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ベトナム政府は、西部高原(タイグエン)地域および南中部沿岸地域の森林から生み出されるカーボンクレジット515万トン分を、1クレジットあたり最低10USDで国際森林金融機関Emergent(エマージェント)に売却する方針を固め、排出削減量売買契約(ERPA)の交渉を2026年6月中に開始する。森林カーボンサービスに関する政令の整備と合わせ、ベトナムの森林炭素市場が本格的に動き出す局面を迎えている。
副首相主宰の会議で方針決定
2026年5月4日、ホー・クオック・ズン副首相が主宰する会議が開催され、森林の炭素吸収・貯留サービスに関する政令(Nghị định)の策定状況と、Emergent(LEAF連合の運営機関)との排出削減量売買契約(ERPA)の交渉方針が議題となった。農業・環境省が報告した政令案は全4章20条・付録6件で構成され、森林カーボン吸収・貯留サービスの対象、支払い形態・水準、資金管理・使用方法、森林カーボンプロジェクトの温室効果ガス削減成果の認定、および森林カーボンクレジットの供給に関する規定を盛り込んでいる。
意向書の経緯と取引の概要
この取引の出発点は、2022年10月31日のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)にさかのぼる。当時の農業・農村開発省(現・農業・環境省)がEmergentと意向書(Letter of Intent)を締結した。意向書の内容は以下のとおりである。
- 対象地域:タイグエン(西部高原)および南中部沿岸地域の森林
- 取引量:515万カーボンクレジット
- 最低価格:1クレジットあたり10USD
- 対象期間:2021年〜2025年
- 取引形態:ERPA(排出削減量売買契約)の締結による
- 重要条件:売却されるクレジット全量をベトナムのNDC(国が決定する貢献)に算入する
NDCへの算入を維持しつつ国際資金を獲得するという設計は、ベトナムが気候変動に関する国際公約を後退させることなく森林保全の財源を確保する戦略的な枠組みといえる。
政令整備が「最後のピース」
林業・森林管理局のチャン・クアン・バオ局長によると、ベトナムの林業分野には5種類の森林環境サービスが存在する。エコツーリズム、水力発電、上水道、水産養殖の4分野はすでに法的規定が整備済みであり、炭素貯留サービスが「最後のピース」として残っていた。今回の政令が公布されれば、地方政府や森林所有者が炭素吸収・貯留サービスを実施するための法的基盤が完成し、森林カーボン市場の発展と森林保全に携わる住民の新たな収入源創出につながる。
また、農業・環境省はカーボンクレジット発行の行政手続きを地方に分権する方向で政令案を修正しており、首相の指示に基づく行政手続きの簡素化・分権化の流れにも沿っている。
技術・制度面の準備状況とスケジュール
農業・環境省は、REDD+(途上国における森林減少・劣化からの排出削減)の成果に基づく支払いを受けるための技術的・制度的条件をすでに整えたと報告している。具体的には、緑の気候基金(GCF)、森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)、LEAF連合からの資金にアクセスする準備が完了した状態である。なお、ベトナムは2023年にFCPFとの取引で北中部地域の森林カーボンクレジット約1,030万トンを1クレジットあたり5USDで売却した実績があり、今回のEmergentとの取引は価格面で倍増となる最低10USDが設定されている点が注目に値する。
今後のスケジュールは以下のとおりである。
- 2026年第2四半期:2021〜2022年分の森林カーボンクレジットの審査・発行完了
- 2026年第3四半期:2023〜2025年分のクレジット発行申請を提出
- 2026年6月:政令公布後、直ちにEmergentとのERPA交渉を開始
副首相の指示
ホー・クオック・ズン副首相は会議の総括において、森林カーボン吸収・貯留サービスは2017年林業法で規定された5種類の森林環境サービスの一つであるにもかかわらず、具体的な法規定の欠如により実施に至っていなかったと指摘。政令の公布は「極めて必要かつ緊急」であると強調した。さらに、ERPAの交渉・締結権限は農業・環境省にあることを明確にし、同省が主導的に交渉を進め、国際的な経験も参照しながら原則に基づいた契約締結を行うよう指示した。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の動きは、ベトナムの炭素市場整備が政策・法制度レベルで本格化していることを示す重要なシグナルである。以下の観点から注目したい。
1. 林業・環境関連銘柄への影響:ベトナム株式市場において、広大な森林資源を保有する国有林業企業や、環境コンサルティング・カーボンクレジット仲介に関わる企業にとって、政令の公布は新たな収益機会を意味する。ただし、現時点で上場企業への直接的な業績インパクトは限定的であり、中長期的なテーマとして捉えるべきである。
2. 日本企業への含意:日本はJCM(二国間クレジット制度)を通じてベトナムとの炭素取引を推進してきた経緯がある。ベトナム国内の炭素市場法制が整備されることで、日本企業がベトナムの森林カーボンクレジットを調達しやすくなる可能性がある。特に、2026年度からGX-ETS(グリーントランスフォーメーション排出量取引制度)の本格運用が始まる日本において、海外クレジットの活用ルール次第では需要が高まる展開も考えられる。
3. ESG・サステナビリティ評価への寄与:ベトナムが森林カーボン市場を制度化し、国際基準に沿ったクレジット取引を行うことは、FTSE新興市場指数への格上げ(2026年9月決定見込み)に向けたESG面での評価向上にも間接的にプラスに働く。海外機関投資家はESGガバナンスを重視しており、気候変動対策の制度整備は市場全体の信認向上につながる。
4. 価格水準の意味:最低10USD/クレジットという価格は、FCPF取引時の5USDから倍増しているものの、自主的炭素市場(VCM)における高品質森林クレジットの国際相場(15〜30USD程度)と比較すればまだ割安である。今後の交渉で上乗せされる可能性もあり、ベトナムの森林資源の経済的価値が段階的に顕在化していく過程にあるといえる。
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出典: 元記事












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