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OECD(経済協力開発機構)のステファノ・スカルペッタ新チーフエコノミストが、イラン戦争に伴うエネルギー価格高騰への対応として各国が導入した燃料減税措置について、「コストが極めて高く、早期に撤廃すべきだ」と警告した。中東情勢の不透明感が世界経済とインフレに影を落とす中、ベトナムを含む新興国経済にも重大な影響が及びうる局面である。
25カ国超が燃料減税に踏み切った背景
イラン戦争の勃発から1カ月余りの間に、EU加盟国からブラジル、インドといった新興国まで25カ国以上が燃料にかかる税・手数料の引き下げを実施した。エネルギー価格の急騰による消費者負担を緩和する狙いだが、価格上限の設定や現金給付といった他の手段の採用は比較的限定的であった。
スカルペッタ氏は今月OECDチーフエコノミストに就任したばかりだが、英フィナンシャル・タイムズ紙(4月9日付)のインタビューで「減税は導入が容易で即効性がある一方、財政コストが極めて高く、長期維持は不可能だ」と断言した。同氏は2022年のロシアによるウクライナ侵攻後に欧州各国が大規模なエネルギー支援策を打ち出した経験を引き合いに出し、「あの時の教訓は、減税措置のコストが天文学的に膨らんだということだ」と述べている。
欧州委員会も財政リスクを警告
これに先立ち、欧州委員会(EC)もEU27カ国に対し、原油・天然ガス価格上昇への対応で過度な財政支出を行わないよう警告を発していた。消費者・企業保護を名目とした無制限の支出は、EU全体に財政危機リスクを波及させかねないとの懸念からである。
OECDの経済見通し—インフレと成長への二重圧力
OECDは現時点で、中東紛争がインフレを一段と押し上げ、今後数カ月にわたり経済成長に下押し圧力を与えると予測している。米国とイランが2週間の停戦合意に達したことでホルムズ海峡を経由する輸出の流れは徐々に回復する可能性があるものの、「不確実性は依然として極めて高い」とスカルペッタ氏は強調した。
OECDが3月末に公表した予測では、G20(主要20カ国・地域)の平均インフレ率は2026年に4%と見込まれており、これは昨年12月時点の予測を上回る水準である。最新の情勢を踏まえても、この見通しは据え置かれている。
AI普及にもブレーキ—エネルギー高と貿易混乱の副作用
興味深いのは、スカルペッタ氏がエネルギー価格の高止まりと湾岸地域の貿易途絶がAI(人工知能)技術の普及を遅らせる可能性に言及した点である。OECDは米国とイスラエルが2月末にイラン空爆を開始する以前、AIの急速な導入を根拠の一つとして主要国の成長率見通しを引き上げる準備を進めていた。エネルギーコストの増大はデータセンター運営費に直結するため、AI投資の鈍化は世界経済の成長シナリオそのものを揺るがしかねない。
「ゾンビ企業」問題への警鐘
スカルペッタ氏は、エネルギー補助金の設計において、低所得世帯とエネルギー多消費型企業に支援を集中させるべきだと提言する一方、企業向け支援の適正水準を見極めることの難しさも認めた。補助金が本来退出すべき「ゾンビ企業」を延命させるリスクがあるためだ。この現象はコロナ禍後にも顕在化しており、各国政府が雇用維持を目的に広範な財政支援を行った結果、非効率な企業が市場に残存し続けた。
「企業にはエネルギーコスト上昇の一部を自ら負担させなければならない。ただし、本当に対応能力のない企業への支援は必要だ」とスカルペッタ氏は述べている。また、英国政府が導入している燃料価格比較ツール——消費者がガソリンスタンドごとの価格を比較できる仕組み——を好例として挙げ、価格支援策が実際に消費者の利益につながっているかを検証する重要性を訴えた。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のOECDの警告は、直接的にはベトナムを名指ししたものではないが、ベトナム経済・株式市場への含意は多岐にわたる。
①エネルギー価格とベトナムのインフレリスク:ベトナムは原油の純輸出国から純輸入国へと転じつつあり、国際原油価格の高騰は国内のガソリン・軽油価格に直結する。ベトナム政府も過去に環境保護税の一時引き下げなどで燃料価格を抑制した実績があるが、OECDが指摘するように財政負担との兼ね合いが課題となる。インフレ率が上昇すれば、ベトナム国家銀行(中央銀行)の金融緩和余地が狭まり、不動産・建設セクターを中心に株式市場全体の重石となりうる。
②ベトナム株式市場への影響:ペトロベトナムガス(GAS)、ペトロベトナム(PLX)などエネルギー関連銘柄は原油高の恩恵を受ける側面がある一方、航空(ベトジェット=VJC、ベトナム航空=HVN)や物流セクターは燃料コスト増が利益を圧迫する。投資家は中東情勢の推移と国内燃料価格政策の動向を注視すべきである。
③日系企業への影響:ベトナムに製造拠点を持つ日系企業にとって、エネルギーコストの上昇は生産コスト増に直結する。特に鉄鋼、セメント、化学など多エネルギー消費型産業は影響が大きい。サプライチェーンの観点からも、湾岸地域の貿易混乱による物流コスト上昇は無視できない。
④FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みだが、マクロ経済の安定性は格上げ判断の重要な要素である。エネルギー価格高騰に伴う財政悪化やインフレ加速は、格上げに向けた好環境を損なうリスクがある。一方で、ベトナム政府が財政規律を維持しつつ適切な価格政策を運営できれば、むしろ新興国の中での相対的な信頼性向上につながる可能性もある。
⑤AI関連への波及:ベトナムはFPT(FPT)を筆頭にAI・デジタル分野への投資を加速させている。世界的なAI普及の鈍化はベトナムのテック企業にとっても逆風となりうるが、相対的に安価な人件費と電力コストを武器にオフショア開発需要を取り込む好機にもなりえる。
総じて、中東の地政学リスクとエネルギー価格の不確実性は2025年後半にかけてベトナム市場の変動要因であり続ける。投資家は短期的な原油価格の動きだけでなく、各国政府の財政政策の持続可能性、そしてOECDが警告する「補助金の罠」に陥らないかどうかを冷静に見極める必要がある。
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出典: 元記事












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