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ベトナム国会でクアンチ省(Quảng Trị、中部の省)副主席のホアン・スアン・タン(Hoàng Xuân Tân)氏が、公共入札制度の構造的問題を指摘した。「入札価格が低ければ低いほど、プロジェクトの品質は低下し、工期は遅延する傾向にある」という率直な発言は、ベトナムのインフラ投資全体に関わる深刻な課題を浮き彫りにしている。
国会審議で噴出した「ダンピング入札」への批判
ベトナムでは公共事業の入札において、落札価格の低さが最優先の評価基準となるケースが長年にわたり問題視されてきた。今回、クアンチ省副主席のホアン・スアン・タン国会議員が国会の場で改めてこの問題を取り上げ、「入札価格が低いほどプロジェクトの品質が低下し、進捗が遅れる傾向がある」と明言した。
クアンチ省は南北を縦断する国道1号線やホーチミン・ルートが通る交通の要衝であり、近年は風力発電プロジェクトやインフラ整備が活発化している地域である。同省の行政トップの一人がこうした発言を行った背景には、地方レベルで日常的に目にしている入札制度の機能不全があるとみられる。
なぜ「安値落札」が品質低下と遅延を招くのか
ベトナムの公共入札制度では、価格評価に過度な重みが置かれる構造が根強い。その結果、以下のような悪循環が生じている。
① 受注ありきの低価格提示
建設業者は案件を確保するために、実際の施工コストを下回る価格で入札する。いわゆる「ダンピング入札」である。受注後に追加費用を請求するか、資材・人件費を削るかのいずれかで帳尻を合わせようとする。
② 資材・品質の切り詰め
利益を確保するために、コンクリートの品質や鉄筋の使用量を基準以下に抑える事例が後を絶たない。完成後数年で路面がひび割れたり、橋梁に構造的欠陥が見つかるといった事案はベトナム国内メディアでも繰り返し報じられている。
③ 下請け・孫請けの多重構造
低価格で落札した元請け業者が、さらに低い金額で下請けに丸投げするケースも多い。施工管理が行き届かず、工期の遅延や手戻りが発生する。
④ 資金繰りの悪化による工事中断
採算割れの案件では、業者が途中で資金難に陥り、工事が数カ月から数年にわたって止まることすらある。ベトナム全土の高速道路プロジェクトや都市開発で、こうした「塩漬け案件」は枚挙にいとまがない。
ベトナムのインフラ投資と入札制度改革の動き
ベトナム政府は2025年から2030年にかけて、高速道路網の総延長を現在の約2,000kmから5,000km規模へと一気に拡大する計画を推進している。南北高速道路の全線開通をはじめ、各地方を結ぶ環状道路や国際空港アクセス道路など、大型インフラ案件が目白押しである。
こうした巨額のインフラ投資を効果的に執行するためには、入札制度の抜本的な見直しが不可欠である。実際、2023年に改正された入札法(Luật Đấu thầu)では、価格のみならず技術力・施工実績・工期遵守率といった多角的な評価基準を導入する方向性が示された。しかし、地方レベルでの運用には依然として旧来の「最低価格優先」の慣行が残っているとの指摘が多い。
タン副主席の発言は、法律の改正だけでは不十分であり、実務レベルでの評価基準の厳格化や監督体制の強化が急務であることを改めて訴えたものといえる。
日本のODA案件との関連
ベトナムは日本にとって最大級のODA(政府開発援助)供与先であり、ハノイやホーチミン市の都市鉄道、橋梁、港湾など多数のインフラ案件が日本の円借款で進められている。ハノイ都市鉄道2A号線(カットリン〜ハドン線)が工期の大幅な遅延とコスト超過で問題になったことは記憶に新しい。
日本の建設企業がベトナムで公共工事に参画する場合、現地の入札制度や下請け構造の実態を理解しておくことは極めて重要である。低価格入札の横行は、日本企業が適正価格で入札した場合に不利になるリスクがある一方、品質重視の評価基準が浸透すれば、日本企業の技術力が正当に評価される可能性も高まる。
投資家・ビジネス視点の考察
建設・インフラ関連銘柄への影響
ベトナム株式市場には、コテックコン(CTD)、ホアビン建設(HBC)、リリアマ(LCG)など複数の建設セクター銘柄が上場している。入札制度が「最低価格」から「総合評価」へと実質的にシフトすれば、技術力と財務基盤に優れる大手建設企業にとっては追い風となる。逆に、低価格受注で案件数を稼いできた中小業者は淘汰が進む可能性がある。
公共投資の執行率への注目
ベトナム政府は毎年、公共投資の執行率(予算消化率)を重要なKPIとして掲げているが、入札プロセスの遅延や施工業者の選定トラブルが執行率の低迷を招く主因のひとつとなっている。入札制度の改善が進めば、公共投資の執行率が向上し、GDP成長率の押し上げにも寄与する。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げに向けて、制度の透明性・ガバナンスの改善は市場全体の信頼性を高める要素である。入札制度改革は直接的な格上げ要件ではないものの、公共セクターの透明性向上はESG(環境・社会・ガバナンス)観点から海外機関投資家の評価にプラスに働く。
日本企業への示唆
ベトナムでインフラ関連ビジネスを展開する日本企業(大林組、清水建設、鹿島建設などのゼネコン、あるいはコンサルティング企業)にとっては、入札制度の透明化は参入障壁の低下につながり得る。特に品質・安全管理のノウハウを強みとする日本企業は、制度改革の恩恵を受ける立場にある。今後の国会審議や入札法の施行細則の動向を注視すべきである。
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出典: 元記事(VnExpress)












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