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ベトナム最大級の家電・携帯電話小売チェーンであるテーザイジーゾン(Thế Giới Di Động、ホーチミン証券取引所上場・ティッカー:MWG)が運営する薬局チェーン「アンカン(An Khang)」が、参入からおよそ8年を経てついに損益分岐点に近づいていることが明らかになった。同社が医薬品小売事業で利益貢献を実現すれば、主力の家電・スマートフォン販売に依存してきた収益構造に新たな柱が加わることになり、投資家にとっても注目すべき転換点である。
アンカン薬局チェーンの現状——「ほぼ損益分岐点」
テーザイジーゾンの発表によれば、アンカン薬局チェーンは現在「損益分岐点に近い(gần ngưỡng hòa vốn)」状態にあり、近い将来の黒字化が視野に入っている。同社が医薬品小売分野に本格参入してからおよそ8年が経過しており、長期にわたる赤字期間を経てようやく収穫期を迎えようとしている形だ。
テーザイジーゾンは2017年前後からアンカン薬局の展開を本格化させた。もともと携帯電話販売チェーン「テーザイジーゾン(thegioididong.com)」と家電量販チェーン「ディエンマイサイン(Điện Máy Xanh)」で圧倒的な店舗網を築き上げてきた同社にとって、薬局事業は「生活必需品リテール」への多角化戦略の一環であった。食料品スーパー「バックホアサイン(Bách Hóa Xanh)」と並び、非家電分野の成長ドライバーとして位置づけられてきた。
ベトナム医薬品小売市場の特性と成長ポテンシャル
ベトナムの医薬品小売市場は、日本や欧米とは大きく異なる構造を持っている。ベトナムには全国に約6万店以上の薬局が存在するとされるが、その大半は個人経営の零細店舗であり、近代的なチェーンオペレーションを展開する企業はまだ少数派である。ベトナムの人口は約1億人を超え、中間層の拡大と高齢化の進展に伴い、医薬品・ヘルスケア関連の支出は年々増加傾向にある。世界銀行のデータによれば、ベトナムの一人当たり医療支出は過去10年で着実に伸びており、今後も成長余地は大きい。
こうした市場環境の中で、アンカンのようなチェーン型薬局は、仕入れの一括交渉力、在庫管理の効率化、ブランドへの信頼性といった点で個人薬局に対して構造的な優位を持つ。テーザイジーゾンが家電・携帯電話チェーンで培った全国規模のサプライチェーンマネジメントのノウハウは、薬局事業にも応用可能であり、これが長期的な競争力の源泉となっている。
8年の赤字期間が意味するもの——小売チェーン展開の「忍耐の投資」
約8年にわたる赤字というのは、一見すると長期間に思えるかもしれないが、ベトナムにおける小売チェーンの新規事業展開においては珍しいことではない。バックホアサインもまた、長年にわたり巨額の赤字を計上し続けた末に、近年ようやく収益改善の兆しを見せている。ベトナムの小売市場は競争が激しく、また消費者の購買行動や物流インフラが地域ごとに大きく異なるため、全国的なチェーン展開には膨大な初期投資と時間がかかる。
テーザイジーゾンの場合、主力の携帯電話・家電小売で安定したキャッシュフローを生み出しているからこそ、薬局事業の長期赤字を許容できたという背景がある。同社の経営陣は以前から「短期的な利益よりも、長期的な市場ポジションの獲得を優先する」と繰り返し表明しており、アンカンの黒字化接近はその戦略が実を結びつつあることの証左といえる。
競合環境——ロンチャウ、ファーマシティとの三つ巴
ベトナムのチェーン型薬局市場では、アンカン以外にも有力プレイヤーが存在する。最大手はFPTリテール(FPT Retail、ティッカー:FRT)が運営する「ロンチャウ(Long Châu)」で、全国に1,000店舗以上を展開し、すでに黒字化を達成している。ロンチャウは積極的な出店戦略と医薬品以外のヘルスケア商品の品揃え拡充により、急速にシェアを拡大してきた。
もう一つの有力チェーンが「ファーマシティ(Pharmacity)」であるが、同社は一時期の急拡大の後に店舗整理を進めており、収益面では苦戦が伝えられている。こうした競合環境の中で、アンカンが損益分岐点に到達するということは、テーザイジーゾンが主力事業で築いた店舗運営ノウハウを薬局にも効果的に移植できていることを示唆している。
投資家・ビジネス視点の考察
MWG株への影響:アンカンの黒字化は、テーザイジーゾン(MWG)の連結業績にとってプラス材料である。これまでアンカンは連結ベースで利益を押し下げる要因であったが、黒字化が実現すれば「利益の足かせ」から「利益の上乗せ要因」へと転換する。バックホアサインの収益改善と合わせ、MWGの利益成長ストーリーに厚みが増すことになる。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するMWGは、外国人投資家の保有比率も高く、こうしたポジティブなニュースは株価の支援材料となり得る。
ベトナム医薬品小売セクターへの示唆:チェーン型薬局が次々と黒字化を達成していくことは、ベトナムの医薬品小売市場が「個人店舗中心の未成熟市場」から「近代的チェーンが主導する成熟市場」へと構造転換しつつあることを意味する。この流れは、日本の医薬品卸や製薬メーカーにとっても、ベトナム市場への参入・提携を検討する上で重要なシグナルである。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、海外からの資金流入が加速し、MWGのような時価総額の大きい主要銘柄にはさらなる買い圧力がかかる可能性がある。薬局事業の黒字化による業績改善は、こうしたインデックス資金を呼び込む上でもプラスに作用するだろう。
日本企業への影響:ベトナムの医薬品・ヘルスケア市場の近代化は、日本の製薬企業やドラッグストアチェーンにとってもビジネスチャンスとなり得る。特に、OTC医薬品(一般用医薬品)やサプリメント分野では、日本製品に対するベトナム消費者の信頼度は高く、アンカンやロンチャウといったチェーン薬局を販路として活用する可能性は十分に検討に値する。
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