ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナム政府はこのほど、個人事業主(ホーキンドアン)に対する課税対象となる年間売上高の基準額を、従来の水準から大幅に引き上げ、年間10億ドンとする新たな規定を施行した。さらに、小規模企業に対しても初めて課税免除の基準額を設ける画期的な措置を打ち出した。ベトナム経済の屋台骨を支える零細・中小事業者にとって、税負担の軽減は極めて大きな意味を持つ。
制度改正の概要——何が変わったのか
今回の改正の最大のポイントは、個人事業主(ベトナム語で「hộ kinh doanh」、日本の個人事業主に近い事業形態)に適用される課税売上基準額の引き上げである。ベトナムでは、一定の年間売上高を下回る個人事業主は付加価値税(VAT)および個人所得税の納付が免除される仕組みが従来から存在していた。この基準額がこれまでの水準から年間10億ドンにまで大幅に引き上げられたことで、課税対象から外れる事業者の数が飛躍的に増加する見通しである。
加えて、今回の政府決定では小規模企業(doanh nghiệp nhỏ)に対しても初めて課税免除の売上基準が設定された。これはベトナムの税制史上初の試みであり、法人格を持つ小規模企業にも個人事業主と同様の免税恩恵を与えるという、政策上の大きな転換点と言える。
背景——ベトナムの零細・中小事業者の実態
ベトナム経済を語る上で欠かせないのが、「ホーキンドアン」と呼ばれる個人事業主の存在である。街角の食堂、路上の屋台、小売店、理髪店、修理工場など、ベトナムの日常生活を支える無数の事業者がこのカテゴリーに属する。ベトナム統計総局のデータによれば、全国で約500万以上の個人事業主が登録されており、実際にはさらに多くの未登録事業者が存在するとされる。
これらの零細事業者は、GDPへの貢献度こそ個々には小さいものの、雇用の受け皿としての機能は極めて大きく、特に農村部や地方都市においては地域経済の根幹をなしている。しかし、課税基準額が低く設定されていた従来の制度下では、売上がわずかに基準を超えただけで納税義務が発生し、事務負担と税負担の両面で事業者を圧迫していた。
ベトナム政府は近年、新型コロナウイルス感染症の影響からの経済回復を加速させるため、減税・税制優遇を相次いで打ち出してきた。2023年から2025年にかけてはVATの2%引き下げ(10%→8%)を断続的に実施するなど、消費喚起と事業者支援を並行して進めてきた経緯がある。今回の課税基準額の引き上げも、こうした一連の中小事業者支援策の延長線上に位置づけられる。
小規模企業への初の免税枠——その意義
従来、ベトナムの税制において課税免除の売上基準は個人事業主にのみ適用されており、法人格を持つ企業は規模の大小にかかわらず法人所得税やVATの納税義務を負っていた。このため、あえて法人化せずに個人事業主のまま事業を継続する、いわゆる「法人化回避」が広く見られ、ベトナムの企業セクターのフォーマル化(正規化)を阻む一因となっていた。
今回、小規模企業にも初めて課税免除基準が設けられたことで、個人事業主から法人への移行を促すインセンティブが生まれる。ベトナム政府は以前から個人事業主の法人化を推進しており、2020年の企業法改正でも手続きの簡素化が図られたが、税制面でのメリットがなければ実効性は限られていた。今回の措置はその「最後のピース」とも言える政策転換である。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム内需・消費関連への追い風
課税基準の引き上げにより、数百万規模の個人事業主・小規模企業の手元に残るキャッシュが増加する。これは国内消費の底上げにつながり、小売・消費財セクターにとってはプラス材料と言える。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する小売大手のモバイルワールド(MWG)や、食品・飲料セクターの企業にとって、内需拡大は中長期的な業績押し上げ要因となり得る。
フォーマルセクター拡大とFTSE格上げへの間接的影響
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナムは市場の透明性や制度的整備を着実に進めている。零細事業者の法人化促進は、経済のフォーマル化(正規経済化)を意味し、税収基盤の拡大と財政健全性の向上に寄与する。これは格付け機関や指数運営会社が重視する「制度的安定性」の改善として、間接的にFTSE格上げの追い風となる可能性がある。
日系企業・ベトナム進出企業への影響
ベトナムに進出している日系企業の多くは、現地のサプライチェーンにおいて多数の零細・個人事業者と取引関係にある。課税基準の引き上げによってこれら取引先の経営が安定すれば、サプライチェーン全体の信頼性向上につながる。また、法人化が進むことで、取引先の財務状況の可視化が進み、コンプライアンス面でのリスク軽減も期待できる。
マクロ経済への影響
短期的には税収減となるリスクがあるものの、ベトナム政府はフォーマルセクターの拡大による中長期的な税収増を見込んでいると考えられる。個人事業主が法人化すれば、法人所得税・社会保険料・VAT等の徴収対象が広がるため、結果的に税収基盤の拡充につながるという算段である。GDP成長率6〜7%台を維持するベトナム経済にとって、内需の厚みを増す今回の措置は、成長の持続可能性を高める重要な一手と評価できる。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント