ベトナム中央銀行が担保資産の差押え免除を提言—商業法人の刑事執行新政令が銀行界に波紋

Thi hành án với pháp nhân thương mại: Kiến nghị không kê biên tài sản thế chấp
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ベトナム国家銀行(中央銀行)が、商業法人(フアップニャン・トゥオンマイ)に対する刑事判決の執行に関する新政令草案について、担保に供されている資産の差押えを禁止するよう強く求めている。銀行界の債権保全に直結する問題であり、金融セクターに大きな波紋を広げている。

目次

新政令草案の概要—商業法人への刑事執行をどう規定するか

2025年5月8日、ベトナム司法省(ボー・トゥーファップ)は、商業法人に対する刑事判決執行に関する政府政令の草案審査書類を公開した。この草案は公安省(ボー・コンアン)が主導して策定したものである。

そもそもベトナムの刑事法体系において、商業法人(企業などの営利法人)が刑事責任を問われる制度が導入されたのは2015年刑法が初めてであった。それまでは個人のみが刑事罰の対象であり、法人の刑事責任という概念はベトナム法制史上画期的な転換点であった。2025年には新たに「2025年刑事判決執行法」が施行され、商業法人への判決執行に関する規定が引き続き整備されている。今回の政令草案は、この2025年法の詳細を定めるものである。

草案は全6章63条から構成され、商業法人に対する強制執行措置として、口座凍結(フォントア・タイコアン)、資産差押え(ケービエン・タイサン)などを規定している。また、商業法人が組織再編(分割・分離・合併・吸収合併)を行った場合の判決執行義務の承継についても定めている。

焦点の第34条—担保資産の差押えを認める規定

草案の中で最も注目を集めているのが第34条である。この条文は「質権・抵当権が設定されている資産の差押え」を認める内容となっている。

具体的には、商業法人が他に資産を持たない場合、または保有する資産だけでは判決の執行に不十分な場合、刑事判決執行機関は当該法人が質権・抵当権を設定している資産を差押え・処分できるとしている。ただし条件として、その資産の価値が担保されている債務額と強制執行費用の合計を上回っている必要がある。

このほか、草案は差押え対象外の資産類型、出資持分・交通手段・知的財産権・土地使用権の差押えなどについても規定している。さらに第35条では、第三者が保管する商業法人の資産についても差押えが可能であり、第三者が任意に引き渡さない場合は強制的に引き渡しを命じることができるとされている。賃貸中の資産が差押えられた場合、賃借人は既存の契約に基づき引き続き使用できるという配慮もなされている。

国家銀行の反対意見—担保取引制度の根幹を揺るがす

この第34条に対し、ベトナム国家銀行は明確に反対の姿勢を示した。国家銀行の主張は以下の通りである。

第一に、担保取引(ザオディック・バオダム)の本来の目的は、契約締結時点で確定した債務の履行を保全することにある。一方、商業法人が刑事判決を執行する義務は、刑事判決執行機関の強制執行決定に基づいて発生するものであり、担保契約の締結よりも後に生じた債務である。したがって、後発の刑事上の義務のために先行する担保資産を差し押さえることは、担保取引に関する法制度の効力を実質的に無効化してしまうと国家銀行は指摘する。

第二に、ベトナム民法典第307条および信用機関法(ルアット・カック・トーチュック・ティンドゥン)第199条は、担保権者に対する優先弁済権を明確に認めている。担保資産を刑事判決の執行のために差し押さえることは、これらの法律で保障された優先弁済権を侵害する恐れがあると主張している。

第三に、国家銀行は先例として、行政罰の強制執行に関する政令(政令第296/2025/NĐ-CP号)の策定過程を挙げた。同政令は関係機関の意見を踏まえ、質権・抵当権が設定されている資産の差押えを認めない形で制定された経緯がある。刑事執行の政令も同様の扱いとすべきだというのが国家銀行の論理である。

しかしながら、草案の主管起草機関である公安省は、現時点でこの規定を維持する方針を示しており、国家銀行との間で意見の対立が続いている状況である。

投資家・ビジネス視点の考察

本件は一見すると法技術的な議論に見えるが、ベトナムの金融市場および投資環境に対して構造的な影響を及ぼし得る重要なテーマである。

銀行セクターへの影響:もし担保資産の差押えが認められる形で政令が成立した場合、銀行の担保権の実効性が低下するリスクがある。ベトナムの商業銀行は融資の大部分を不動産などの担保に依存しており、担保の優先弁済権が制約されれば、与信審査の厳格化や貸出金利の上昇につながる可能性がある。ベトナム株式市場で銀行株(VCB、BID、CTG、TCB、MBBなど)に投資している層は、この政令の最終形に注目すべきである。

外資・日系企業への影響:ベトナムに進出している日系企業の多くは現地法人(商業法人)として活動している。仮に刑事責任を問われた場合、担保に供している資産が差し押さえられるリスクが生じることになる。また、取引先のベトナム企業が同様のリスクにさらされた場合、サプライチェーンへの間接的影響も考えられる。

FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいては、法制度の透明性・予見可能性が重要な評価基準となる。担保権者の優先弁済権という基本的な法原則が政令レベルで揺らぐ事態は、海外機関投資家にとってネガティブなシグナルとなりかねない。国家銀行の主張が最終的に反映されるかどうかは、ベトナムの法制度に対する国際的信頼度を左右する試金石と言えるだろう。

今後の注目点:公安省と国家銀行の対立がどのように決着するかが最大の焦点である。政府レベルでの最終判断に加え、国会での議論にも発展する可能性がある。投資家としては、政令の最終版が公布されるまで、関連する法的リスクの動向を継続的にフォローすることが肝要である。


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出典: 元記事

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