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ベトナム保健省は2025年5月6日、全国民を対象に年1回以上の無料定期健康診断またはスクリーニング検診を実施する計画を正式に承認した。共産党政治局の決議第72号(Nghị quyết số 72-NQ/TW)に基づく大規模な予防医療政策であり、電子健康手帳の整備やデジタルID基盤「VNeID」との統合も盛り込まれた包括的な計画である。約1億人の人口を抱えるベトナムにとって、医療データのデジタル化と予防医療の普及は国家的課題であり、今回の計画は医療・ヘルスケア産業全体に大きなインパクトを与える可能性がある。
計画の全体像と目的
今回の計画は、ベトナム共産党政治局が打ち出した決議第72号の方針を具体化するものである。主な目的は以下の通りである。
- 全国民が年1回以上、無料で定期健康診断またはスクリーニング検診を受けられる体制を構築する
- 疾病の早期発見・予防・早期治療を推進し、疾病負担と医療費を軽減する
- 国民一人ひとりの生涯にわたる健康管理を実現するための国家健康データベースを構築する
計画では、優先対象グループとロードマップを設定し、段階的に対象を拡大していく方針が示されている。具体的な対象範囲、優先順位、実施医療機関、財源については、予防医療法(Luật Phòng bệnh)の施行細則を定める政府議定(Nghị định)に従うとされている。
実施体制と地方の役割
保健省は各省・市の保健局(Sở Y tế)に対し、教育訓練局(Sở Giáo dục và Đào tạo)や学校と連携して地域ごとの実施計画を策定し、省・市レベルの人民委員会(Ủy ban nhân dân)の承認を得るよう求めている。具体的には以下の手順が示された。
- 住民リストの確認・作成を指揮すること
- 管轄地域内の公民保健ステーション(Trạm y tế)または健康診断の実施条件を満たす医療機関で検診を実施すること
- コミューン(社)レベルの保健ステーションが条件を満たさない場合は、条件を満たす医療機関が専門的に支援するか、保健ステーションを巡回検診の拠点として活用すること
ベトナムには約1万1,000のコミューンレベルの保健ステーションが存在し、これらは農村部を含む最末端の医療拠点である。すべてのステーションが十分な検診設備を備えているわけではないため、今回の計画では「巡回検診(khám sức khỏe lưu động)」という柔軟な仕組みも導入される。住民の利便性を最大限確保する狙いがある。
また、検診を実施する医療機関には、優先グループの分類と適切なスケジューリングを行い、混雑を避けるよう求めている。検診内容は保健省の専門ガイドラインに沿って、健康状態の評価・分類、対象グループ別の疾病リスクや罹患の早期発見、予防・治療に関する助言、必要に応じた適切な医療機関への紹介を網羅する。
デジタル化の柱:電子健康手帳とVNeID連携
今回の計画で特に注目すべきは、医療データのデジタル統合に関する部分である。検診結果は電子健康手帳(sổ sức khỏe điện tử)として集約され、以下のシステムと相互接続される。
- 健康診断データベース
- 診療管理情報システム(Hệ thống thông tin về quản lý hoạt động khám bệnh, chữa bệnh)
- 国家医療データベース
- 医療保険審査情報システム(Hệ thống thông tin giám định bảo hiểm y tế)のデータ受付ポータル
さらに、電子健康手帳はベトナムのデジタルID基盤アプリ「VNeID」に統合される。VNeIDは公安省(Bộ Công an)が主導するデジタルIDアプリであり、すでに国民IDカードとの紐づけ、行政手続き、本人認証などに広く活用されている。ここに健康情報が統合されることで、国民は自身の健康記録をスマートフォン上でいつでも確認できるようになり、医療機関間のデータ共有もスムーズになる。
ベトナム政府はデジタルトランスフォーメーション(DX)を国家戦略として推進しており、医療分野のDXもその重要な柱の一つである。今回の電子健康手帳構想は、単なる検診記録のデジタル化にとどまらず、約1億人規模の国家健康データベース構築という壮大なプロジェクトの基盤となるものである。
ロードマップ:2026年5月と2027年末が節目
保健省は具体的なスケジュールも示している。
- 2026年5月まで:定期健康診断の専門ガイドラインの策定完了、国家電子健康手帳データシステムの構築、各地方での実施計画策定と人民委員会承認、地方住民への電子健康手帳発行の開始
- 2027年12月31日まで:各対象グループ向け無料スクリーニング検診の専門ガイドライン策定および実施状況のモニタリング・検査・監督体制の確立の完了
また、2015年労働安全衛生法(Luật An toàn, vệ sinh lao động)第2条第1〜3項に該当する労働者を使用する企業・機関・団体・個人は、同法の規定に基づき定期健康診断またはスクリーニング検診を実施する義務がある。これは今回の無料検診制度とは別に、使用者側の法的義務として引き続き適用される。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の計画は、ベトナムの医療・ヘルスケアセクターに複数の投資機会をもたらす可能性がある。
医療IT・ヘルステック関連:電子健康手帳の全国展開やVNeIDとの統合は、医療情報システムの開発・運用を担うIT企業にとって大きな商機となる。ベトナム国内のヘルステックスタートアップや、医療データ基盤を提供するIT企業への注目度が高まるだろう。FPTコーポレーション(FPT)やCMCコーポレーション(CMG)など、政府系ITプロジェクトの受注実績を持つ企業の動向も注視すべきである。
医薬品・医療機器関連:年1回の全国民検診が本格化すれば、検査キット、基礎的な医療機器、医薬品の需要が大幅に増加する。ベトナム上場の医薬品企業であるハウザン製薬(DHG)、トラファコ(TRA)、さらには医療機器関連企業にとって追い風となる。日本の医療機器メーカーにとっても、スクリーニング用検査機器や診断キットの輸出・現地生産における新たな市場機会が生まれる。
医療保険・社会保険制度への影響:無料検診の財源確保は今後の焦点となる。国家予算、地方予算、医療保険基金のいずれが主な財源となるかによって、保険セクターへの影響は異なる。ベトナム社会保険(Bảo hiểm xã hội Việt Nam)の審査システムとの連携が計画に含まれていることから、保険給付や審査プロセスの効率化も期待される。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げに向け、政府は各分野で制度整備とデジタル化を加速している。医療分野のDX推進は直接的に株式市場の格上げ要件に関わるものではないが、国家全体のガバナンス向上やデジタルインフラ整備の一環として、海外投資家からのベトナム評価を底上げする要因となり得る。
日系企業への示唆:ベトナムに進出している日系企業は、従業員の定期健康診断制度が強化される流れを認識しておく必要がある。労働安全衛生法に基づく使用者義務の厳格化も想定されるため、コンプライアンス対応の再確認が求められる。また、日本の予防医療ノウハウや健診システムの輸出という観点でも、ベトナム市場は有望なターゲットとなるだろう。
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出典: 元記事












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