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ベトナムのファム・ミン・チン首相が、2025年第1四半期の公共投資(đầu tư công)の資金執行率(giải ngân)が全国平均を下回った28の中央省庁・機関および18の地方自治体を名指しで批判した。ベトナムが掲げる高成長目標の実現には、公共投資の迅速な執行が不可欠であり、この「叱責」は政府の危機感の表れといえる。
何が起きたのか──首相による異例の「名指し批判」
ファム・ミン・チン首相は、2025年第1四半期における公共投資の資金執行(ベトナム語で「giải ngân」、予算として配分された資金を実際にプロジェクトに支出すること)の進捗状況を総括する場で、全国平均の執行率を下回った28の中央省庁・政府機関、そして18の地方省・市を公式に批判した。ベトナムでは毎年、公共投資予算の執行遅延が繰り返し問題視されてきたが、これほど多くの機関が一度に名指しされるのは、政府が本腰を入れて対処しようとしていることを示している。
公共投資の執行遅延はなぜ起きるのか
ベトナムにおける公共投資の執行遅延は、いわば「慢性疾患」ともいえる構造的な問題である。その主な原因は以下の通りだ。
①用地収用(giải phóng mặt bằng)の難航:ベトナムでは土地の所有権は国家に帰属し、国民には「土地使用権」が認められている。インフラ建設のために土地を収用する際、補償額をめぐる住民との交渉が長期化するケースが極めて多い。特に都市部や近郊では地価が高騰しており、補償基準と市場価格の乖離が大きな障壁となっている。
②複雑な行政手続き:環境アセスメント、建設許認可、入札手続きなど、プロジェクト開始までに複数の省庁・部門の承認が必要であり、書類の差し戻しや再審査が頻繁に発生する。近年の反腐敗キャンペーン(いわゆる「燃える炉」運動)の影響で、地方幹部が責任追及を恐れて意思決定を先送りにする「不作為」の傾向も指摘されている。
③プロジェクト準備の不備:予算が配分されても、そもそも詳細設計や実施計画が整っていないプロジェクトが少なくない。計画段階での精度が低いため、着工後に設計変更や追加手続きが必要になり、さらなる遅延を招く悪循環が生じている。
④建設資材・人材の不足:大型インフラ案件が集中する時期には、砂・砂利などの建設資材が不足し、価格が高騰する。南部メコンデルタ地域を通る高速道路建設では、埋め立て用の砂の確保が深刻なボトルネックとなったことが記憶に新しい。
なぜ今、首相が強く動いたのか
ベトナム政府は2025年のGDP成長率目標を8%以上という極めて高い水準に設定している。この野心的な目標を達成するには、公共投資が牽引役となることが不可欠だ。道路、鉄道、港湾、空港といった大型インフラプロジェクトへの投資は、建設業界だけでなく、セメント・鉄鋼・機械などの関連産業への波及効果も大きい。
特に2025年は、南北高速道路(ベトナム縦貫の大動脈で、全長約2,000km超)の全線完成に向けた工事が最終局面を迎えるほか、ロンタイン新国際空港(ホーチミン市郊外のドンナイ省に建設中の大型空港)の第1期開港に向けた追い込み、さらにはホーチミン市やハノイの都市鉄道(メトロ)の延伸計画など、巨額の公共投資案件が目白押しである。第1四半期の段階で執行率が低迷していては、年末までに予算を消化しきれず、成長目標の達成が危うくなる。
チン首相はこれまでも公共投資の加速を繰り返し指示しており、執行率の高い省庁・地方を表彰する一方、低迷するところにはトップの責任を問う姿勢を明確にしてきた。今回の「28省庁・18地方」という具体的な数字を伴う批判は、年度後半に向けた巻き返しを強く促すメッセージである。
日本との関係──ODA・インフラ協力の現場でも影響
日本はベトナムにとって最大のODA(政府開発援助)供与国の一つであり、多くの日本のODA案件もベトナムの公共投資予算と連動して執行される。ハノイやホーチミン市の都市鉄道プロジェクト(日本のODA円借款が活用されている)や、港湾・橋梁整備などでは、ベトナム側の手続き遅延が日本企業のスケジュールにも直接影響を及ぼしてきた。今回の首相の強い姿勢は、日本の援助機関やゼネコンにとっても、プロジェクト推進の追い風となる可能性がある。
投資家・ビジネス視点の考察
【ベトナム株式市場への影響】
公共投資の執行加速は、建設・インフラ関連銘柄にとって最大のカタリスト(株価変動の要因)である。セメント大手、鉄鋼メーカー、建設請負企業、そして建設機械のリース・販売を手がける企業は、年度後半に執行ペースが加速すれば業績の上振れが期待できる。過去にも「第1四半期に低迷→首相の叱責→第3〜4四半期に駆け込み執行」というパターンが繰り返されており、投資家にとっては下期に向けたポジション構築の好機ともいえる。
【日系企業への影響】
ベトナムに進出している日系建設会社やコンサルティング企業にとっては、執行ペースの改善は受注・売上の回復に直結する。一方で、急激な駆け込み執行は品質管理の面でリスクもあり、現場のマネジメント力が問われる局面だ。
【FTSE新興市場指数との関連】
ベトナムは2025年9月にもFTSEラッセルによる新興市場(セカンダリー・エマージング)への格上げ判定を控えている。格上げが実現すれば、海外の機関投資家から数十億ドル規模の資金流入が見込まれる。公共投資の着実な執行はGDP成長率の押し上げ要因であり、マクロ経済の安定性を対外的にアピールする上でも重要だ。逆に言えば、執行遅延が長引き成長率が目標を大きく下回るような事態は、市場の信認に影を落としかねない。
【ベトナム経済全体の文脈】
2025年のベトナム経済は、米中貿易摩擦の余波によるサプライチェーン再編の恩恵を受ける一方、世界経済の減速リスクにも直面している。輸出が伸び悩む局面では、内需・公共投資が成長の下支え役を担う。首相の今回の強い指導は、外需の不透明感を補うために内需エンジンをフル稼働させようという政策意図の表れでもある。
今後注目すべきは、第2四半期以降の月次・四半期ベースの執行率データである。ここで目に見える改善が確認できれば、市場にとってはポジティブなシグナルとなるだろう。
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出典: 元記事












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