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韓国第2位の自動車メーカー・Kia(起亜自動車)のCEOが、欧州市場において中国メーカーとの「価格戦争」に正面から挑む方針を表明した。北京政府がEV(電気自動車)補助金を縮小する局面を好機と捉え、中国勢との価格差を一気に縮めるという大胆な戦略である。この動きは欧州のみならず、ベトナムを含む東南アジアの自動車市場にも大きな波紋を広げる可能性がある。
KiaのCEOが語った「価格戦争」参戦の論理
Kiaの最高経営責任者(CEO)は、欧州市場で勢力を拡大する中国の自動車メーカーに対し、これまでの「棲み分け戦略」から一転、価格面で真っ向から対抗する姿勢を鮮明にした。その根拠として挙げたのが、中国政府によるEV補助金の打ち切り・縮小の動きである。
CEOの見立てはこうだ。これまで中国メーカーが欧州市場で競争力を発揮できた最大の要因は、北京政府による手厚い補助金に支えられた圧倒的な低価格にあった。しかし、中国政府がEV補助金を段階的に縮小・停止する方向に動いている現在、中国メーカーはこれまでのような超低価格を維持するための「資源(リソース)」が不足しつつある。つまり、補助金という「燃料タンク」が空になりつつある中国勢は、これ以上の価格攻勢を仕掛ける体力を失いつつある——というのがKia側の分析である。
この判断に基づき、Kiaは中国メーカーとの価格差を積極的に縮める方針を打ち出した。従来、韓国メーカーは品質・ブランド力で勝負する「プレミアム寄り」の戦略を取ってきたが、今回の方針転換は、価格帯を下げてでもシェアを死守するという覚悟の表れである。
背景:中国EVメーカーの欧州進出と「価格破壊」
ここ数年、BYD(比亜迪)やMG(上汽集団傘下)、NIO(蔚来汽車)といった中国のEVメーカーが、欧州市場に怒涛の勢いで進出してきた。これらのメーカーは、中国国内で培った量産技術とサプライチェーン、そして政府補助金を武器に、欧州の既存メーカーよりも2〜3割安い価格帯で攻勢をかけてきた。
これに対し、EUは2023年に中国製EVに対する反補助金調査を開始し、2024年には追加関税を課す措置に踏み切った。しかし関税だけでは中国勢の攻勢を完全に止めることはできず、韓国勢を含む既存メーカーはシェア防衛に苦慮していた。
そうした中で、中国政府自体がEV補助金を縮小し始めたことは、Kiaにとっては「反転攻勢」の絶好のタイミングと映ったわけである。中国メーカーが補助金なしで欧州市場での価格競争力を維持できるかどうかは未知数であり、その「隙」を突こうという戦略だ。
Kia・ヒョンデグループの競争力と課題
Kiaは親会社のヒョンデ(現代自動車グループ)とともに、近年グローバル市場で急速にプレゼンスを高めてきた。特にEVでは「EV6」「EV9」などのモデルが欧州や北米で高い評価を得ており、デザイン・品質面での競争力は確立されている。
一方で、価格面では中国メーカーに対して明確な不利を抱えていた。韓国国内の人件費上昇、ウォン安によるコスト構造の変化、バッテリー調達コストなど、コスト削減にも限界がある。今回の「価格戦争」参戦が、利益率をどこまで圧迫するのかは注視が必要である。
ベトナム・東南アジア市場への影響
この欧州での「価格戦争」は、ベトナムをはじめとする東南アジア市場にも間接的な影響を及ぼす可能性が高い。理由は以下の通りである。
第一に、ベトナム市場では中国メーカーと韓国メーカーの競合が既に激化している。ベトナムではKiaブランドは長年にわたり高い人気を誇り、THACO(チュオンハイ自動車、ベトナム最大の自動車メーカー)がKia車の現地生産・販売を手がけている。一方で、BYDやChery(奇瑞汽車)といった中国メーカーもベトナム市場への本格参入を進めており、価格競争はすでに始まっている。
第二に、ベトナム国産EVメーカーであるVinFast(ビンファスト、ビングループ傘下のEVメーカー)にとっても、欧州での価格戦争の行方は他人事ではない。VinFastは欧州・北米市場への進出を目指しており、中国勢とKiaが価格面で激しく争う市場環境は、VinFastにとって追加的な逆風となる可能性がある。
第三に、欧州での価格引き下げ競争が、各メーカーの東南アジア向け価格戦略にも波及する可能性がある。グローバルメーカーが欧州で利益を削られれば、成長市場である東南アジアでの利益確保を優先する動きが出る一方、逆に在庫の流れが変わることで東南アジア向けの価格にも下方圧力がかかるシナリオも想定される。
投資家・ビジネス視点の考察
本ニュースは、自動車セクターに関心を持つ投資家にとって複数の示唆を含んでいる。
ベトナム株式市場への影響:直接的にはTHACO(非上場だが関連会社のTHACO GROUP=HoSE: SCS等に間接的影響)やVinFast(NASDAQ上場:VFS)の株価動向に注目が集まる。中国メーカーとの価格競争激化は、ベトナム国内の自動車販売台数やメーカーの利益率に影響を与え得る。
日本企業への影響:トヨタ、ホンダ、三菱といった日本メーカーもベトナムおよび東南アジアで強いプレゼンスを持つ。中国・韓国メーカー間の価格戦争が東南アジアに波及した場合、日本メーカーもこれに対応を迫られる可能性がある。特にEVシフトが遅れがちな日本メーカーにとっては、価格とEV性能の両面で二重の圧力となり得る。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、ベトナム株式市場全体への資金流入を促進する。自動車・製造業セクターもその恩恵を受ける可能性があるが、グローバルな価格競争の激化が個別企業の業績を圧迫すれば、セクター内での銘柄選別がより重要になる局面と言える。
マクロ的な位置づけ:今回のニュースは、EV市場をめぐる米中対立・EU の通商政策・韓国メーカーの戦略転換という複数のグローバルトレンドが交差する事例であり、ベトナム経済が世界のサプライチェーンに深く組み込まれている現状を改めて浮き彫りにしている。ベトナムは「チャイナ+1」戦略の受け皿として製造業誘致を進めているが、自動車セクターではむしろ中国メーカーとの競争に直面しているという複雑な構図が見て取れる。
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出典: 元記事












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