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ベトナム中部の有力タクシー会社フォンザン・タクシー(Taxi Hương Giang)が、VinFast(ビンファスト)製の電気自動車(EV)1,500台を新たに発注し、保有する全車両を純電気自動車に切り替える方針を発表した。2025年5月11日付の発表で、同社はEV配車サービスを展開するグリーンSM(Green SM)との協業をさらに拡大する形での大型調達となる。ベトナム国内でEVタクシーの普及が加速する中、注目度の高いディールである。
フォンザン・タクシーとは——中部ベトナムを代表するタクシーブランド
フォンザン・タクシーは、古都フエ(Huế)を拠点とするタクシー会社で、ベトナム中部地方では広く知られた交通ブランドである。社名の「フォンザン(Hương Giang)」はフエ市内を流れるフォン川(香江)の別称であり、地域に根ざした企業としてのアイデンティティを象徴している。フエはユネスコ世界遺産に登録されたグエン朝(阮朝)王宮をはじめ、多数の歴史的建造物を有する観光都市であり、タクシー需要は観光客と地元住民の双方から安定的に見込める地域だ。
同社はこれまで内燃機関(ICE)車両を中心にタクシー事業を運営してきたが、今回の決定により保有する全車両をVinFast製の純電気自動車へ転換する。タクシー業界における「全車EV化」宣言は、ベトナム国内でも先進的な動きと言える。
グリーンSM——VinFastのEVエコシステムを支える配車プラットフォーム
今回の1,500台調達は、グリーンSM(Green SM)との協業拡大の一環として行われた。グリーンSMは、ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手の民間コングロマリット)傘下のVinFastが推進するEVモビリティエコシステムの中核を担う配車・タクシーサービス企業である。2023年に設立されて以来、VinFast製EVを活用したタクシー・ライドヘイリングサービスをベトナム主要都市で展開しており、ハノイやホーチミン市だけでなく、地方都市にも急速にネットワークを広げている。
グリーンSMのビジネスモデルは、VinFastが製造するEVの大量導入先を確保すると同時に、充電インフラの整備やドライバーの教育・管理を一括で行うことで、地場のタクシー事業者がEVへスムーズに移行できる環境を提供する点にある。フォンザン・タクシーのような地方の有力タクシー会社との提携は、グリーンSMにとっても地方市場への浸透を加速させる重要なステップとなる。
VinFast——ナスダック上場のベトナム発EVメーカー
VinFast(ティッカー:VFS、米ナスダック上場)は、ビングループが2017年に設立した自動車メーカーで、ベトナム北部ハイフォン市の大規模工場を生産拠点としている。2023年8月にナスダック市場へSPAC経由で上場し、世界的な注目を集めた。現在はSUVタイプのVF 8、VF 9、小型のVF 5、VF 6、VF 7、さらにミニEVのVF 3など多様なラインナップを展開しており、ベトナム国内のみならず、米国、欧州、インドネシア、フィリピンなど海外市場への進出も積極的に進めている。
タクシー・配車サービス向けのフリート販売は、VinFastにとって安定的な販売台数を確保する上で極めて重要なチャネルである。個人消費者への販売に加え、グリーンSMや地方タクシー会社へのまとまった台数の納入は、工場稼働率の向上や生産計画の安定化に直結する。今回の1,500台という規模は、フリート向け単一案件としてもかなりの大口であり、VinFastの2025年販売目標の達成に寄与するものと見られる。
ベトナムにおけるEVタクシー普及の背景
ベトナム政府は近年、EV普及を国家的な政策課題として位置づけている。2022年にはEVに対する登録税の優遇措置が導入され、2025年現在もEV購入を促進するための税制優遇が継続されている。大気汚染が深刻化するハノイやホーチミン市では、公共交通やタクシーの電動化が環境改善策の柱と見なされており、地方政府レベルでもEVタクシーの導入を奨励する動きが広がっている。
また、ベトナムは東南アジア有数の二輪車大国(登録台数7,000万台超)であり、四輪車市場はまだ成長途上にある。自動車の新規購入層が今後拡大していく中で、最初からEVを選択する消費者やフリートオペレーターが増えることが予想されており、「ガソリン車時代をスキップしてEVへ直行する」リープフロッグ型の市場発展が起こりうる環境が整いつつある。
投資家・ビジネス視点の考察
VinFast(VFS)への影響:今回のフリート受注は、VinFastの販売実績に直接的なプラス材料となる。同社は2024年通期で約9万台の出荷を達成したが、2025年はさらなる増産を目指している。グリーンSM経由のフリート販売が積み上がることで、四半期ごとの納車台数が底上げされ、市場の期待値を上回る実績につながる可能性がある。ただし、フリート向け販売は個人向けに比べてディスカウントが適用されるケースもあり、台数増加が直ちに利益率改善に結びつくかどうかは注視が必要である。
ビングループ(VIC)およびグリーンSMへの波及:ビングループ(ホーチミン証券取引所上場、ティッカー:VIC)は依然としてVinFastの親会社として同社の業績に間接的に連動する。グリーンSMの事業拡大はビングループのモビリティ戦略全体の進捗を示すシグナルであり、VICの株価評価にもポジティブに働く材料と言えるだろう。
日本企業への示唆:トヨタ、ホンダ、三菱自動車など日本メーカーはベトナム自動車市場で一定のシェアを持つが、タクシー・フリート向けセグメントではVinFastが急速にプレゼンスを拡大している。日本メーカーにとっては、EVラインナップの拡充やフリートオペレーターとの提携戦略を見直す契機となり得る。また、EVの充電インフラや部品サプライチェーンの分野では、日系サプライヤーにとっての商機も存在する。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、海外機関投資家の資金流入が加速する。VICのような時価総額上位銘柄は指数構成銘柄として組み入れ対象となる可能性が高く、ビングループ=VinFastエコシステム全体の成長ストーリーへの注目度がさらに増すことになる。EV普及の進展はベトナム経済の「グリーン成長」を象徴するテーマであり、ESG投資の観点からも海外投資家の関心を引きやすい材料である。
ベトナム経済全体の文脈:ベトナムは2025年もGDP成長率6〜7%台を目指す高成長経済であり、都市化・モータリゼーション・デジタル化が同時進行している。EV産業はこれらのメガトレンドが交差する領域であり、製造業(VinFast工場)、サービス業(グリーンSM)、インフラ(充電ネットワーク)、観光業(フエなど観光地でのEVタクシー運行)といった複数のセクターに波及効果をもたらす。今回のフォンザン・タクシーの全車EV化は、地方都市レベルにまでEV化の波が到達していることを示す象徴的な出来事であり、ベトナムのEV市場が本格的な拡大期に入りつつあることを裏付けている。
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