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ベトナムの大手民間銀行VPBank(ティッカー:VPB、ホーチミン証券取引所上場)の取締役であるファム・ティ・ニュン氏が、VPB株3,000万株の買付けを登録した。取引総額は約8,400億ドンに達する見込みで、インサイダーによる大型買いとして市場の注目を集めている。
取引の概要
ファム・ティ・ニュン氏はVPBankの取締役会メンバーであると同時に、VPBank傘下の完全子会社であるGPBank(正式名称:Ngân hàng Thương mại TNHH MTV Kỷ Nguyên Thịnh Vượng=繁栄新時代商業銀行)の取締役会議長を兼任する人物である。今回の買付け登録は2025年5月8日から6月5日までの期間に実施される予定だ。
ニュン氏は現在VPB株を約4,600万株(持株比率0.58%)保有しており、買付けが完了すれば保有株数は約7,600万株(同0.96%)に拡大する。5月5日の終値は2万8,000ドン/株で、前日比3.90%の上昇となっている。この終値を基準とした場合、取得総額は約8,400億ドンとなる。
VPBank経営陣が示す中長期の成長見通し
ベトナムの大手証券会社VCSC(ベトナム資本証券)は2026年4月23日に開催されたVPBankの2026年第1四半期投資家向け説明会に参加し、そのポイントを公開している。VPBank経営陣は短期的なマクロリスクを認めつつも、ベトナム経済の中長期的な見通しに対しては引き続きポジティブな姿勢を維持している。
マクロ経済の認識
経営陣によれば、ベトナム経済は2026年第1四半期も堅調な耐性を維持しており、公共投資とFDI(外国直接投資)が年後半の成長を牽引する2大エンジンと位置づけられている。システム全体の信用成長が引き続き経済活動を支え、観光業や不動産セクターにも改善の兆しが見られる。リスク要因としては関税問題、コモディティ価格の下落、燃料価格主導のインフレが挙げられたが、インフレは政府目標の範囲内に収まるとの見方が示された。
信用成長:業界平均を上回る伸び
VPBank単体(親銀行)の貸出残高は前年同期比10%超の増加で、1,000兆ドンを突破した。経営陣はこれを同業他行を上回る成長率と評価している。内訳としてはリテール向け貸出が前年同期比7%増、中小企業(SME)向けが同8%増で、いずれも戦略的注力分野である。法人向け貸出もハノイやホーチミン市での住宅開発・インフラプロジェクトを中心とする不動産案件が牽引した。無担保ローンは前年同期比約4%増にとどまったが、これはポートフォリオ全体に占める比率を意図的に引き下げる方針によるもので、結果として連結NIM(純金利マージン)の機械的な低下要因となっている。
NIMと資金調達コストの動向
2026年第1四半期のNIMは低下した。2025年12月以降の資金調達コスト上昇が主因で、預金金利の再設定スピードが貸出利回りの上昇を上回っている。クレジットカードなど即座に金利調整ができない商品のタイムラグも影響している。
ただし明るい材料もある。VPBankは「ゼロドン銀行」(経営破綻銀行の救済引き受け)を支援する役割に関連して、2026年第2四半期以降、法定準備率が50%引き下げられる見込みである。これにより約9兆ドン(3億4,100万ドル)相当の資金調達余力が解放される。経営陣は2026年通年のNIMを前年比約20ベーシスポイント低下の4.4%と見込んでおり(第1四半期実績は4.53%)、規模拡大やポートフォリオ構成の最適化、不良債権回収の強化(訴訟手続きを含む)で補う方針である。資金コストの低下は早くても第3四半期になるとの見方が示された。
資金調達と資本戦略
2026年第1四半期の総調達額(預金+有価証券)は前年同期比約12.5%増と、システム全体の約1.2%増を大幅に上回った。2026年通年の調達成長目標は40%と極めて野心的だが、第1四半期の実績がその実現可能性を裏付けるとしている。新商品として法人・SME向け譲渡性預金(CD)を5月初旬に投入するほか、傘下のデジタルバンク「Cake」を通じたクロスボーダーQR決済・外為サービス、サプライチェーンファイナンスの拡大も計画している。国内CD発行残高は前年同期比60%超の増加である。
海外資金調達では約12億ドル規模のサステナビリティ連動ローンを進めているが、契約締結には至っていない。CASA比率(低コスト預金比率)は約15%で、定期預金金利の上昇に押されている。
資本面では、株主総会が海外戦略投資家向けに5%の第三者割当増資を承認し、払込資本は約106兆ドンに達する見通しである。実現すればVPBankはベトナムの上場銀行で最大の払込資本を持つことになる。投資家の名前は未公表だが交渉は進行中で、CAR(自己資本比率)は14%超を維持している。日本のSMBC(三井住友フィナンシャルグループ)からのエコシステム拡大支援も継続中である。
非金利収入と子会社の状況
バンカシュアランス(銀行窓口での保険販売)はAIAとの第1四半期コミットメントを上回る好調ぶりを示した。一方、カード手数料収入はリテール消費の軟化を受け微減となった。不良債権回収は前年同期比で改善したものの、不動産担保処分の遅延が足かせとなり、法的手段の強化に動いている。外為収入は海外借入のヘッジコストに圧迫された。
VPBankSecurities(VPX):2026年第1四半期の税引前利益は約5,150億ドン(前年同期比47%増)。通年計画6兆5,000億ドン(同44%増)に対する進捗率は8%だが、四半期ごとに加速を見込む。信用取引残高は年初比12%増の約38兆ドンで、通年目標は50兆ドン。第2四半期の債券アドバイザリーパイプラインは約50兆ドンの見込みである。新CEOにニャム・ハー・ハイ氏が就任したが、戦略はグループレベルで策定されており個人に依存しないと説明された。
GPBank:2026年第1四半期の税引前利益は4,000億ドン超で、2025年通年の利益にほぼ匹敵する急成長を見せた。貸出は前年同期比8%増、預金は同15%増。80超の支店でデジタルファースト・SME重視への転換を推進中である。
FE Credit(消費者金融子会社):第1四半期は税引前黒字を計上したが、融資実行は依然圧迫されている。2026年目標はNPL比率10%未満、税引前利益約1兆2,000億ドン(第1四半期実績は推定900億ドン超)。低所得層の返済行動に悪化は見られないが、マクロリスクに備えた予防的回収措置を準備中である。
資産の質
不良債権比率は前四半期比で若干上昇したが計画範囲内である。2025年の高い信用成長をベースとした2026年の穏やかな不良債権増加はあらかじめ想定されていた。不動産関連では法人向け不動産貸出が前年同期比約14.5%増で総貸出の25%未満、個人住宅ローンは同7%未満の増加で総貸出の15%未満を維持。ハノイ・ホーチミン市の都市部と北部工業団地に集中し、投機性の低いセグメントを対象とする「4つの正しさ」(正しいデベロッパー、正しいエリア、正しいセグメント、正しい顧客)のフレームワークを適用している。中国市場シナリオを含むストレステストも実施済みである。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のインサイダー買いは複数の観点から注目に値する。
第一に、取締役による約8,400億ドン規模の自社株買いは、経営陣が現在の株価水準を割安と認識していることを強くシグナルしている。VPBankは2026年第1四半期にNIM低下や資金コスト上昇といった逆風に直面しているが、法定準備率引き下げによる約9兆ドンの資金余力解放、海外戦略投資家向け5%増資、12億ドル規模のサステナビリティ連動ローンなど、中期的なカタリストが複数控えている。
第二に、VPBankはSMBC(三井住友フィナンシャルグループ)を戦略的パートナーとしており、日本企業のベトナム進出支援やサプライチェーンファイナンスの分野で日越経済連携の最前線にある。SMBCとの協業深化はVPBankのエコシステム拡大を加速させる要因であり、日本の投資家にとっても間接的にベトナム金融セクターにアクセスする手段として重要性を増している。
第三に、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判断との関連がある。VPBankが払込資本ベースでベトナム最大の上場銀行となれば、指数組み入れ時のウエイトも大きくなる可能性がある。外国人投資家の資金流入を呼び込む観点から、今回の増資計画やCAR14%超の維持は格上げ対応としても合理的な戦略と言える。
第四に、GPBankの急速な収益改善やFE Creditの黒字転換は、VPBankグループ全体の収益基盤の多角化が着実に進んでいることを示す。特にGPBankは「ゼロドン銀行」からの再建という特殊な位置づけにあり、その成功はベトナム銀行セクター全体の再編・健全化の進展を象徴するものでもある。
リスク要因としては、NIM圧縮の長期化、不動産担保処分の遅延、関税リスクによるマクロ環境の悪化、FE Creditの通年目標達成に向けた不確実性が挙げられる。投資家は第2四半期以降の資金コスト動向とNIMの底打ち時期を注視すべきである。
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