クレジットの国際取引ルールが明確化された意義は極めて大きい。丸紅、住友商事、JERAといったLNG・電力分野で対越投資を進める企業にとっても、GTCC発電のクレジット化が公式に認められた点は事業計画の精緻化に寄与する。

③FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に判定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げにおいて、ESG・サステナビリティ関連の制度整備は間接的にポジティブな評価材料となり得る。グローバル機関投資家はESGガバナンスの進展度を投資判断に組み込んでおり、炭素市場の法的枠組み整備はベトナムの制度的成熟度を示すシグナルとなる。

④国内炭素取引市場の始動への布石:ベトナム政府は2028年を目途に国内排出量取引制度(ETS)の本格運用を目指しているとされる。今回の政令で国際移転ルールが先行整備されたことで、国内市場の制度設計も加速する可能性が高い。企業は今のうちからカーボンクレジットの創出・管理体制を構築しておくことが重要である。

総じて、政令112号はベトナムが「炭素クレジットの供給国」としてグローバル市場に名乗りを上げる宣言ともいえる。先端脱炭素技術への投資誘致と、自国の排出削減目標の確保を両立させる巧みな制度設計であり、今後の実運用とプロジェクト組成の動向を注視すべきである。


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出典: 元記事

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