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米国テック大手で相次ぐAI関連の大量リストラ。一方、同じくAI開発で世界をリードする中国では、雇用への打撃が比較的限定的にとどまっている。その背景には、国家による雇用目標の設定、米国と比べて格段に低い人件費、そして企業のデジタル化の遅れという構造的な要因が存在する。この中国の事例は、同様に低コスト労働力を武器とし、AI導入の初期段階にあるベトナムの将来を占ううえでも極めて示唆に富む。
米オラクルが大規模リストラ、米テック業界にAI失業の波
米国の大手テクノロジー企業オラクル(Oracle)が大規模な人員削減計画を発表し、AI(人工知能)が米国テック業界の雇用に与える影響への懸念が再燃している。シリコンバレーを中心に、AIの導入加速に伴う人員整理の動きはもはや珍しくなくなった。
中国では影響が限定的——3つの構造的理由
しかし、AIの研究開発・実用化で米国と双璧をなす中国では、こうした大量解雇の波が比較的穏やかである。アナリストらは主に以下の3つの理由を挙げている。
①国家レベルの雇用目標
米国と異なり、北京は都市部の失業率を5.5%前後に維持するという国家目標を設定している。この目標が企業の人員削減に対する暗黙の「ブレーキ」として機能している。
②圧倒的な人件費格差
コンサルティング会社LSYコンサルティングの創業者アレックス・ルー(Alex Lu)氏はCNBCの取材に対し、「国家の方針に加え、中国の人件費の低さが、米国の同業他社のような大幅な人員削減を不要にしている」と指摘する。中国の求人プラットフォーム「智聯招聘(Zhilian)」が先月公表したデータによると、中国で最も需要の高いアルゴリズムエンジニアの平均月給は約20,035人民元(約2,900ドル)。年収に換算すると約35,000ドルで、シリコンバレーの同等職の約10分の1に過ぎない。シリコンバレーでは中堅ソフトウェアエンジニアの基本年俸が約300,000ドルに達するが、同じ人材が中国に戻ればその半額以下の報酬を受け入れざるを得ないという。
③企業のデジタル化水準の低さ
ルー氏によれば、中国企業のデジタル化の度合いは総じて米国より低い。米国ではエンタープライズソフトウェアが広く普及しているのに対し、中国ではまだ個人向けツールの域を出ていないケースが多い。たとえば最近中国で人気を博している「OpenClaw」も、現状では主に個人ユーザー向けであり、企業向けソリューションとしての展開はこれからである。
中国テック大手の動向——アリババは30%減、テンセント・ファーウェイは維持・増員
もっとも、中国企業が完全にAIリストラと無縁というわけではない。アリババ(Alibaba、中国最大級のEコマース・テクノロジー企業)は最近、全社の従業員数が30%以上減少したことを明らかにし、AI戦略への注力に伴う事業構造の変化が背景にあるとしている。
一方、テンセント(Tencent、中国最大のSNS・ゲーム企業)は昨年、従業員数が微増したと報告。また、ファーウェイ(Huawei、中国最大の通信機器メーカー)は2025年12月時点で約114,000人の研究開発人員を擁し、前年の113,000人から増加させている。技術革新への投資を継続する姿勢が鮮明である。
ビザ問題で中国人エンジニアの「帰国」が加速
米国での大量解雇は、特に中国出身のエンジニアにとって深刻な問題をもたらしている。解雇されると在留資格の維持が困難になるケースが多く、新たな職を迅速に見つけられなければビザの要件を満たせなくなる。このため、多くの中国人エンジニアが帰国を選択しているという。
ただし、帰国は容易ではない。米国企業で長年勤務してきた人材にとって、中国企業特有の高い労働強度や激しい競争環境は「カルチャーショック」となり得る。新型コロナ後、米国ではリモートワークが定着した一方、中国企業の大半は依然として出社を重視している。これは、大規模チームを直接監督することを重んじる中国の経営文化を反映したものである。
中国の労働者は「広く浅く」——AIによる代替が困難
マーケティングスタートアップBoomfluence.aiの創業者ティナ・ジョウ(Tina Zhou)氏によれば、中国企業のエンジニアは米国の大手テック企業の同等職に比べて、はるかに広い範囲の業務を担当する傾向がある。この「多能工」的な働き方が、AIによる完全な代替を困難にしている。また、中国企業はマーケティングやカスタマーサービスの部門で米国企業より多くの人員を維持している点も特徴的である。
若年層失業率は二桁台——北京はAI推進と雇用のバランスに苦慮
政策レベルでは、北京は技術革新と雇用維持という二律背反の課題に直面している。都市部全体の失業率は約5%にとどまるものの、若年層の失業率は依然として中〜高位の二桁台で推移している。中国人民銀行(PBOC)の顧問であるファン・イーピン(Huang Yiping)氏は4月7日のイベントで、「中国は経済成長のためにハイテク開発を推進する必要があるが、AI関連のイノベーションは人間のニーズを最優先に据えなければならない」と強調した。
教育分野でも関心は高い。中国で大きな影響力を持つ教育系インフルエンサーの張雪峰(Zhang Xuefeng)氏は昨年12月の動画で、「小学6年生以上の子どもは早い段階でAIに触れ、エンジニアリング、ロボット、半導体チップといった分野の機会に注目すべきだ」と提言し、大きな反響を呼んだ。
投資家・ビジネス視点の考察——ベトナムへの示唆
この中国の事例は、ベトナム経済・株式市場にとっても複数の重要な示唆を含んでいる。
ベトナムも「AI失業耐性」を持つ可能性:ベトナムの製造業・IT人材のコストは中国よりさらに低い。中国と同様の論理で、ベトナム企業においてもAIによる大量解雇が短期的には起こりにくいと考えられる。FPTソフトウェアやVNGといったベトナムのテック企業は、当面は人員削減よりもAI人材の「獲得競争」に注力する局面が続くだろう。
中国からの人材・資本の還流効果:米国を離れた中国人エンジニアの一部は、中国だけでなく東南アジア、特にベトナムに拠点を移す可能性もある。ベトナムのIT産業にとっては、技術移転やスタートアップ投資の増加という形でプラスに作用し得る。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、海外からの資金流入が加速する。その際、AI関連で過度な人員削減を行わず安定成長を維持しているテック・IT企業は、海外投資家から高い評価を受ける可能性がある。
日本企業への影響:ベトナムに進出している日本のIT企業・製造業にとって、現地のAI導入スピードと人件費のバランスは事業計画の根幹に関わる。中国の事例が示すように、「AI導入=即座の人員削減」ではなく、低コスト人材とAIを併用するハイブリッドモデルが、当面のベトナムにおける現実的な戦略となるだろう。
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出典: 元記事












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