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ベトナム商工会議所(VCCI)が財務省に対し、廃品回収(いわゆる「ve chai(ヴェチャイ)」)や金属くず収集を営む零細事業者に代わって、購入企業側が税を申告・納付する「代理納税」制度の導入を提案した。あわせて、配車アプリドライバー(いわゆるテクノロジードライバー)に対する課税方式の見直しも求めている。ベトナムのインフォーマル経済(非公式経済)に光を当てる重要な動きとして注目される。
提案の背景:廃品回収業者が抱える構造的課題
ベトナムでは、街中を天秤棒やバイクで巡回し、空き瓶・空き缶・古紙・金属くずなどを買い集める「ve chai」と呼ばれる廃品回収業者が数十万人規模で存在するとされる。彼らの多くは農村部から都市に出稼ぎに来た個人事業主で、正式な事業登録を行っていないケースが大半である。ベトナムの都市部におけるリサイクルの実質的な担い手でありながら、税務上は「見えない存在」として長年扱われてきた。
現行の税法では、こうした零細事業者(hộ kinh doanh=個人事業主・家族経営事業者)も原則として税の申告・納付義務を負う。しかし実態として、彼らは収入が少額かつ不安定で、税務申告の知識や手段を持たない場合がほとんどである。結果として、廃品を仕入れる企業側が正規のインボイス(VAT請求書)を取得できず、仕入税額控除が受けられないという問題が発生している。これは企業側のコスト増加につながるだけでなく、リサイクル産業全体の効率を損なう要因ともなっている。
VCCIの具体的な提案内容
VCCI(ベトナム商工会議所=Vietnam Chamber of Commerce and Industry、ベトナムの経済団体として政策提言に大きな影響力を持つ組織)は、財務省が進めている税関連法令の改正に際して意見書を提出した。その核心は以下の2点である。
第一に、廃品回収業者への代理納税制度の導入。具体的には、ve chaiや「đồng nát(ドンナット)」と呼ばれる金属くず回収業者から廃品・スクラップを買い取る企業が、売り手である回収業者に代わって税(付加価値税=VATおよび個人所得税)を申告・納付する仕組みを法的に整備するよう求めている。これは農産物の買い取りにおいて既に導入されている「企業による代理申告・納税」制度を、廃品回収分野にも拡大適用する発想である。
第二に、配車アプリドライバーの課税方式の見直し。Grab(グラブ、東南アジア最大の配車・デリバリープラットフォーム)やBe(ビー、ベトナム発の配車アプリ)などのテクノロジープラットフォームで働くドライバーに対する課税について、現行の計算方式に不合理な点があるとして改善を求めた。配車ドライバーの売上には、プラットフォーム企業への手数料が含まれているが、現行ではドライバーの課税対象売上からこの手数料が控除されていないケースがあり、実質的な収入以上の税負担が生じている可能性がある。VCCIはこの課税ベースの計算方法を合理的に修正するよう提案している。
ベトナムのインフォーマル経済と税制近代化
ベトナム経済を理解するうえで、インフォーマル経済(非公式経済)の巨大さは避けて通れないテーマである。世界銀行の推計によれば、ベトナムのインフォーマル経済はGDPの約20〜30%を占めるとされ、数百万の零細事業者がこの領域で活動している。廃品回収業者はその典型的な存在であり、路上の屋台、個人の修理業者、農村部の小規模農家などとともに、ベトナム経済の「見えないエンジン」を構成している。
政府は近年、電子インボイスの全面導入(2022年より段階的に義務化)やデジタル納税システムの整備を進めており、税の透明性向上と徴税基盤の拡大を図っている。今回のVCCIの提案は、こうした税制近代化の流れの中で、最も捕捉が難しい層をいかに制度内に取り込むかという課題に対する現実的な解決策といえる。
代理納税制度が実現すれば、廃品回収業者は複雑な税務手続きから解放され、企業側は正規のインボイスを取得して仕入税額控除を受けられるようになる。双方にメリットがある仕組みであり、リサイクル産業のフォーマル化(公式化)を促進する効果が期待される。
配車ドライバーの課税問題:ギグエコノミーへの対応
配車ドライバーの課税問題は、ベトナムに限らず世界的に議論されているギグエコノミー(単発・短期の仕事を中心とする経済形態)への税制対応という文脈に位置づけられる。ベトナムではGrab、Be、Gojiなど複数の配車プラットフォームが競合しており、数十万人のドライバーがこれらのプラットフォームを通じて生計を立てている。
彼らは法的には「個人事業主」として扱われ、プラットフォーム企業の従業員ではない。このため社会保険や労災保険の適用対象外となるケースが多く、税務上も自ら申告・納付する義務を負う。しかし、課税対象となる売上の算定において、プラットフォーム手数料(通常20〜30%程度)を差し引く前の総売上が基準とされると、実際の手取り収入に対して過大な税負担が生じる。VCCIはこの点の是正を強く求めている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の提案は一見、零細事業者向けの税制技術的な話題に見えるが、ベトナム経済・市場に関心を持つ投資家やビジネスパーソンにとって、いくつかの重要な示唆を含んでいる。
1. リサイクル・環境関連企業への追い風
代理納税制度が導入されれば、廃品・スクラップを原材料として使用するリサイクル企業や製紙・鉄鋼企業にとって、仕入れコストの低減と税務リスクの軽減につながる。ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)に上場する関連銘柄にとってポジティブな材料となり得る。
2. プラットフォームエコノミー関連
配車ドライバーの課税方式が合理化されれば、ドライバーの手取り収入が実質的に改善し、プラットフォーム企業のドライバー確保にもプラスに働く。Grabは非上場だが、ベトナムのデジタルエコノミー全体の成長を支える要素として重要である。
3. 税制の透明性向上とFTSE格上げへの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、市場の透明性やガバナンスの改善は重要な評価要素である。税制の近代化・合理化はベトナムの制度的信頼性を高める動きであり、直接的ではないものの、格上げに向けた環境整備の一環として好意的に受け止められるだろう。
4. 日本企業への影響
ベトナムに進出している日本の製造業やリサイクル関連企業にとって、廃品・スクラップの調達においてインボイスが正規化されることは、税務コンプライアンスの向上と調達コストの最適化に直結する。特にベトナムで廃棄物処理・リサイクル事業を展開する日系企業にとっては、事業環境の改善につながる注目すべき動きである。
ベトナムのインフォーマル経済をいかにフォーマル化し、税の公平性と効率性を高めるか。この課題への取り組みは、ベトナムが中所得国の罠を脱し、持続的な経済成長を実現するための重要なピースの一つである。今回のVCCIの提案がどこまで財務省の政策に反映されるか、引き続き注視していきたい。
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