ベトナム銀行協会が債権回収の行動規範を策定—ペンキ散布・誹謗中傷・深夜電話を全面禁止

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ベトナム銀行協会(VNBA)が、銀行の債権回収担当者に対する新たな行動規範(コード・オブ・コンダクト)を策定した。借り手の自宅にペンキを散布する、借り手やその家族を誹謗中傷する、不適切な時間帯に電話をかけるといった「反感を買う回収行為」を明確に禁止するもので、近年ベトナム社会で深刻な問題となっていた過激な取り立て行為に歯止めをかける狙いがある。

目次

背景:なぜ「ペンキ散布」が問題になったのか

ベトナムでは近年、個人向けローンや消費者金融の市場が急速に拡大してきた。VPBank(VPバンク)傘下のFEクレジットをはじめとする消費者金融会社、さらにはフィンテック系の個人間貸付プラットフォームが急成長する一方で、不良債権の回収手段がしばしば社会問題化してきた。借り手の自宅玄関にペンキや塗料を撒き散らす、SNS上で借り手の個人情報を晒して誹謗中傷する、深夜や早朝に繰り返し電話をかけて精神的に追い詰める——こうした行為はベトナムのメディアでも繰り返し報じられ、国会でも議論の対象となっていた。

特に2023年から2024年にかけて、ベトナム全土で消費者金融の回収トラブルが急増。公安省(警察)が複数の違法取り立てグループを摘発する事態にまで発展した。こうした状況を受け、VNBA(ベトナム銀行協会、正式名称:Hiệp hội Ngân hàng Việt Nam)は業界全体の信頼回復を図るべく、新たな行動規範の策定に着手していた。

新行動規範の主な内容

VNBAが公表した新たな行動規範では、銀行およびその委託先の債権回収担当者に対し、以下の行為を明確に禁止している。

  • 物理的な嫌がらせの禁止:借り手の自宅や職場にペンキ・塗料を散布する行為、器物損壊につながる行為の全面禁止。
  • 名誉毀損・誹謗中傷の禁止:借り手やその家族・親族に対するSNS上での個人情報の暴露、侮辱的な言動の禁止。
  • 不適切な時間帯の連絡禁止:深夜・早朝など社会通念上不適切な時間帯における電話やメッセージの送信を制限。
  • 第三者への過剰な接触禁止:借り手本人以外の親族・友人・同僚に対し、借り手の債務情報を漏らしたり、返済を迫る行為の制限。

規範は法的拘束力を持つ法律ではなく、あくまで業界団体の自主規制という位置づけである。しかし、VNBAにはベトナム国内のほぼすべての商業銀行が加盟しており、実質的に業界標準として機能することが見込まれる。違反した場合の具体的な罰則については今後の運用細則で詰められる見通しだが、銀行の評判リスク管理の観点から、各行が自主的に遵守に動くとの見方が強い。

ベトナム金融業界の構造的課題

この問題の根底には、ベトナムの消費者金融市場が抱える構造的な課題がある。ベトナムの銀行口座保有率は近年急速に上昇し、2025年時点で成人人口の約80%に達したとされるが、依然として信用スコアリングのインフラは発展途上にある。国家信用情報センター(CIC:Trung tâm Thông tin Tín dụng Quốc gia)のデータベースは整備が進んでいるものの、個人の信用リスクを精緻に評価する仕組みはまだ十分に浸透していない。

その結果、銀行や消費者金融会社は比較的緩い審査基準で融資を実行し、不良債権が発生した際に強引な回収手段に頼るという悪循環に陥りやすかった。特にコロナ禍後の景気回復局面では、不動産市場の低迷と相まって個人の返済能力が悪化し、不良債権比率が上昇。2024年末時点で銀行セクター全体の不良債権比率(NPL比率)は公式統計で約2%台だが、実質的にはそれ以上との指摘もある。

日本との比較で見る意義

日本では1983年に「貸金業規制法」(現・貸金業法)が施行され、取り立て行為に関する厳格な規制が設けられている。深夜・早朝の取り立て禁止、勤務先への過剰な連絡の禁止、暴力的な言動の禁止などは、日本の消費者金融業界では数十年前に確立されたルールである。

ベトナムが今まさにこの段階を経ていると考えると、今回のVNBAの行動規範策定は、ベトナムの金融市場が「成熟化」に向けた重要な一歩を踏み出したことを意味する。新興国の金融市場が発展する過程では、こうした消費者保護の枠組み整備は避けて通れないプロセスであり、ベトナムもその道を着実に歩んでいるといえる。

投資家・ビジネス視点の考察

今回の行動規範策定は、ベトナムの銀行セクター全体にとってポジティブな動きと評価できる。理由は以下の通りである。

1. 銀行セクターの信頼性向上とFTSE格上げへの追い風
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナムは市場の透明性・ガバナンス向上を急いでいる。金融セクターにおける消費者保護の強化は、海外機関投資家が重視するESG(環境・社会・ガバナンス)基準の観点からも好材料である。銀行株はベトナム株式市場(VN-Index)の時価総額の約3割を占めるため、セクター全体の信頼性向上は指数全体にプラスに作用する。

2. 関連銘柄への影響
記事のサムネイル画像にはVPBank(VPバンク、証券コード:VPB)の店舗が映っている。VPBankは傘下のFEクレジット(FE Credit)を通じてベトナム最大の消費者金融事業を展開しており、過去に回収手法を巡る批判を受けたことがある。今回の規範策定により、短期的には回収率の低下が懸念される可能性があるが、中長期的にはブランドイメージの改善と顧客基盤の安定化につながるだろう。同様に、HDBank(HDB)、MBBank(MBB)、Techcombank(TCB)など消費者向けローンに注力する銀行にも同様の影響が及ぶ。

3. 日本企業への示唆
ベトナムの消費者金融市場には、SBIグループやクレディセゾンなど日本の金融機関も参入・出資している。今回の規範はこれらの日系企業にとっても無関係ではなく、現地パートナーや委託先の回収手法がコンプライアンスに沿っているか、改めて確認が求められる局面である。一方で、日本企業が持つ消費者金融の運営ノウハウ——特にコンプライアンスに配慮した回収手法やAIを活用した審査技術——は、ベトナム市場においてますます競争優位性を発揮する可能性がある。

4. 不良債権市場への影響
過激な取り立てが制限されることで、短期的には銀行の不良債権回収コストが上昇する可能性がある。これにより、ベトナム資産管理会社(VAMC:Vietnam Asset Management Company)への不良債権売却が加速する、あるいはサービサー(債権回収専門会社)市場が整備されるといった動きが生じることも考えられる。この領域は今後の注目分野である。

総じて、今回のVNBAの行動規範策定は、ベトナム金融市場の「量から質への転換」を象徴する動きである。新興国投資においては、こうした制度インフラの整備進捗を丁寧にウォッチすることが、中長期的なリターンを左右する重要なファクターとなる。


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出典: 元記事

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