ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナムの税務当局が、年間売上高5億ドン未満の個人事業主(ホーキンドアン)であっても電子インボイス(ホアドンディエントゥー)を発行できるとの公式見解を示した。これまで一部で「売上が課税基準額を下回る零細事業者はインボイスを発行できないのではないか」という誤解が広がっていたが、税務局がこれを明確に否定した形である。ベトナムで事業を展開する日系企業や個人投資家にとっても、取引先の経理処理に関わる重要なニュースである。
税務局が公式に確認した内容
ベトナム税務総局(Cục Thuế)は、個人事業主の年間売上高が5億ドンの基準額を下回る場合であっても、電子インボイスの使用は認められると公式に表明した。ベトナムでは2022年7月から全国的に電子インボイス制度が本格導入されており、従来の紙ベースの請求書・領収書から電子化への移行が急速に進んでいる。しかしながら、年間売上高5億ドン未満の個人事業主は付加価値税(VAT)の課税対象外であるため、「そもそもインボイスを発行する資格がないのではないか」という疑問が事業者の間で根強く存在していた。
ベトナムの税制では、年間売上高5億ドンが個人事業主に対するVAT課税の基準ラインとなっている。この金額を下回る事業者はVATの申告・納付義務を免除されるが、これはあくまで「VAT課税の免除」であって「インボイス発行の禁止」を意味するものではない。税務局はこの点を明確に区別し、売上規模にかかわらず電子インボイスの利用が可能であると改めて強調した。
ベトナムの電子インボイス制度の背景
ベトナムでは、2020年に公布されたインボイス・証憑に関する政令第123号(Nghị định 123/2020/NĐ-CP)および通達第78号(Thông tư 78/2021/TT-BTC)に基づき、電子インボイス制度が段階的に導入されてきた。2022年7月1日を期限として、全国のすべての企業・個人事業主が電子インボイスへの移行を求められた。この制度は、税務行政のデジタル化と透明性の向上を目的としており、脱税・税逃れの防止、そして行政手続きの効率化に大きく寄与するものと位置づけられている。
電子インボイスは税務総局のシステムに直接データが送信される仕組みとなっており、当局はリアルタイムで取引情報を把握できる。これにより、従来の紙ベースのインボイスで頻発していた偽造インボイスの流通や、架空取引による不正なVAT還付請求といった問題が大幅に改善されつつある。
個人事業主(ホーキンドアン)の実態
ベトナムにおける「ホーキンドアン(hộ kinh doanh)」は、日本でいう個人事業主に相当する事業形態である。ベトナム経済の基盤を支える存在であり、街角の飲食店、小売店、サービス業、路上の屋台に至るまで、数百万に上る事業者がこの形態で営業している。計画投資省のデータによれば、ベトナム全国には約500万超のホーキンドアンが存在するとされ、その多くが年間売上高5億ドン未満の零細規模である。
これらの零細事業者がインボイスを発行できるか否かは、取引相手となる法人企業にとっても切実な問題である。法人側がVATの仕入税額控除を行うためには、正規の電子インボイスを受け取る必要があるためだ。仮に「売上5億ドン未満の事業者はインボイスを発行できない」となれば、法人が零細事業者との取引を避ける傾向が強まり、零細事業者の経営に深刻な打撃を与えかねない。今回の税務局の公式見解は、こうした実務上の懸念を払拭する意味でも重要である。
具体的な手続き
年間売上高5億ドン未満の個人事業主が電子インボイスを発行する場合、いくつかの方法がある。まず、税務署に申請して電子インボイス用のアカウントを取得し、税務総局が提供する無料の電子インボイスシステムを利用する方法がある。また、民間の電子インボイスサービスプロバイダーと契約する方法もある。いずれの場合も、インボイスには事業者の税コード、取引内容、金額などの必要事項を記載する必要がある。
なお、VAT課税対象外の個人事業主が発行するインボイスは、VATが0%もしくはVAT非課税として処理されるため、取引相手の法人側はこのインボイスに基づくVAT仕入税額控除を受けることはできない点に留意が必要である。ただし、法人税の損金算入に際しては、正規のインボイスがあることが要件となるため、電子インボイスの発行自体は依然として意味を持つ。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュース自体は税務実務に関する技術的な内容であるが、ベトナム経済・投資の観点からいくつかの重要な示唆が含まれている。
1. デジタル経済基盤の整備加速
電子インボイス制度の普及は、ベトナム政府が推進する「デジタル経済・デジタル政府」構想の一環である。零細事業者にまでデジタルインフラが浸透することは、経済全体の透明性向上に直結する。これは、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいても、市場の制度的透明性を示すポジティブな材料となり得る。海外投資家がベトナム市場の「ガバナンス水準」を評価する際、税務行政のデジタル化は間接的にプラスの評価材料となるだろう。
2. 電子インボイス関連IT企業への追い風
電子インボイスサービスを提供するベトナムのIT企業にとっては、潜在的な顧客層が500万超の個人事業主に広がることを意味する。ベトナム株式市場に上場するIT関連企業の中には、電子インボイスプラットフォームを手がける企業も存在しており、こうした企業の業績に中長期的な恩恵が期待できる。
3. 日系企業・ベトナム進出企業への影響
ベトナムに進出している日系企業にとって、現地の個人事業主との取引は日常的に発生する。例えば、ローカルのサプライヤーやサービス提供者が零細の個人事業主であるケースは珍しくない。今回の明確化により、こうした取引先からも正規の電子インボイスを受領できることが確認されたことは、経理実務上の安心材料となる。ただし前述の通り、VAT仕入税額控除の可否については別途確認が必要である。
4. ベトナムの「フォーマル経済」への移行
零細事業者の電子インボイス利用促進は、ベトナム経済における「インフォーマル経済(非公式経済)」から「フォーマル経済(公式経済)」への移行を加速させる政策の一環でもある。税収基盤の拡大は、ベトナム政府の財政健全性向上につながり、中長期的にはソブリン格付けの改善やインフラ投資の拡大を通じて、株式市場全体にプラスの影響を及ぼす可能性がある。
総じて、今回の税務局の公式見解は、ベトナムのビジネス環境が着実に制度化・透明化に向かっていることを示す一つのシグナルである。ベトナム経済への投資を検討する日本の投資家にとっては、こうした「地味だが着実な制度改革」の積み重ねこそが、中長期的な投資判断の基盤となるものである。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント