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ベトナムで個人所得税(PIT)の扶養家族認定に関わる所得基準の大幅引き上げが提案された。現行の月100万ドンから月300万ドンへと3倍に引き上げる内容であり、実現すれば多くの納税者にとって実質的な減税効果をもたらす。物価上昇が続くベトナムにおいて、家計の負担軽減と内需刺激の両面で注目すべき動きである。
提案の概要—扶養家族の所得基準を3倍に
ベトナムの現行個人所得税法では、納税者が扶養家族(người phụ thuộc)として控除の対象に含めることができる家族の条件として、その家族自身の月間所得が100万ドン以下であることが求められている。今回の提案は、この基準額を月300万ドンに引き上げるというものである。
この「扶養家族控除」は、日本の所得税における「扶養控除」に類似した制度であり、納税者の課税所得から一定額を差し引くことで税負担を軽減する仕組みだ。ベトナムでは納税者本人の基礎控除額が月1,100万ドン、扶養家族1人あたりの控除額が月440万ドンとなっている。扶養家族として認定される人数が増えれば、その分だけ課税所得が圧縮され、納税額が減少する構造である。
問題は、この100万ドンという基準額が長年据え置かれてきた点にある。ベトナムの最低賃金は過去10年間で大幅に上昇しており、2024年7月からは地域区分(第1地域〜第4地域)に応じて月496万ドン〜344万6,000ドンとなっている。月100万ドンという基準は、現在のベトナムの生活水準や物価水準とかけ離れており、本来は扶養家族として認定されるべき高齢の親や障がいのある家族が、わずかな年金収入やアルバイト収入があるだけで控除対象外となってしまうケースが頻発していた。
背景—長年の課題だった個人所得税制の「時代遅れ」
ベトナムの個人所得税制をめぐっては、基礎控除額や税率区分が経済成長や物価上昇に追いついていないという批判が以前から根強い。特に基礎控除額の月1,100万ドンは2020年7月に設定されたものだが、その後のインフレや生活費の上昇を考慮すると、実質的な控除効果は年々目減りしている。
ベトナム財務省(Bộ Tài chính)や国会(Quốc hội)の各委員会では、個人所得税法の包括的な改正が繰り返し議論されてきた。今回の扶養家族所得基準の引き上げ提案も、そうした包括的改正議論の一環として浮上したものである。
ベトナムは急速な経済成長を遂げる一方で、都市部と農村部の格差、高齢化社会への移行(ベトナムは2035年頃に「高齢社会」入りすると予測されている)、中間層の拡大に伴う税負担感の増大といった課題を抱えている。扶養家族の認定基準の見直しは、こうした社会構造の変化に税制を適応させるための重要なステップと位置づけられる。
具体的な影響—誰が恩恵を受けるのか
今回の基準引き上げが実現した場合、最も恩恵を受けるのは以下のような層である。
- 年金収入のある高齢の親を扶養する世帯:ベトナムの社会保険年金は月数百万ドン程度の支給額が多く、月100万ドン超〜300万ドン以下の年金を受け取る親が新たに扶養家族として認定される可能性がある。
- パート収入のある配偶者を持つ世帯:月300万ドン以下の収入であれば扶養家族として控除対象となるため、家計全体の税負担が軽減される。
- 都市部の中間所得層:ハノイやホーチミン市などの大都市で生活する給与所得者にとって、扶養控除の拡大は手取り収入の増加に直結する。
ベトナムでは伝統的に「大家族」の形態が残っており、都市部で働く若い世代が地方の両親や祖父母を経済的に支援するケースが極めて多い。扶養家族認定の基準緩和は、こうしたベトナム社会の家族構造にも適合した政策と言えるだろう。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の提案は税制の技術的な変更に見えるが、ベトナム経済・株式市場に対してもいくつかの重要なインプリケーションを持つ。
1. 内需・消費関連銘柄へのプラス材料
扶養控除の拡大は実質的な減税であり、可処分所得の増加を通じて個人消費の押し上げ要因となる。小売大手のモバイルワールド・インベストメント(MWG)、マサングループ(MSN、ベトナム最大級の消費財・小売コングロマリット)、ビンコマース(VinCommerce、現WinCommerce)などの消費関連銘柄にとって中長期的なポジティブ材料となり得る。
2. 日系企業・在越日本人への影響
ベトナムに進出している日系企業の現地採用スタッフや、ベトナム人配偶者を持つ在越日本人にとっても、扶養控除の適用範囲拡大は人件費計算や福利厚生設計に影響する。企業の人事・税務部門は改正の動向を注視する必要がある。
3. ベトナム経済全体のトレンドとの整合性
ベトナム政府は2025〜2026年にかけてGDP成長率8%以上を目標に掲げており、内需拡大はその柱の一つである。個人所得税制の改革は、投資環境の整備と並んで、持続的な経済成長を下支えする政策として位置づけられる。2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいても、国内消費市場の厚みや中間層の購買力は、海外投資家がベトナム市場を評価する際の重要な判断材料となる。税制改革による家計の購買力向上は、こうしたマクロ的な文脈においてもプラスに作用するだろう。
4. 財政収入への影響
一方で、控除拡大は政府の個人所得税収を減少させる可能性がある。ベトナム政府はインフラ投資や社会保障の拡充に多額の財政支出を必要としており、税収減とのバランスをどう取るかが今後の議論の焦点となる。最終的な改正内容や施行時期については、国会での審議を経て確定する見通しであり、引き続き注視が必要である。
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