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ベトナム財務省およびベトナム証券委員会が、スタートアップ企業専用の証券取引市場の創設に向けた制度設計を進めていることが明らかになった。2026年5月12日、ベトナム投資イノベーションフォーラム(VIPC Summit 2026)の記者発表会で公表されたもので、同国のイノベーション・エコシステム構築における「画期的な一歩」として注目を集めている。
スタートアップに適した「IPOの滑走路」を整備
発表を行ったのは、ベトナム国立イノベーションセンター(NIC)のキム・ゴック・タイン・ガー副所長である。同氏は「証券委員会がスタートアップの資金調達に特化した市場の制度設計を研究中だ。これは今後の証券市場における非常に大きな前進であり、スタートアップ企業が自社の能力と成長段階に見合った基準で上場できる道を開くものだ」と強調した。
現行のベトナム証券市場は、ホーチミン証券取引所(HOSE)とハノイ証券取引所(HNX)の2市場体制で運営されている。しかし、既存の上場基準は利益実績や資本金規模などの要件が厳しく、創業間もないスタートアップにとっては事実上、株式公開による資金調達が困難な状況にあった。今回検討されているスタートアップ専用市場は、こうしたギャップを埋め、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティ(PE)から投資を受けた企業がIPOへとスムーズに移行できる「滑走路」を提供することを目的としている。
「テーゾイジードン」の成功モデルを再現できるか
Do Ventures(ドゥー・ベンチャーズ)のレー・ホアン・ウエン・ヴィーCEOは、世界的にMeta(旧Facebook)やGoogleといったテクノロジー大手がプライベート資金の調達からIPOに至るまで一貫した成長ルートを辿ってきた点を指摘。ベトナム国内でも、テーゾイジードン(Thế Giới Di Động、ティッカー:MWG、ベトナム最大級の家電・携帯販売チェーン)が小規模な民間企業からPE投資を経て上場し、小売分野の「ユニコーン」へと成長した事例を「ケーススタディ」として紹介した。
ヴィー氏は「専用取引所の設立により、初期段階のベンチャーキャピタルから企業が成長した後の公募による長期資金調達まで、資金の流れが途切れることなく一貫してつながるようになる」と述べた。
VIPC Summit 2026で議論される重要テーマ
この発表は、2026年5月28日にホーチミン市で開催されるVIPC Summit 2026の情報公開の場で行われた。同サミットでは以下の重要テーマが議論される予定である。
- FTSE Russellによるベトナムの新興市場への格上げ:2026年9月に予定されている格上げ決定と、それに伴う大規模な外国資金流入のイノベーション分野への機会
- ベトナム・テクノロジー&イノベーション投資レポート2026の公表:BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)と共同で作成され、イノベーション分野へのプライベート資本の流れに関する透明なデータを提供
- AI、半導体、クライメートテック(気候テクノロジー)といった戦略的産業の発展見通し
- 地方政府、投資ファンド、グローバルテクノロジー企業間の実質的なマッチング活動
ベトナム・プライベートキャピタル開発機構(VPCA)の創設理事会メンバーであるマックス・F・シャイヒェノスト氏は、今回のサミットのテーマが「政策から資金の流れへ:ベトナムの戦略産業への民間資本動員」であると説明。ベトナムが「歴史上最も野心的な政策改革サイクル」を完了したばかりであり、国際経済界がこれを「ドイモイ2.0」と呼んでいることに言及し、「政策の窓が大きく開いている。VIPC 2026は、その政策の推進力を、ベトナムの最も戦略的な産業に流入する実際の資金に変える場だ」と強調した。
PE・VC投資が回復、クライメートテックが新たな「磁石」に
VIPC Summit 2026で公表予定のレポートの初期データによると、ベトナムのプライベート資本市場はグローバルな調整期を経て力強く回復しつつある。PE投資・VC投資ともに再び成長軌道に乗り、特にベトナム人創業者が設立したグローバル志向のスタートアップに資金が集中している。
AI分野に加え、クライメートテック(Climate Tech)が国際投資ファンドを引きつける新たな「磁石」となっている。GGGI(グローバル・グリーン成長研究所)などの国際機関も関心を寄せており、グリーンモビリティ(環境配慮型モビリティ)やバッテリー(蓄電)分野の革新的ビジネスモデルが、大きな初期投資というハードルを超えてグローバルVCへのアクセスを可能にしているという。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナム株式市場に関心を持つ投資家にとって複数の重要な示唆を含んでいる。
第一に、FTSE新興市場格上げとの相乗効果である。2026年9月のFTSE Russell格上げが実現すれば、パッシブファンドを中心に数十億ドル規模の外国資金がベトナム市場に流入すると見込まれている。このタイミングでスタートアップ専用取引所の構想が動き出すことは、ベトナムが「量」だけでなく「質」の面でも資本市場の厚みを増そうとしていることを示す。格上げによる資金流入がイノベーション・セクターにまで波及する経路が制度的に整備される可能性がある。
第二に、既存上場企業への影響だ。テーゾイジードン(MWG)が言及されたように、かつてPE・VCから投資を受けて成長した企業群が、今後は「出口」としての専用市場を持つことになる。これはVC・PE業界全体の投資回収サイクルを改善し、ベトナムへのリスクマネー流入を加速させる要因となりうる。FPTやVNG(ベトナムのテクノロジー大手)など既にテック分野で上場している銘柄の周辺に、新たな投資テーマが生まれる可能性もある。
第三に、日本企業への影響である。日本のVC・CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)はすでにベトナムのスタートアップ市場に一定の存在感を持っている。SBIホールディングスやソフトバンク・ビジョン・ファンドなどがベトナムのテック企業に投資してきた実績がある。スタートアップ専用市場が整備されれば、日系投資家にとっても投資回収の選択肢が広がり、ベトナムのスタートアップ投資がより魅力的になるだろう。また、日本の製造業がベトナムのクライメートテック企業と協業する動きも加速する可能性がある。
第四に、「ドイモイ2.0」というキーワードの持つ意味合いである。1986年のドイモイ(刷新)政策がベトナムの市場経済化を推進したように、現在の一連の制度改革は資本市場の近代化と国際化を加速させるものと位置づけられている。証券法改正、外国人投資規制の緩和、そして今回のスタートアップ市場構想は、いずれもこの文脈上にある。中長期的にベトナム市場全体の「ディスカウント」が縮小していく方向性を示唆しており、ベトナム株への投資妙味は今後さらに高まる可能性がある。
ただし、構想段階であることには留意が必要だ。具体的な上場基準、投資家保護の仕組み、流動性の確保策など、制度設計の詳細はまだ明らかになっていない。スタートアップ向け市場は世界各国で成功例と失敗例の双方が存在しており(英国のAIMは成功例、日本の旧マザーズも参考事例)、ベトナムがどのようなモデルを採用するかが鍵となる。
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