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2025年4月8日、ハノイ人民裁判所は、盗取したVisaカード情報を使って数十億ドン規模の資金を不正に引き出し、暗号資産USDT(テザー)を通じて資金洗浄を行っていた13人の被告に対し、懲役3年から17年の判決を言い渡した。中国籍の人物との国際的な共謀、スマートフォンの「Tap to Phone」機能やPOS端末の悪用、ペーパーカンパニーの利用など、デジタル決済の普及が進むベトナムにおける新型詐欺の実態が浮き彫りとなった事件である。
事件の全容——中国人協力者との接点から犯行グループ形成まで
起訴状によると、首謀者のレ・ヴァン・トゥアン(Lê Văn Tuấn、1989年生、ハノイ市ハドン区在住)は2021年末、中国籍のタン・ウェイドン(Tang Weidong、通称「アタン」)と知り合った。2022年末、アタンはWeChat(中国の主要メッセンジャーアプリ)を通じてトゥアンに連絡し、「不正に入手した海外発行のVisaカード情報がある。ベトナムの銀行が提供する『Tap to Phone』アカウントやPOS端末を使えばカード保有者の口座から資金を引き出せる」と持ちかけた。
アタンはトゥアンに対し、iPhoneまたはSamsungのNFC対応スマートフォンを使い、iCloudアカウントにログインしたうえでVisaカード情報を端末に登録する方法をビデオ通話で直接指導した。OTP(ワンタイムパスワード)が求められた場合もアタンが即座にコードを読み上げ、トゥアンが入力するという手順であった。カード情報の登録に成功すると、トゥアンは借り受けたPOS端末でスマートフォンをかざして決済処理を実行し、資金を引き出した。
USDT経由のマネーロンダリング——資金の流れ
不正に引き出した資金はまず、被告名義の銀行口座に入金された。その後、トゥアンはその資金でUSDT(米ドル連動型ステーブルコイン)を購入し、引き出し額の70%に相当するUSDTをアタンに送金した。POS端末の貸し手には引き出し額の10〜25%を手数料として支払い、残りをトゥアン自身が取得するという分配構造であった。
さらに、トゥアンは3億7,500万ドン以上をホアン・マイン・ソン(Hoàng Mạnh Sơn、1983年生、ハノイ在住)に渡してUSDT購入を依頼した。ソンはこの資金が犯罪収益であることを認識しながら、自身は利益を得ることなくトゥアンに協力した。ソンにはマネーロンダリング(資金洗浄)罪で懲役3年が言い渡されている。
ペーパーカンパニーを使った「Tap to Phone」口座の確保
犯行を支えたもう一つの重要な要素が、「Tap to Phone」アカウントの調達であった。チュー・ティ・トゥー・フオン(Chu Thị Thu Hường、1995年生、タイグエン省出身)は、ドリアンの輸出入を事業目的とする「VTN Việt Nam輸出入株式会社」を設立しており、同社名義で「Tap to Phone」アカウントの開設が可能であった。
トゥアンはフオンの交際相手であるヴー・ディン・ディン(Vũ Đình Định、1987年生、フンイエン省出身)を通じてアカウントの提供を依頼。ディンはフオンと相談のうえ、引き出し額の12〜15%を報酬として受け取る条件でアカウント提供に同意した。検察によれば、フオンは同社が「Tap to Phone」上で実際の事業活動を行っておらず、すべての取引が架空であることを認識していた。
起訴状によると、2023年2月8日から3月18日までの間に、VTN社のアカウントを通じて海外銀行発行のVisaカードによる444件の決済処理が実行され、うち113件が成功、総額10億ドン以上が不正に引き出された。
判決の内容
裁判所は以下の判決を言い渡した。
- レ・ヴァン・トゥアン:懲役17年(「コンピュータネットワーク、通信ネットワーク、電子手段を使用した財産横領」罪)
- ヴー・ディン・ディン:同罪で懲役12年。ただし過去の別件判決との合算で合計刑期は30年
- チュー・ティ・トゥー・フオン:同罪で懲役8年
- ホアン・マイン・ソン:マネーロンダリング罪で懲役3年
- その他の被告:懲役2年6か月から12年
犯行期間の2023年2月から10月にかけて、グループ全体で62億ドン以上を不正に取得。さらにトゥアンは別の外国人協力者とも同様の手口で23億ドン以上を横領しており、被害総額は85億ドンを超える規模となった。
投資家・ビジネス視点の考察
本事件はベトナムにおけるデジタル決済インフラの急速な普及に伴うセキュリティリスクを如実に示している。ベトナムは2025年現在、キャッシュレス決済比率の引き上げを国家目標に掲げ、「Tap to Phone」をはじめとするモバイルPOS技術の導入を積極的に推進している。銀行・フィンテック各社にとって、加盟店審査(KYC/KYB)の厳格化は急務である。
ベトナム株式市場との関連では、以下の点に注目したい。
1. 銀行・決済関連銘柄への影響:VPBank(VPB)、Techcombank(TCB)、VietinBank(CTG)など、モバイル決済やPOS事業を拡大している銀行は、今後当局から加盟店審査体制の強化を求められる可能性がある。短期的にはコンプライアンスコストの増加要因となり得る。
2. 暗号資産規制の加速:ベトナム政府は現在、暗号資産に関する法的枠組みの整備を進めている段階にある。犯罪収益のUSDT経由での国外送金が立証されたことで、暗号資産取引所への規制強化が加速する可能性がある。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、市場の透明性・信頼性は重要な評価要素である。金融犯罪への厳格な対処と法執行の実効性を示すことは、格上げに向けたポジティブなシグナルとなる。今回の迅速な摘発・厳罰判決は、ベトナム司法の機能を対外的にアピールする材料ともなり得る。
4. 日本企業への示唆:ベトナムに進出している日本の決済事業者やフィンテック企業は、現地パートナーの加盟店審査体制を再点検する必要がある。ペーパーカンパニーによるアカウント開設が容易に行われた本件の教訓は大きい。また、日本のクレジットカード会社にとっても、東南アジアにおける不正利用対策の強化が改めて求められる事案である。
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出典: 元記事












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