ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナム政府が内需拡大に向けた決議第88号を発布する中、4月30日の南部解放記念日・5月1日のメーデーを含む大型連休に合わせ、大手小売各社が最大50%の大規模セールを一斉展開している。しかし、消費者の購買行動が「価格」から「価値」へと明確にシフトしつつあり、値引き一辺倒の戦略はもはや万能ではなくなっている。
政府決議第88号——内需刺激と「ベトナム製品優先」運動の加速
ベトナム政府はこのほど、国内市場の発展促進と消費喚起を目的とする決議第88号(Nghị quyết số 88/NQ-CP)を公布した。同決議は「ベトナム人はベトナム製品を優先的に使おう(Người Việt Nam ưu tiên dùng hàng Việt Nam)」運動の推進を明確に掲げ、内需拡大を通じた経済成長のエンジン構築を目指す内容である。
注目すべきは、OCOP(One Commune One Product=一村一品)製品をショッピングモール、工業団地、住宅地といった、従来は地方特産品とは縁遠かった消費空間に積極的に展開する方針が盛り込まれた点である。「ベトナム製品月間(Tháng hàng Việt)」や高品質ベトナム製品フェア、OCOP週間など大規模な消費喚起プログラムとの連動も計画されており、単なる「展示」ではなく、実売と消費循環の創出を志向するアプローチが鮮明だ。
ガソリン価格下落で物価に落ち着き——小売各社は連休セールを一斉展開
直近のガソリン価格の連続引き下げを受け、ハノイおよびホーチミン市の商品価格には沈静化の兆しが見られる。仕入れコストの低下は零細小売業者や小売企業にとって追い風だが、消費の回復ペースは依然として緩やかな状況が続いている。
こうした中、大型連休に向けて主要小売チェーンが大規模な販促キャンペーンを一斉に展開している。
Satra(サトラ、ホーチミン市を拠点とする国営系小売グループ)は、4月23日から5月10日まで「大祭日輝く—セール全開」キャンペーンを実施。Satra Mart全4店舗とSatra Food150店舗以上で、「3個買って2個分の価格」や衝撃価格セール、99,000ドン以上の会計で無料特典といった多彩な販促を展開している。同社商業センター営業部副部長のチャン・シー・クイ(Trần Sỹ Quý)氏は、オンライン購入や宅配サービスの強化も併せて進めていると説明する。
MM Mega Market Việt Nam(MMメガマーケット・ベトナム、旧メトロキャッシュアンドキャリーの流れを汲む大型卸売・小売チェーン)は、4月23日から5月6日まで、フン王命日(Giỗ Tổ Hùng Vương=ベトナム建国の祖を祀る祝日)および4月30日〜5月1日連休に合わせた大型消費喚起キャンペーンを展開。今年の目玉は「地方祭りとOCOP特産品フェスティバル」と銘打った展示販売スペースで、3つ星から5つ星のOCOP認定商品を10%〜約20%引きで提供する。伝統的な魚醤(ヌクマム)、蝦醤(マムルオック)、胡椒、干しキノコ、ライスペーパー、高級茶葉、菓子類など幅広いラインナップだ。同社のグエン・ドゥック・トアン(Nguyễn Đức Toàn)CEO兼総支配人は「特産品の販売強化は、消費者の買い物かごを多様化するだけでなく、OCOP農産物を地方の枠を超えて近代的小売チャネルでブランド価値を高める戦略的な架け橋になる」と語る。さらに、食品・飲料・生鮮品・家電・アウトドア用品に至るまで最大50%の割引キャンペーンも同時実施している。
Lotte Mart(ロッテマート、韓国ロッテグループ傘下)も4月22日から5月5日まで「統一を祝う、超お得セール」を展開。輸入牛肉、輸入リンゴ、調味料、洗剤など幅広い商品を最大50%引きとし、週末には会員向けに500,000ドン以上の購入で衝撃価格商品を購入できる特典も設けている。
値引きはもはや万能の武器ではない——消費者行動の構造的変化
長年にわたり、食品・飲料・日用品・化粧品といったカテゴリーでは、プロモーションが最も効果的な消費喚起策とされてきた。しかし、その前提が大きく揺らぎ始めている。
主要ECプラットフォームでは、4月初旬から「ゾロ目の日(4月4日)」セール、月半ばセール、給料日セール、カテゴリー別セールと切れ目なくキャンペーンが続く。この過密ぶりが、値引きから「驚き」という要素——購買行動を後押しする重要なトリガー——を奪い去っている。多くの小売企業もプロモーション頻度を上げなければ売上を維持できないと認めつつ、効果の逓減を実感している。売上は維持できても、割引コスト・広告費・運営費が利益を侵食する構造に陥っているのだ。
NielsenIQ(ニールセンIQ)の調査では、ベトナムの消費者は単なる値引き幅ではなく「受け取る価値(value for money)」をますます重視する傾向が明らかになっている。PwCベトナムの調査でも、消費者は複数チャネルで価格を比較し、購入前に慎重に検討する行動が顕著だ。価格は唯一の判断基準ではなくなり、品質や購買体験との総合的な比較の中で評価されるようになっている。
TikTokの最新レポートによると、ベトナムの消費者の95%が「リアルなコンテンツ」が購買決定に直接影響すると回答し、76%がそうしたコンテンツに接触後、商品を検索・閲覧・カートに追加する行動をとっている。グローバルではNielsenが、消費者の92%が従来型広告よりもユーザー発信の口コミを信頼すると報告している。「信頼」が購買行動の中核的な要素へと昇格しつつあるのだ。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の動きは、ベトナム消費市場の「成熟化」を象徴するニュースとして注目に値する。いくつかのポイントを整理したい。
小売セクター銘柄への影響:連休商戦での大規模プロモーションは短期的な売上増に寄与するものの、利益率の圧縮が懸念される。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するMWG(モバイルワールド・インベストメント)、MWGグループ傘下のBach Hoa Xanh(バックホアサイン)、FRT(FPTリテール)といった小売関連銘柄は、「値引きの先」にある付加価値戦略をどう構築するかが中長期的な株価評価に直結する。
OCOP・地方特産品の近代流通チャネルへの統合:政府決議第88号がOCOP製品の都市部・商業施設への展開を後押しすることで、食品加工・農産物流通関連企業にビジネス機会が生まれる。日本企業にとっても、OCOP認証制度を活用した日越共同の商品開発やコールドチェーン整備など、サプライチェーン参入の糸口となり得る。
消費者行動のデジタルシフト:TikTokやEC上の口コミが購買決定を左右する構造は、デジタルマーケティング関連企業やECプラットフォーム事業者にとって追い風だ。ベトナムのデジタル経済の拡大は、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げ議論においても、市場の厚みと流動性を裏付ける材料の一つとなる。
内需主導型成長へのシフト:米中貿易摩擦や世界的な景気減速リスクの中、ベトナム政府が内需拡大を経済成長の柱に据える姿勢を明確にした意義は大きい。輸出依存度の高いベトナム経済にとって、内需の底上げは構造的なリスク分散策でもあり、中長期投資の観点から評価できる。
ベトナム消費市場は、「安さで客を呼ぶ」段階から「価値で客を留める」段階へと明確に移行しつつある。この転換点を見極めることが、今後の投資判断やベトナム市場参入戦略において極めて重要である。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント