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ベトナムの銀行間(インターバンク)金利が2025年第1四半期に激しい変動を見せている。銀行同士が短期資金を融通し合うこの市場の金利は、複数の取引日にわたって急騰し、かつてのような低水準への早期回帰は困難との見方が広がっている。ベトナムの金融政策と流動性環境に大きな転換点が訪れつつある可能性があり、株式市場や実体経済への波及が注目される。
銀行間金利とは何か——ベトナム金融市場の「体温計」
銀行間金利(lãi suất liên ngân hàng)とは、商業銀行同士が翌日物(オーバーナイト)から数週間程度の短期資金を貸し借りする際に適用される金利のことである。この金利は、銀行システム全体の流動性(資金の余裕度)を映し出す鏡であり、ベトナム国家銀行(中央銀行、SBV)の金融政策スタンスを読み解くうえで極めて重要な指標だ。日本で言えば無担保コールレート翌日物に相当し、金融市場関係者が日々注視する「体温計」のような存在である。
ベトナムでは2023年半ば以降、SBVが景気刺激のために政策金利を引き下げ、銀行間金利も歴史的な低水準で推移してきた。オーバーナイト金利が0.5〜1%台という時期も珍しくなく、銀行システムには潤沢な流動性が供給されていた。しかし、2025年に入ってからその様相が一変している。
2025年第1四半期——何が起きたのか
報道によると、2025年1月から3月にかけて、銀行間金利は複数回にわたり急激な上昇を記録した。特に短期のオーバーナイト物や1週間物の金利上昇が顕著であり、銀行間市場では資金の出し手が慎重になる場面が増えたとみられる。
この背景には複数の構造的要因がある。まず、旧正月(テト、2025年は1月29日が元日)前後の季節的な資金需要の増大がある。ベトナムでは毎年テト前に企業のボーナス支払いや消費関連の現金需要が急増し、銀行の流動性が一時的に逼迫する。しかし、例年であればテト後には比較的早く金利が落ち着くところ、2025年は3月に入っても高止まりが続いた点が異例である。
第二の要因として、SBVによる為替防衛のための流動性吸収が挙げられる。2024年後半から2025年にかけて、ベトナムドンは対米ドルで下落圧力にさらされており、SBVは為替安定のために公開市場操作(OMO)を通じてドン資金を吸収する局面が増えた。為替を守るために国内の流動性を引き締めるという、新興国中央銀行に共通するジレンマがここでも表面化している。
第三に、信用(融資)の伸びが年初から比較的堅調に推移しており、銀行が貸出に回す資金が増加したことで、余剰資金が減少している可能性もある。ベトナム政府は2025年のGDP成長率目標を8%以上と野心的に設定しており、公共投資の拡大や不動産市場の回復とも相まって、資金需要が構造的に増加している局面にある。
「低金利への早期回帰は難しい」——市場の見通し
市場関係者の間では、銀行間金利がかつてのような超低水準に早期に戻ることは困難との見方が支配的になりつつある。その理由はいくつかある。
第一に、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策動向である。米国の金利水準がなお高い状態が続く中、ベトナムが国内金利を過度に低く維持すればドン安圧力が一段と強まり、輸入インフレや資本流出を招くリスクがある。SBVとしては、為替安定と国内景気支援の間で難しいバランスを取らざるを得ない状況が続く。
第二に、2025年下半期に向けて公共投資の本格化が見込まれ、国債発行による資金調達が増加すれば、銀行間市場の流動性にさらなる吸収圧力がかかる可能性がある。
第三に、ベトナムの銀行業界全体で預金金利の引き上げ競争が再燃しつつあり、資金調達コスト全般が上昇基調にあることも、銀行間金利の下がりにくさを助長している。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響
銀行間金利の上昇は、株式市場にとっては二重の意味でマイナス材料となり得る。第一に、銀行の資金調達コストが上昇すれば、純金利マージン(NIM)が圧縮され、銀行セクターの収益にブレーキがかかる。VN-Index(ホーチミン証券取引所の主要指数)において銀行株は時価総額の約3割を占める最大セクターであり、その業績動向は指数全体を左右する。第二に、金利上昇は株式市場全体のバリュエーション(割引率)を押し上げる要因であり、特に高PER(株価収益率)のグロース銘柄にはネガティブに作用する。
一方で、金利上昇が「景気拡大に伴う健全な資金需要増」を反映しているのであれば、企業業績の回復と相殺される面もある。投資家としては、金利上昇の「原因」を見極めることが重要である。
不動産セクターへの波及
銀行間金利の上昇は、住宅ローン金利や企業向け融資金利の上昇に波及する可能性がある。ベトナムでは2024年後半から不動産市場が回復基調にあるが、金利上昇が長期化すれば、特にレバレッジの高い不動産デベロッパーにとっては逆風となる。ノバランド(Novaland)やビングループ傘下のビンホームズ(Vinhomes)といった大手企業の資金繰り動向にも注目が必要である。
日本企業・ベトナム進出企業への示唆
ベトナムに進出している日系企業にとっては、現地での借入コストの上昇に備える必要がある。特にベトナムドン建てで運転資金を調達している中小規模の製造業やサービス業は、金利環境の変化に敏感であろう。また、為替面でもドン安が進行すれば、円建て・ドル建てでの利益の目減りにつながる点に留意が必要だ。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナムの金融市場の安定性は重要な審査ポイントとなる。銀行間金利の乱高下が常態化すれば、海外機関投資家の間で「ベトナム市場の流動性リスク」が意識される可能性もある。SBVには、為替安定と流動性管理の両面で、よりきめ細やかなオペレーションが求められるだろう。格上げが実現すれば数十億ドル規模のパッシブ資金流入が期待されるだけに、この局面での金融安定の維持は極めて重要である。
マクロ経済トレンドにおける位置づけ
今回の銀行間金利の変動は、ベトナム経済が「超緩和期」から「正常化期」へ移行しつつあることを象徴する動きと言える。2023〜2024年にかけての低金利環境は、コロナ後の景気回復を支えるための非常時対応であった側面が強い。経済成長が軌道に乗り、インフレ圧力や為替リスクが意識される中で、金利環境が「ニューノーマル」に向かうのは自然な流れでもある。投資家としては、低金利前提のシナリオを修正し、やや高い金利環境下での企業業績・バリュエーションを再評価する局面に入ったと認識すべきである。
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出典: 元記事












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