ベトナム人のコーヒー・タピオカ離れが加速──飲料市場の成長鈍化が示す消費トレンドの変化

Người Việt ngày càng ít uống cà phê, trà sữa
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世界有数のコーヒー生産国であるベトナムで、意外な消費トレンドが浮かび上がっている。飲料市場の売上成長率が2年連続で鈍化し、コーヒーやタピオカミルクティー(trà sữa)の飲用頻度が「週1~2回」にまで低下していることが2025年の調査で明らかになった。「カフェ大国」ベトナムの消費構造に何が起きているのか、その背景と投資への示唆を読み解く。

目次

飲料売上の成長が2年連続で減速

ベトナムの飲料市場は長らく高い成長率を誇ってきたが、直近2年間は増収ペースが明確に鈍化している。かつては二桁に近い伸びを見せていた市場も、消費者の嗜好変化や景気の影響を受け、勢いを失いつつある。特に外食・テイクアウト型の飲料、すなわちカフェチェーンやタピオカミルクティー専門店の売上が伸び悩んでいる点が注目される。

ベトナムは世界第2位のコーヒー豆輸出国(ロブスタ種では世界最大)であり、国内にも深いコーヒー文化が根付いている。ハノイやホーチミン市の路上には「cà phê sữa đá(練乳入りアイスコーヒー)」を出す個人店が無数に存在し、近年はハイランズコーヒー(Highlands Coffee)やフックロン(Phúc Long)、ザ・コーヒーハウス(The Coffee House)といったチェーン店も急速に店舗を拡大してきた。タピオカミルクティーに関しても、台湾系ブランドのゴンチャ(Gong Cha)やタイガーシュガー(Tiger Sugar)をはじめ、多数のブランドが市場に参入し、一時は「trà sữaブーム」とも呼ばれる社会現象を生んだ。

しかし2025年時点の調査データによると、ベトナム人がコーヒーやタピオカミルクティーを飲む最も一般的な頻度は「週1~2回」にとどまっている。毎日複数杯を飲むイメージが強いベトナムのコーヒー文化を考えると、この数字はやや意外に映る。

背景にある複合的な要因

この消費鈍化には、いくつかの要因が絡み合っていると考えられる。

第一に、消費者の節約志向の強まりである。ベトナム経済は2023年以降、不動産市場の低迷や輸出の減速を受けて成長ペースがやや鈍化した。2024年にはGDP成長率が回復基調を見せたものの、都市部の若年層を中心に家計の支出を見直す動きが広がっている。カフェでの1杯が4万~7万ドン程度、タピオカミルクティーが5万~8万ドン程度とすると、毎日の習慣を週1~2回に減らすだけで月の支出を大きく抑えられる。「ちょっとした贅沢」を削る動きが飲料市場を直撃しているのである。

第二に、健康意識の高まりがある。ベトナムでも若年層を中心に砂糖の過剰摂取を避ける傾向が強まっている。タピオカミルクティーはその甘さゆえに「高カロリー飲料」として敬遠される場面が増え、練乳入りのベトナムコーヒーについても「砂糖を控える」動きが広がっている。無糖茶やフルーツウォーターなど、より健康的とされる飲料へのシフトが進んでいる。

第三に、市場の飽和と競争激化である。ベトナムの飲料チェーン市場はここ数年で急速に拡大し、同質的な店舗が乱立する状態に陥った。ホーチミン市やハノイでは数十メートル歩くだけで複数のカフェやミルクティー店が目に入る。消費者にとっては選択肢が増えすぎた結果、特定のブランドへのロイヤルティが下がり、「わざわざ買いに行く」モチベーションが薄れている可能性がある。一部チェーンでは閉店が相次いでおり、市場の淘汰が始まっている。

チェーン各社の対応と市場再編

こうした環境変化を受けて、主要チェーンはさまざまな戦略転換を図っている。ハイランズコーヒーは低価格帯メニューの拡充やデリバリー対応の強化を進め、フックロンはペットボトル飲料(RTD=Ready to Drink)市場への進出を加速させている。フックロンの親会社であるマサングループ(Masan Group、ホーチミン証券取引所上場、ティッカー:MSN)は、傘下のウィンコマース(WinCommerce)が運営するウィンマート(WinMart)店舗網と飲料事業のシナジーを狙い、小売チャネルを通じたRTD販売を拡大している。

一方、スターバックス(Starbucks)やゴンチャといった外資系ブランドも、ベトナム市場での出店ペースを慎重に見極める局面に入っている。ベトナムのカフェ市場は「安い路上コーヒー」と「高価格帯の外資チェーン」の二極構造が続いてきたが、中間価格帯の国内チェーンが台頭したことで競争環境は一段と複雑化している。

投資家・ビジネス視点の考察

この飲料市場の鈍化トレンドは、ベトナム株式市場においていくつかの銘柄に直接的な影響を及ぼし得る。

まず注目すべきはマサングループ(MSN)である。同社はフックロンを傘下に持ち、飲料事業を成長ドライバーの一つと位置づけてきた。カフェ店舗の客足が鈍化する中、RTD製品へのシフトが計画通りに進むかが業績の分岐点となる。また、マサンはコンビニ・スーパー事業を通じた「エコシステム型消費」を志向しており、飲料単体の動向だけでなく小売全体の消費トレンドと併せて見る必要がある。

飲料原料の観点では、コーヒー豆価格の動向も重要である。ベトナム産ロブスタ豆の国際価格は2024年以降、気候変動の影響もあり高止まりしている。国内消費の鈍化は豆の内需を押し下げる方向に作用するが、輸出向けが大半を占めるため、直接的な価格インパクトは限定的と見られる。ただし、国内向け飲料メーカーにとっては「原料高+販売減」の二重苦となりかねない点に注意が必要である。

日系企業への影響も無視できない。サントリー(ベトナムではサントリーペプシコとして展開)やエースコック(即席麺だけでなく飲料も展開)など、ベトナム飲料市場で存在感を持つ日系企業にとって、消費者の嗜好変化は商品ポートフォリオの見直しを迫る可能性がある。健康志向の高まりは無糖茶飲料にとって追い風であり、日本で培った無糖茶ブランドのノウハウが活きる局面ともいえる。

マクロ的な視点では、この飲料消費の鈍化はベトナムの個人消費全体の慎重姿勢を映す鏡である。2026年9月に見込まれるFTSE新興市場指数への格上げは、ベトナム株式市場に大量の海外資金流入をもたらすと期待されているが、その恩恵が実体経済に波及するには、国内消費の回復が不可欠である。飲料市場という身近な指標の動向は、ベトナム経済の「体温」を測るバロメーターとして、投資家は引き続き注視すべきであろう。


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出典: 元記事

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