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世界金評議会(WGC=World Gold Council)の最新レポートによると、ベトナムにおける金の宝飾品(ジュエリー)需要が金額ベースで4億7,200万USDに達し、過去最高を更新した。前四半期比で28%の急増であり、その背景には金地金(ゴールドバー)の供給制限という、ベトナム特有の構造的要因がある。
金地金が買えない——ベトナム特有の供給制約
ベトナムでは長年、金地金の輸入・製造がベトナム国家銀行(中央銀行)の厳格な管理下に置かれている。国内で流通する正規の金地金は、国営ベトナム金宝石公社が製造する「SJC」ブランドのみが公認されており、その供給量は中央銀行が決定する。近年、金価格の世界的な高騰を受けて需要が急増したにもかかわらず、新規の金地金供給は極めて限定的であった。
2024年以降、ベトナム政府と国家銀行は国内金価格と国際価格の乖離を縮小するために入札制度の再開やSJC金地金の直接販売などの対策を講じてきたが、依然として一般消費者が金地金を入手するハードルは高い。銀行や大手貴金属店の店頭では長蛇の列ができる一方、購入上限が設定されるケースも多い。こうした「金地金不足」が、消費者の購買意欲を宝飾品市場へと振り向ける大きな要因となっている。
なぜベトナム人は金を買うのか——文化的背景
ベトナムにおける金への信頼は、歴史的・文化的に根深い。1970年代の南北統一後のインフレ、1980年代のドイモイ(刷新)政策以前の経済混乱を経験した世代にとって、金は「最後の資産防衛手段」である。不動産取引の一部が今でも金建てで行われるほど、金は日常的な価値尺度として機能している。
加えて、旧正月(テト)や結婚式、出産祝いなどの慶事では金のアクセサリーを贈る習慣が根強く残っている。つまりベトナムにおける宝飾品需要は、純粋なファッション消費というよりも「投資と贈答が融合した消費行動」であり、金地金が入手困難な状況では宝飾品がその代替的な役割を果たすのである。
WGCレポートが示す数字の意味
今回WGCが報告した4億7,200万USDという数字は、金額ベースで見た宝飾品需要であり、金価格の上昇分を差し引いた重量ベースでも堅調な伸びを示しているとみられる。前四半期比28%増という伸び率は、世界的に見ても突出している。東南アジア全体で見ても、ベトナムの金需要は人口規模に比して際立って高い水準にあり、WGCはベトナムを「注目すべき成長市場」と位置づけている。
世界的な金価格の高騰局面にもかかわらず需要が減退しないという点は、ベトナムの消費者が金を「高いから買わない」のではなく「高くても買う」資産として認識していることを示している。これは先進国のジュエリー市場とは根本的に異なる構造である。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響:金の宝飾品需要の拡大は、国内の貴金属小売・加工企業にとって追い風である。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するPNJ(フーニュアンジュエリー、銘柄コード:PNJ)は、ベトナム最大手の宝飾品チェーンであり、今回のトレンドの最大の恩恵企業と言える。PNJは全国に400店舗以上を展開し、宝飾品のデザイン・製造・小売を垂直統合で手がけており、金地金不足の環境下でジュエリー販売が伸びるほど業績に直結する構造を持つ。2024年〜2025年にかけてPNJの株価は堅調に推移しており、今回のWGCデータは同社の成長ストーリーを裏付ける材料となるだろう。
日本企業への示唆:ベトナムの宝飾品市場はまだ国内ブランドが圧倒的に強く、日本の宝飾メーカーにとって直接的な参入機会は限定的である。しかし、加工技術やデザイン面での協業、あるいは金の精錬・リサイクル技術の提供といった形での関与は考えられる。また、ベトナムの旺盛な金需要は同国の経常収支やドン相場にも影響を与えるため、為替リスク管理の観点からもウォッチすべきテーマである。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、PNJのような消費セクターの優良銘柄に海外資金が流入する可能性が高い。金需要の構造的な強さは、ベトナム消費市場の底堅さを示す証左でもあり、格上げ審査において「内需の厚み」をアピールする材料ともなり得る。
マクロ経済の文脈:ベトナムの金需要の強さは、裏を返せば国民の金融リテラシーが「金=安全資産」に偏重していることも意味する。政府としては国民の貯蓄を銀行預金や株式市場へ誘導したい意向があり、金地金の供給管理はその政策手段の一つでもある。宝飾品需要の急増は、こうした政策意図と市民の行動のせめぎ合いの結果でもあり、今後の金融政策の方向性を占ううえでも重要な指標である。
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出典: VnExpress元記事












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