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ベトナム民間銀行大手のテクコムバンク(Techcombank、ホーチミン証券取引所ティッカー:TCB)が、2025年第1四半期の税引前利益として8,900億ドン(兆ドン単位では8.9兆ドン)を計上し、同行の第1四半期としては過去最高の数字を記録した。前年同期比で22.6%の増益であり、金利収入と手数料収入の双方が同時に成長したことが大きな要因とされている。ベトナム銀行セクター全体の好調ぶりを象徴するニュースとして、市場関係者の注目を集めている。
テクコムバンクとは何か——ベトナム民間銀行の雄
テクコムバンク(正式名称:Vietnam Technological and Commercial Joint Stock Bank)は、1993年に設立されたベトナムを代表する民間商業銀行の一つである。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場しており、時価総額ではベトナムの銀行セクターにおいて常に上位にランクインする。同行は不動産関連融資やリテール(個人向け)バンキングに強みを持ち、ベトナム最大の不動産デベロッパーの一つであるマサングループ(Masan Group)やビンホームズ(Vinhomes)との取引関係でも知られてきた。近年はデジタルバンキングへの投資を加速させており、モバイルアプリを通じた個人顧客の獲得にも積極的である。
第1四半期決算の詳細——何が利益を押し上げたのか
同行が公表した2025年第1四半期の税引前利益は8,900億ドンで、前年同期比22.6%増となった。これは同行がこれまでに記録した第1四半期業績としては過去最高水準である。
利益成長の原動力として挙げられるのは、大きく以下の2つである。
第一に、純金利収入(NII:Net Interest Income)の拡大である。ベトナム国家銀行(中央銀行)が2023年から2024年にかけて段階的に政策金利を引き下げたことにより、銀行セクター全体で資金調達コストが低下した。一方で貸出需要は個人ローン・企業向け融資ともに回復基調にあり、テクコムバンクは預貸金利差(NIM:Net Interest Margin)の改善を享受した形である。ベトナムでは2024年後半から不動産市場の回復が鮮明になり、住宅ローン需要の増加が銀行の金利収入を底上げしている。
第二に、手数料・サービス収入の伸長である。テクコムバンクはクレジットカード、保険代理販売(バンカシュアランス)、送金サービス、投資信託の販売など非金利収入の多角化を進めてきた。デジタルチャネル経由の取引件数が増加したことで、手数料収入が前年同期から大きく伸びたとみられる。同行はかねてより「非金利収入比率の向上」を中期経営目標の一つに掲げており、その戦略が着実に実を結びつつあることが今回の決算で裏付けられた。
ベトナム銀行セクター全体の好調——マクロ環境との関係
テクコムバンクの好決算は、同行固有の要因だけでなく、ベトナム銀行セクター全体を取り巻くマクロ環境の追い風も大きい。2025年第1四半期のベトナムGDP成長率は政府目標を上回るペースで推移しており、製造業・輸出セクターの回復が企業の資金需要を喚起している。さらに、政府が推進するインフラ投資(南北高速道路やロンタイン(Long Thanh)国際空港建設など)に伴う大型融資案件も銀行セクターの収益機会を拡大させている。
また、ベトナムでは都市部を中心に中間層が急速に拡大しており、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードといったリテール金融の需要が構造的に伸びている。人口約1億人、平均年齢30歳台前半という若い人口構成は、銀行セクターにとって中長期的な成長ドライバーであり続ける。
投資家・ビジネス視点の考察
■ ベトナム株式市場・銀行株への影響
テクコムバンク(TCB)はホーチミン証券取引所のVN-Index構成銘柄の中でも時価総額上位に位置し、同行の好決算はインデックス全体のセンチメントにもプラスに働く。2025年に入り、ベトナムの主要上場銀行はいずれも増益基調を示しており、VCB(ベトコムバンク)、BID(BIDV)、MBB(MBバンク)など同業他社の決算にも期待が高まる。銀行セクターはVN-Index全体の時価総額の約3割を占めるため、セクター全体の好調はベトナム株式市場全体の底上げ要因となる。
■ FTSE新興市場指数への格上げとの関連
ベトナムは現在FTSEラッセルの「フロンティア市場」に分類されているが、2025年3月に市場アクセス改善を目的とした証券制度改革(プレファンディング要件の緩和、外国人投資家の口座開設手続き簡素化など)が進展し、2026年9月のFTSE定期レビューでの「新興市場」への格上げが有力視されている。格上げが実現した場合、新興市場型ETFを通じた海外パッシブ資金の大量流入が見込まれるが、その恩恵を最も受けるのが銀行セクターの大型株である。テクコムバンクのような時価総額上位の銀行株は、格上げ時のインデックス組み入れ比率が高くなるため、中長期的な買い材料として注目に値する。
■ 日本企業・日本人投資家への示唆
日本の金融機関はベトナムの銀行セクターへの出資・提携を積極的に進めてきた歴史がある(例:みずほフィナンシャルグループとベトコムバンクの提携、三井住友銀行とEximbank(エクシムバンク)の資本関係など)。テクコムバンクの好業績はベトナム金融セクターの収益力の高さを改めて示すものであり、今後も日本の金融機関やファンドがベトナムの銀行株に対する投資比率を引き上げる可能性がある。また、ベトナムに進出している日系製造業にとっても、現地銀行の健全性と収益力の改善は、融資条件の改善やプロジェクトファイナンスの利便性向上につながるポジティブなシグナルである。
■ リスク要因
一方で注意すべき点もある。ベトナムの不動産市場は回復途上にあるものの、一部のデベロッパーでは社債償還リスクが依然として残っている。テクコムバンクは不動産関連融資のエクスポージャーが比較的大きいとされるため、不動産セクターの動向次第では不良債権比率が上昇するリスクがある。また、米中貿易摩擦の再燃やトランプ政権による関税政策の変動がベトナムの輸出産業に影響を及ぼした場合、企業向け融資の質が悪化する可能性も否定できない。投資家としては、好業績の裏にあるリスク要因にも目配りが必要である。
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出典: 元記事












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