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中国の大手製薬グループ、麗珠医薬集団(Livzon Pharmaceutical Group、広東省珠海市に本社を置く中国有数の製薬企業)傘下のLian SGP Holdingが、ベトナム抗生物質市場のトップ企業であるImexpharm(イメクスファーム、ホーチミン証券取引所上場・ティッカー:IMP)の株式68%を取得し、同社の筆頭株主に躍り出た。ベトナム医薬品業界における過去最大級の外資による買収案件であり、業界全体に大きな波紋を広げている。
買収の概要——Livzon Pharmaceuticalとは何者か
今回の買収を実行したLian SGP Holdingは、中国・広東省珠海市に本拠を構える麗珠医薬集団(Livzon Pharmaceutical Group)のグループ会社である。Livzon Pharmaceuticalは1985年設立の歴史ある製薬企業で、深圳証券取引所および香港証券取引所に上場している。抗生物質、消化器系薬品、漢方薬、バイオ医薬品など幅広い製品ラインナップを持ち、中国国内では売上高で上位に位置する大手だ。近年はASEAN市場への進出を加速しており、今回のImexpharm株式取得はその戦略の中核を成すものと見られる。
Lian SGP HoldingがImexpharmの発行済み株式の68%を取得したことで、同社はImexpharmの経営に対する圧倒的な支配権を手にしたことになる。従来、Imexpharmには韓国系ファンドのSK Investment(SKグループ系)が大株主として名を連ねていたが、今回の取引によって株主構成は大きく塗り替えられた格好だ。
Imexpharm——ベトナム抗生物質市場の「盟主」
Imexpharm(正式名称:Imexpharm Pharmaceutical Joint Stock Company)は、ベトナム南部ドンタップ省カオラインに本社を置く製薬企業で、1983年の設立以来、ベトナム国内の抗生物質市場において圧倒的なシェアを誇ってきた。ペニシリン系、セファロスポリン系など多岐にわたる抗生物質を製造・販売しており、ベトナム国内の病院や薬局への供給網は全国規模に及ぶ。
同社が特に注目されるのは、EU-GMP(欧州医薬品製造管理基準)認証を取得した製造施設を複数保有している点である。ベトナム国内でEU-GMP認証を取得している製薬企業は限られており、Imexpharmは品質面で国際水準を満たす数少ない国内メーカーとして、輸出市場への展開も視野に入れてきた。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場しており、ティッカーコードは「IMP」。医薬品セクターの代表銘柄として個人投資家・機関投資家双方から注目を集めてきた銘柄である。
なぜ中国企業がベトナム製薬に食指を動かすのか
今回の買収の背景には、複数の構造的要因がある。
第一に、ベトナム医薬品市場の高い成長性だ。ベトナムの人口は約1億人に達し、高齢化の進行や中間層の拡大に伴い医薬品需要は年率8〜10%のペースで拡大を続けている。国民の健康保険カバー率も上昇しており、処方薬の消費量は今後も増加が見込まれる。
第二に、中国製薬企業のASEAN進出戦略がある。中国国内では医薬品の集中調達制度(いわゆる「集採」)の影響でジェネリック薬の価格が大幅に引き下げられ、国内市場での収益性が圧迫されている。こうした環境下、Livzonをはじめとする中国大手製薬各社は成長余地のある東南アジア市場を次なる収益源と位置づけ、積極的にM&Aや合弁事業を展開している。
第三に、ImexpharmのEU-GMP認証工場の存在である。EU基準の製造施設を持つことは、欧州やその他の先進国市場への輸出ライセンスに直結する。Livzonにとって、Imexpharmを通じてベトナムを「製造・輸出拠点」として活用する道が開けることになる。米中貿易摩擦の長期化に伴い、中国企業が第三国経由でグローバルサプライチェーンを再構築する動きの一環とも読める。
ベトナム国内の反応——「経済安全保障」への懸念も
ベトナム国内では、今回の買収に対してさまざまな反応が出ている。医薬品は国民の健康に直結する戦略的分野であり、中国資本による支配的な株式取得に対して慎重論を唱える声も少なくない。ベトナム政府は近年、外資による重要産業への投資について審査を強化する方針を示しており、今回のケースが今後の規制議論にどう影響するかも注目されるところだ。
一方で、外資の参入によりImexpharmの技術力・資金力が強化され、ベトナム製薬産業全体の底上げにつながるとの前向きな見方もある。ベトナムは現在も医薬品の多くを輸入に頼っており、国内生産比率の向上は政府の産業政策上の重要目標でもある。
投資家・ビジネス視点の考察
IMP株への影響:68%という圧倒的な持分取得は、事実上のTOB(株式公開買付け)に近い規模である。残存する少数株主にとっては、今後の経営方針の転換、配当政策の変更、上場維持・廃止の可能性など不確実要素が増す。短期的にはIMP株価に思惑的な値動きが生じる可能性がある一方、中長期的にはLivzonの資金・技術注入による業績拡大期待も市場に織り込まれていくだろう。
ベトナム医薬品セクター全体への波及:今回の大型買収は、ベトナム医薬品業界における外資M&Aの新たな潮流を示唆している。同業のDHG Pharma(ティッカー:DHG、大正製薬がすでに大株主)、Traphaco(ティッカー:TRA)、Pymepharco(ティッカー:PME)などベトナム上場製薬銘柄への外資買収観測が高まる可能性がある。
日本企業への示唆:大正製薬によるDHG Pharma(ハウザン製薬)への出資はベトナム製薬市場への日本企業進出の好例として知られるが、中国資本の攻勢が強まる中、日本勢が出遅れるリスクも意識される。ベトナムを生産・輸出拠点として活用する戦略は日本の製薬・ヘルスケア企業にとっても有望であり、今後M&A競争が激化する可能性がある。
FTSEの新興市場指数格上げとの関連:ベトナム株式市場は2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げ判定が予定されている。格上げが実現すれば、海外機関投資家の資金流入が加速し、IMP含む上場銘柄の流動性向上が期待される。一方で外国人持株比率の上限(FOL)や情報開示の透明性など、制度面の課題も依然として残る。今回のようなクロスボーダーM&Aの増加は、市場の成熟度を示すシグナルとしてFTSE側にもポジティブに評価される余地がある。
ベトナム経済全体のトレンド:米中対立の長期化を背景に、ベトナムは「チャイナ・プラスワン」の最有力候補として製造業の投資先として注目されてきた。今回の事例は、単なる製造委託先としてだけでなく、中国企業がベトナム企業を直接買収して東南アジア市場のプラットフォームとする新たなフェーズに入ったことを意味する。これはベトナムにとって外資導入という経済的恩恵をもたらす一方、主要産業の支配権をめぐる政治的・社会的議論を深める契機にもなるだろう。
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