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ベトナム最大手の証券会社SSI証券(SSI Securities Corporation)は、世界的な指数算出会社であるMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が、早ければ2025年6月にもベトナムを新興市場(Emerging Markets)への格上げ監視リスト(ウォッチリスト)に追加する可能性があるとの見通しを発表した。ベトナム株式市場にとって歴史的な転換点となり得るこの動きは、国内外の投資家から大きな注目を集めている。
SSIの分析:18基準中10項目をすでにクリア
SSI証券のリサーチ部門によると、ベトナムはMSCIが定める市場アクセシビリティ(市場への接近可能性)に関する18の評価基準のうち、すでに10項目を満たしているという。MSCIは毎年6月と12月に市場分類の見直しを行っており、SSIは次回の2025年6月のレビューにおいて、ベトナムがウォッチリストに追加される可能性があると予測している。
MSCIの市場分類は、「スタンドアローン(Standalone)」「フロンティア(Frontier)」「新興国(Emerging)」「先進国(Developed)」の4段階に分かれており、ベトナムは現在「フロンティア市場」に分類されている。ウォッチリスト入りは、フロンティアから新興国への格上げに向けた「予告段階」であり、通常ウォッチリスト入りから実際の格上げまでには1〜2年の期間を要する。
MSCIが重視する18の評価基準とは
MSCIの市場アクセシビリティ評価は、大きく以下のカテゴリーに分類される。
- 資本の自由な移動:外国人投資家による資金の出入金の自由度、為替市場へのアクセスなど
- 市場の開放度:外国人保有比率の上限(FOL:Foreign Ownership Limit)、投資対象銘柄の制限の有無
- 運営の効率性:口座開設の容易さ、市場情報の流通、清算・決済システムの信頼性
- 市場インフラの安定性:取引システムの安定性、競争条件の公平性
ベトナムがこれまでMSCI新興市場入りを果たせなかった最大の障壁は、外国人投資家の市場アクセスに関する制度面の課題であった。具体的には、外国人保有比率の上限(FOL)の存在、プレファンディング(事前入金)の義務、そして情報開示の英語対応の遅れなどが指摘されてきた。
ベトナム政府の改革が加速
近年、ベトナム政府はMSCI格上げを強く意識した制度改革を矢継ぎ早に進めてきた。2023年後半にはベトナム国家証券委員会(SSC)が新KYCシステムの導入を進め、2024年にはホーチミン証券取引所(HOSE)の新取引システム「KRX」(韓国取引所の技術を導入)が本格稼働した。
特に大きな進展として注目されるのが、プレファンディング要件の緩和である。従来、外国人投資家はベトナム株を購入する際、取引の前に証券口座に100%の資金を入金しておく必要があった。これは他の新興国市場では一般的でない制約であり、機関投資家にとって大きな参入障壁となっていた。ベトナム政府はこの要件を段階的に緩和し、ノンプレファンディング(NPS:Non-Prefunding Solution)の導入に向けた制度整備を進めている。
また、外国人保有比率の上限についても、一部の業種で上限撤廃や引き上げが議論されており、金融・通信・不動産など戦略的業種を除く分野での自由化が進みつつある。
FTSE格上げとの「ダブル格上げ」シナリオ
ベトナム株式市場をめぐっては、もう一つの主要指数であるFTSEラッセル(FTSE Russell)による新興市場への格上げが、2025年9月にも正式決定される見込みとなっている。FTSEはすでにベトナムを「セカンダリー・エマージング」への格上げ候補としてウォッチリストに載せており、MSCIよりも先行して格上げプロセスが進んでいる。
SSI証券の分析では、FTSEの格上げが実現した場合、MSCIのウォッチリスト入りと相まって「ダブル格上げ期待」が市場に強力な追い風をもたらすと見ている。FTSEの新興市場指数に連動するパッシブファンドの規模は数千億ドルに上り、MSCIエマージング・マーケット指数に至ってはさらに巨大な資金が追従しているため、両方の格上げが実現すれば、ベトナム市場への海外資金流入は過去に例のない規模となる可能性がある。
過去の事例:他国の格上げがもたらしたインパクト
MSCI格上げの威力を理解するには、過去の事例が参考になる。2014年にカタールとアラブ首長国連邦(UAE)がフロンティアから新興国に格上げされた際、両国の株式市場には格上げ前の1〜2年間で大量の資金が流入し、主要指数は大幅に上昇した。また、2018年にサウジアラビアがMSCIエマージング指数に組み入れられた際にも、発表前後で市場は大きく活性化した。
ベトナムの場合、VN-Index(ホーチミン証券取引所の代表指数)の時価総額は約2,000億ドル規模であり、MSCI新興市場指数への組み入れが実現すれば、パッシブ資金だけでも数十億ドル規模の新規資金流入が見込まれるとの試算がある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のSSI証券による予測は、ベトナム株式市場にとって極めてポジティブなシグナルである。以下の観点から、今後の投資戦略を検討する必要がある。
1. ベトナム株式市場への影響
MSCIウォッチリスト入りが正式に発表されれば、短期的には市場全体に買い圧力が生じる可能性が高い。特に、外国人投資家の保有比率が高く時価総額の大きい銘柄—たとえばビングループ(Vingroup、ベトナム最大手コングロマリット)、FPT(ベトナム最大手IT企業)、ビンホームズ(Vinhomes、大手不動産デベロッパー)、ACB(アジア商業銀行)、VPバンク(VPBank)などは、MSCI指数への将来的な組み入れ候補として資金が集中しやすい。
2. 証券セクターへの恩恵
格上げ期待による取引量の増加は、証券会社の手数料収入や自己勘定取引の利益を押し上げる。SSI証券自体を含め、VNダイレクト(VND)、ホーチミン証券(HCM)などの大手証券会社の業績にも好影響が見込まれる。
3. 日本企業・日本人投資家への影響
ベトナムに生産拠点や販売拠点を持つ日本企業にとっても、ベトナム市場の格上げは間接的なプラス要因となる。市場の国際化が進めば、ベトナム企業の資金調達環境が改善し、サプライチェーンを構成するベトナム企業のパートナーとしての信用力が向上するためである。また、日本のベトナム株投資信託やETFにとっても、格上げは運用規模拡大のチャンスとなる。
4. 残る課題と注意点
ただし、18基準中10項目のクリアはあくまで「半分以上」であり、残る8項目の改善が進まなければウォッチリスト入りが見送られるリスクもある。特に外国人保有上限の完全撤廃や、決済サイクルのT+2対応(現在は一部T+2だが完全移行は未完了)、英語での適時開示の義務化など、制度面のハードルは依然として残っている。投資家は格上げ期待だけで過度なポジションを取ることは避け、実際の制度改革の進捗を注視する必要がある。
5. FTSE格上げとの相乗効果
2025年9月に見込まれるFTSE新興市場格上げと、MSCIウォッチリスト入りのタイミングが近接していることは、ベトナム市場に対する国際的な注目度を一段と高める要因となる。2025年後半から2026年にかけて、ベトナム株式市場は「格上げラリー」とも呼ぶべき上昇相場を迎える可能性がある。長期的な視点でベトナム市場へのエクスポージャーを検討する好機と言えるだろう。
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出典: 元記事












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