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ベトナム財務省は、個人事業主(ホーキンドアン)に対する個人所得税および付加価値税(VAT)の免税売上基準について、現行の年間5億ドン固定から、政府が経済情勢に応じて柔軟に設定する方式への転換を提案した。零細事業者の税負担と国家財政のバランスに直結するこの改革案は、ベトナムの膨大なインフォーマル経済の行方を左右する重要な政策転換である。
現行制度の問題点—「5億ドン」固定の限界
ベトナムでは現在、年間売上高が5億ドン以下の個人事業主(ホーキンドアン)は、個人所得税と付加価値税の納税が免除されている。この基準額は法律で固定されており、物価変動や経済成長の実態と乖離が生じやすい構造的な問題を抱えていた。
ベトナムの個人事業主は、路上の屋台や小規模な雑貨店、修理業、美容室など、国民の日常生活に密着した零細ビジネスを営む層が中心である。統計によれば全国で約500万以上の個人事業主が登録されており、その多くが免税基準の前後に売上が集中しているとされる。基準額が法律に「ハードコーディング」されているため、改定には国会での法改正が必要であり、経済環境の変化にタイムリーに対応できない点が以前から指摘されていた。
財務省の提案内容—政府に裁量権を委任
今回、財務省が提案したのは、免税売上基準の具体的な金額を法律で固定(「quy định cứng」=ハード規定)するのではなく、政府(チンフー=ベトナムの行政府)が政令レベルで定める方式に改めるという内容である。これにより、インフレ率や最低賃金の引き上げ、GDP成長率などのマクロ経済指標に応じて、国会の法改正を待たずに基準額を機動的に調整できるようになる。
この提案の背景には、ベトナムが近年経験している急速な物価上昇と所得水準の向上がある。5億ドンという金額は制度設計当初こそ零細事業者の保護に適切な水準であったが、経済成長に伴い実質的な免税範囲が縮小し、本来保護すべき層が課税対象に入るケースが増えている。一方で、基準額を安易に引き上げすぎれば、課税ベースの侵食につながり、国家歳入に影響を与えるというジレンマもある。
政府への委任方式は、こうした「法律の硬直性」と「経済の動態性」の矛盾を解消する狙いがあり、OECD諸国でも類似の仕組みを採用している国は少なくない。
ベトナムの個人事業主制度とインフォーマル経済
ベトナム経済を理解するうえで、個人事業主(ホーキンドアン)の存在は極めて重要である。ベトナムでは、法人として正式に企業登記をせず、個人事業主として事業許可を取得して営業する形態が依然として主流を占めている。特に地方部では、GDPに計上されにくいインフォーマル経済が大きな割合を占めており、税制改革はこうした層の「フォーマル化」(正規経済への編入)を促す政策ツールとしても位置づけられている。
ベトナム政府は2020年代に入り、電子インボイス(ホアドンディエントゥー)の全面導入やキャッシュレス決済の推進など、個人事業主の取引を「可視化」する施策を相次いで打ち出してきた。今回の免税基準の柔軟化も、こうした一連のフォーマル化推進の文脈で捉えるべきである。基準を経済実態に合わせてきめ細かく調整することで、過度な課税による事業者の「地下経済への逃避」を防ぎつつ、適正な納税を促す狙いがある。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への直接的なインパクトは限定的と見られる。本件は零細の個人事業主に関する税制であり、上場企業の業績に直結するものではない。しかし、間接的には以下の点で注目に値する。
第一に、消費関連銘柄への長期的プラス要因となりうる。免税基準が経済成長に連動して適切に引き上げられれば、零細事業者の手取り所得が維持・改善され、内需の下支え要因となる。小売・食品・日用品セクターの企業にとっては、ボトムオブピラミッド(低所得層)の購買力維持という観点でポジティブである。
第二に、日系企業を含む外資の小売・フランチャイズ事業への影響である。ベトナムに進出している日系コンビニチェーンや外食チェーンは、個人事業主が営む零細店舗とも競合関係にある。免税基準の変更は競争環境に微妙な変化をもたらす可能性がある。
第三に、ベトナムの制度整備・ガバナンス向上というシグナルである。2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナムは市場制度のみならず税制・行政制度全般の近代化を急いでいる。今回のような「法律のハード規定から政令への柔軟な委任」という手法は、制度運用の機動性と透明性を両立させるアプローチであり、国際的な投資家からも制度成熟の一つの指標として評価される可能性がある。
第四に、税制改革パッケージ全体への波及にも注意が必要である。ベトナムでは現在、個人所得税法、VAT法、法人所得税法など主要税法の包括的な改正議論が進んでおり、今回の個人事業主向け免税基準の見直しはその一部に過ぎない。今後、法人所得税率の変更や投資優遇税制の見直しなど、上場企業の業績に直結する改正が打ち出される可能性もあり、税制改革の動向全体をウォッチしておく必要がある。
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出典: 元記事












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