ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナムの国産スポーツブランド「Velosar(ベロサール)」の会長ファン・ミン・チン氏が、創業わずか2年のブランドを5年以内に東南アジア市場へ展開するという野心的な目標を明らかにした。海外大手ブランドが席巻するベトナムのスポーツ用品市場において、国産ブランドが地域レベルでの存在感を目指す動きは、同国の消費財産業の成熟と内需志向の高まりを象徴する注目すべきトレンドである。
Velosarとは何か——創業2年の新興ブランドの素顔
Velosarは、ベトナム国内で誕生したスポーツ用品ブランドである。創業からわずか2年という若い企業であるが、会長のファン・ミン・チン(Phan Minh Chính)氏のリーダーシップのもと、製品品質の向上と販売チャネルの整備を急ピッチで進めている。ベトナムでは、Nike、Adidas、Pumaといったグローバルブランドが都市部の若年層を中心に圧倒的なシェアを握っている一方で、近年は「国産品愛用」の機運が高まっており、アパレル・スポーツ用品分野でもベトナム発ブランドへの注目が集まっている。
ファン・ミン・チン氏は、Velosarの今後5年間の戦略として、大きく3つの柱を掲げている。第一に、製品の品質基準を国際水準に引き上げること。第二に、国内の流通・販売チャネルを完成させること。そして第三に、段階的に東南アジア(ASEAN)市場への進出を果たすことである。いずれもベトナムの新興消費財ブランドにとっては高いハードルだが、同氏はこれを実現可能な目標と位置づけている。
ベトナム国産ブランドを取り巻く市場環境
ベトナムのスポーツ用品市場は、人口約1億人、平均年齢が30歳前後という若い人口構成に支えられ、急速に拡大している。都市部ではジム通いやランニング、サイクリングなどのフィットネス文化が浸透しつつあり、スポーツウェアやシューズへの消費支出は年々増加傾向にある。
しかしながら、市場の大部分は前述の欧米系グローバルブランドに加え、中国系の低価格ブランドが占めており、ベトナム国産ブランドが本格的に競争力を持つには、デザイン力、品質管理、ブランディング、そして流通ネットワークの構築という多面的な課題を克服する必要がある。
一方で、ベトナム国内では「Made in Vietnam」に対する消費者の信頼が徐々に高まっている。かつてはベトナム製品=低品質というイメージが根強かったが、ベトナムがNike、Adidas等の世界的ブランドの主要生産拠点となっていることが広く認知されるにつれ、「ベトナムの工場で世界品質の製品を作れるのだから、自国ブランドでも高品質な製品は作れるはずだ」という意識が消費者の間に広がりつつある。靴・アパレル分野ではAnanas(アナナス)やBitis(ビティス)といった国産ブランドが若年層の支持を集めて成功を収めた先例もあり、Velosarはこうした流れに乗る形で成長を目指している。
東南アジア進出の戦略的意義
ファン・ミン・チン氏が目標に掲げる東南アジア市場への進出は、単なる販路拡大にとどまらない戦略的意義を持つ。ASEAN地域は約6.8億人の人口を擁し、中間所得層の急速な拡大により消費市場としてのポテンシャルが非常に高い。特にインドネシア、フィリピン、タイなどではスポーツ・フィットネスブームが広がっており、価格帯と品質のバランスに優れた製品には大きな需要がある。
ベトナム企業にとって、ASEAN域内での展開にはいくつかの地理的・制度的優位性がある。ASEAN経済共同体(AEC)の枠組みのもと、域内の関税は大幅に引き下げられており、物流面でも近接性を活かしたコスト優位がある。さらに、ベトナムは中国+1の生産拠点として国際的なサプライチェーンに深く組み込まれており、製造ノウハウや素材調達の面でも競争力を持っている。
Velosarが5年以内という比較的短期間での海外展開を掲げている背景には、デジタルマーケティングやEコマースの発達により、かつてほど大規模な初期投資を必要とせずに海外市場へアプローチできるようになったという時代の変化もあるだろう。Shopee、Lazadaといった東南アジア全域をカバーするECプラットフォームを活用すれば、現地に実店舗を持たずとも市場テストや初期販売を行うことが可能である。
ベトナムの消費財産業が迎える転換期
Velosarの挑戦は、ベトナム経済がより広い意味で迎えている構造転換を映し出している。長らく「世界の工場」として外資系企業の委託生産を担ってきたベトナムだが、近年は自国ブランドを育成し、付加価値の高い事業モデルへの転換を図る動きが加速している。政府もベトナムブランドの海外展開を後押しする方針を打ち出しており、「ベトナム製品のブランド化」は国家的な課題のひとつに位置づけられている。
スポーツ用品以外の分野でも、ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手のコングロマリット)傘下のVinFast(ビンファスト)がEV(電気自動車)で国際市場に挑戦し、コーヒーチェーンのHighlands Coffee(ハイランズコーヒー)がフィリピン等に進出するなど、ベトナム発ブランドの海外展開の事例は着実に増えている。Velosarのようなスタートアップ的な新興ブランドがこの潮流に加わることは、ベトナムの産業高度化の裾野が広がっていることを示している。
投資家・ビジネス視点の考察
Velosar自体は現時点で上場企業ではないため、直接的な株式投資の対象にはならないが、同社の動向はベトナムの消費財・小売セクター全体のトレンドを理解するうえで示唆に富む。
まず、ベトナム国内の消費市場の拡大は、小売・消費財関連の上場企業にとって追い風となる。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する消費財・小売関連銘柄——例えばMWG(モバイルワールドグループ)、PNJ(フージュエリー)、MML(マサングループ傘下のWinCommerce)など——は、内需拡大の恩恵を直接的に受けるセクターである。国産ブランドへの消費者支持が高まれば、OEM(受託製造)から自社ブランド展開へとシフトする企業が増え、利益率の改善が期待できる。
日本企業にとっても注目すべき動きである。ベトナムのスポーツ用品市場の成長は、ミズノ、アシックス、デサントといった日本のスポーツブランドにとって商機であると同時に、Velosarのような現地ブランドとの競合が将来的に激化する可能性も意味する。日本企業がベトナム市場で持続的な優位性を維持するには、単なる輸出・販売にとどまらず、現地パートナーとの協業や、ベトナム消費者の嗜好に合わせたローカライズ戦略が一層重要になるだろう。
また、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、同国の株式市場全体に海外資金を呼び込む大きなカタリストとなる。格上げが実現すれば、消費財セクターを含む幅広い銘柄に資金流入が期待され、国産ブランドの台頭という「ベトナムの消費ストーリー」は海外投資家に対する有力なアピールポイントのひとつとなり得る。ベトナムが単なる製造拠点ではなく、自国ブランドを育て消費市場としても成熟しつつある姿は、中長期的な投資テーマとして注目に値する。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント