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旅行プラットフォームKlookの調査で世界の旅行者の91%がAIツールを活用していることが判明するなか、ベトナム観光産業がAIとデジタルトランスフォーメーション(DX)を軸に国際競争力の強化に本格的に乗り出している。ホーチミン市では国内初の外国人旅行者データ追跡システムが稼働を開始し、業界関係者はAIがベトナム観光を「加速」させる起爆剤になると期待を寄せている。
世界の観光AI市場は2028年に397億ドル超へ
Klookが世界11,000人のユーザーを対象に実施した年次調査によると、91%の旅行者がAIベースの旅行計画ツールに依存している。旅行者の一部は「自分が旅に何を求めているのか」を明確にするためにAIを利用し、また別の層は個人のニーズに最適な割引やプランを見つけるために活用しているという。従来は複数のウェブサイトを開いて情報を比較する必要があったが、AIを使えば要望を入力するだけで数秒で提案を受け取れる時代になった。
マッキンゼーの調査によれば、生成AIは各産業に年間2,000〜4,000億ドルの価値を創出する見通しである。観光産業に限れば、世界のAI市場規模は2023年の924.6億ドルから2028年には397億ドル超へ拡大し、年平均成長率(CAGR)は33.9%に達すると予測されている。
ベトナムZ世代の85%がAIに「馴染みがある」
Booking.comの最新調査によると、ベトナムのZ世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)の85%が自身を「AIに馴染みがある」と回答している。そのうち20%はAIの仕組みを深く理解しており、残り65%も基本的な概念を把握している。この世代にとってAIは単なるツールではなく、旅行に欠かせない「パートナー」として位置づけられている。ベトナムは人口の約半数が30歳以下という若い国であり、デジタルネイティブ世代の消費行動が観光産業のDXを加速させる土壌が整っている。
ホーチミン市が国内初の旅行者データ追跡システムを導入
2025年半ば、ホーチミン市観光振興センター(HTPC)はThe Outbox Companyと提携し、「HCMC Global Traveler Barometer(HCMC GTB)」と呼ばれる国際旅行者データ追跡システムの運用を開始した。これはベトナム初のターゲット市場モニタリング・予測システムであり、データ駆動型の観光プロモーションにおける画期的な一歩とされる。
同システムは、外国人旅行者の需要や旅行意欲をリアルタイムで追跡し、行動パターン、嗜好、目的地イメージに関するトレンドを継続的に更新する。行政機関や民間企業はこのデータを活用し、プロモーション戦略・商品設計・旅行体験の最適化に反映できる仕組みである。ホーチミン市はベトナム最大の商業都市であり、2024年には外国人旅行者数が大幅に回復したことから、データ基盤の整備は時宜を得た取り組みといえる。
「サービスのデジタル化」から「デジタル観光エコシステム」へ
2025年4月9日に開催されたシンポジウム「ベトナム観光—DXとAI活用による迅速かつ持続可能な発展の推進」において、観光経済研究所のグエン・アイン・トゥアン所長は、世界の観光トレンドが「サービスの個別デジタル化」から「統合型デジタル観光エコシステム」の構築へと移行していると指摘した。先進国ではすでに国家観光データプラットフォーム、スマートデスティネーション管理システム、政府・企業・旅行者をつなぐ多者間連携エコシステムが形成されており、データが運営と意思決定の基盤となっている。
業界リーダーが語るAI活用の可能性と課題
ベトナム観光協会のヴー・テ・ビン会長は、AIが市場トレンド分析、商品のパーソナライゼーション、プロモーションの最適化、収益管理、旅行者フロー予測、観光地の混雑緩和、顧客ケアの強化など幅広い分野で新たな可能性を開くと述べた。「正しく方向づけられれば、DXとAIは成長だけでなく、資源保護、省エネ、コスト削減、排出削減、そして持続可能な目的地管理にも貢献する」とビン会長は強調している。
ラグジュアリー旅行を手がけるLux Group(ラックスグループ)のファム・ハCEOは、観光産業の根本的な変化として「ツアー販売」から「体験デザイン」への転換を指摘した。現代の旅行者はパーソナライゼーション、文化的深み、旅の意味をより重視しており、「AIは顧客をより深く理解し、意味のある旅程を設計する助けになる」と語った。
旅行テック企業Bestprice(ベストプライス)のブイ・タイン・トゥ マーケティングディレクターも、AIが顧客対応、サービス予約、ブッキング管理、需要予測といった業務の自動化を通じてコストと人材の最適化に明確な成果をもたらしていると述べた。繁忙期の人材不足の軽減やデジタルマーケティングにおけるターゲティング精度の向上にもAIが貢献しているという。
「魔法の杖」ではないが「必然の道」
ベトナム国家観光局のファム・ヴァン・トゥイ副局長は、DXとAI活用は「すべての困難を解決する魔法の杖」ではないとしつつも、ベトナム観光が「後発の利」を活かして国際競争力を高めるための必然の道であると位置づけた。「技術は人に取って代わらない。しかしAIを使いこなす観光従事者は、この競争に参加しない者に必ず取って代わるだろう」と同氏は述べている。
一方で、グエン・アイン・トゥアン所長はベトナム観光のDXにはまだ多くの課題が残ると率直に認めた。データが分散しており、データの接続・共有・活用能力が限定的であること、企業間でデジタルリテラシーに大きな格差があることが指摘された。ベトナムの観光企業の大多数は中小企業であり、テクノロジー投資に充てる資金が乏しい。さらに、観光とテクノロジー・データ・AIの両方に精通した人材は依然として不足している。
同氏は、AI導入を効果的に進めるには、やみくもに展開するのではなく、明確な目標を設定し、優先すべき重要工程を選定した体系的なロードマップが必要だと提言した。また、AIはデータの質に依存するため、データの標準化と適切なガバナンスが不可欠であること、同期化されたIT基盤への投資、そして従業員のデジタル能力向上が重要な要素であると強調した。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナム観光産業のDX加速という大きなテーマを浮き彫りにしている。投資家にとって注目すべきポイントは以下の通りである。
観光関連銘柄への追い風:ベトナム株式市場に上場する観光・ホスピタリティ関連銘柄(VJC=ベトジェットエア、HVN=ベトナム航空、VCT=ベトナム観光総公社など)にとって、AIによる業務効率化と顧客体験向上は中長期的にポジティブな材料である。特に、AI活用に先行投資できる資本力のある企業が競争優位を確保する可能性が高い。
IT・テック企業への波及:観光DXの推進は、FPT(ベトナム最大手ITグループ)やCMG(CMCグループ)といったテクノロジー企業にとっても受注拡大の機会となる。HCMC GTBのようなデータプラットフォーム構築案件は今後他都市にも広がる可能性がある。
日本企業への示唆:日本からベトナムへの旅行者数は回復傾向にあり、日系旅行会社やOTA(オンライン旅行代理店)にとっても、ベトナム側のデータ基盤整備は連携のチャンスである。また、日本のAI・SaaSスタートアップがベトナム観光市場に進出する余地も広がっている。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、ベトナム市場全体への海外資金流入が加速する。観光産業のDX推進は、ベトナム経済全体のモダナイゼーションを示す一つのシグナルであり、格上げに向けた「国としてのデジタル成熟度」を示す材料としても評価される可能性がある。
ベトナムの観光産業は2024年に外国人旅行者1,750万人超を記録し、コロナ前の水準を上回る回復を遂げた。AI・DXの本格的な活用が進めば、量的拡大のみならず質的な成長、すなわち一人あたり消費額の増加や持続可能な観光の実現にもつながる。中小企業の多いベトナム観光業界において、データとAIの「民主化」がどこまで進むかが、今後の成長の鍵を握ることになるだろう。
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出典: 元記事












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