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ベトナム保健省は、2026年1月1日から施行される国会決議に基づき、医師・薬剤師の給与等級を従来の第1等級(バック1)ではなく第2等級(バック2)からスタートさせる新制度の具体的な運用指針を公表した。長年指摘されてきた公立医療機関の待遇改善に向けた「突破口」として注目される政策である。
国会決議261号の概要
2025年12月11日、ベトナム国会は決議第261/2025/QH15号を可決した。同決議は「国民の健康保護・医療・健康増進に関する特別な仕組みと政策による突破口の創出」を目的としており、2026年1月1日に発効する。
同決議第3条第1項では、以下の職種について、対応する専門職称に採用された際に「第2等級から給与を適用する」と明記されている。
- 医科医師(バックシー・イーコア)
- 伝統医学医師(バックシー・イーホック・コーチュエン)
- 歯科口腔外科医師(バックシー・ラン・ハム・マット)
- 予防医学医師(バックシー・イーホック・ズーフォン)
- 薬剤師(ズオックシー)
この規定は「新たな給与制度が導入されるまで」適用されるとされており、ベトナム政府が進める公務員給与改革全体の中での暫定措置という位置づけである。
既存の医師・薬剤師への適用
同決議第9条第5項では、発効日時点で既に採用され第1等級の給与を受けている医師・薬剤師についても、自動的に第2等級へ移行させると規定している。この場合、第2等級の給与適用開始日および次回の昇給審査の起算日はいずれも2026年1月1日となる。
保健省が示した具体的な運用指針
保健省の通達では、2026年1月1日以降に採用される医師・薬剤師について、以下のように場合分けしている。
試用期間(タップスー)が免除される場合:管轄機関が第III類専門職称への任命と同時に第2等級の給与を適用する。給与の起算日は任命・給与決定の日からとなる。
採用前に強制社会保険の加入歴があり、第2等級以上の給与条件を満たす場合:現行規定に基づく給与等級がそのまま継続適用される。
試用期間が必要な場合:試用期間中は第III類専門職称の第2等級給与の85%が支給される。試用期間終了後に正式に第III類職称に任命され、第2等級の給与が適用される。
また、2026年1月1日以前に採用され現在試用期間中で第1等級の85%を受給している者については、現行の試用制度をそのまま継続し、試用期間終了時に第III類職称への任命と第2等級給与の適用が行われる。
背景:ベトナム公立医療機関の深刻な人材流出
この制度変更の背景には、ベトナムの公立病院における深刻な医師不足がある。特に新型コロナウイルスのパンデミック以降、公立病院から民間病院への人材流出が加速した。ホーチミン市やハノイの大手公立病院では、年間数百人規模の医師が退職するケースも報告されている。
ベトナムの公務員給与体系では、大学卒業後に採用された医師は第1等級(係数2.34)からスタートし、基本給に係数を掛けた金額が支給される。6年間の医学部教育を経てもなお一般の大卒公務員と同じ等級から始まることへの不満は根強く、第2等級(係数2.67)からのスタートは実質的な初任給引き上げを意味する。
ベトナム政府は2024年7月に基本給を月額180万ドンから234万ドンへ引き上げたが、それでも民間セクターとの給与格差は依然大きい。今回の措置は、給与体系の抜本改革までの「つなぎ」として、医療人材の公立セクターへの定着を図る狙いがある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の制度変更は、ベトナムの医療セクターに複数の示唆を与える。
公立病院関連:人件費の増加は公立病院の財務負担を高める。ベトナムでは公立病院の自主財源化(トゥーチュー・タイチン)が進んでおり、診療報酬の引き上げ圧力につながる可能性がある。
民間病院・ヘルスケア銘柄への影響:公立医療機関の待遇改善は、民間病院の採用競争力に影響を与えうる。しかし現時点での引き上げ幅は限定的であり、民間大手のビンメック(Vinmec、ビングループ傘下)やホアンアイン・ザライ・ヘルスケアなどの競争優位が大きく揺らぐ水準ではない。むしろ医療費全体の上昇トレンドは、民間病院の収益環境にとってもプラスに作用する可能性がある。
日系企業への影響:ベトナムで医療機器・製薬分野に進出している日系企業にとっては、公立病院の予算構造変化を注視する必要がある。人件費増により設備投資予算が圧迫されるリスクがある一方、政府の医療支出拡大方針は中長期的に市場拡大を支える要因である。
マクロ的な位置づけ:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げ判定を控えている。社会保障・医療制度の整備は直接的な格上げ要件ではないものの、制度的成熟度を示すシグナルとして海外投資家のベトナムに対する信認向上に寄与する。公務員給与改革全体の進展とあわせ、ベトナムの「中所得国の罠」回避に向けた構造改革の一環として捉えるべきである。
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