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ベトナムの代表的な株価指数であるVN-Indexが史上最高値を更新したにもかかわらず、多くの個人投資家が依然として数十パーセントの含み損を抱えている——。一見矛盾するこの現象の背景には、ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手の民間コングロマリット)系銘柄への極端な資金集中という、ベトナム株式市場特有の構造的問題が横たわっている。
VN-Index最高値更新の「内実」
2025年に入ってからVN-Indexは力強い上昇を続け、ついに過去最高値を突破した。指数だけを見れば、ベトナム株式市場は絶好調に映る。しかし実態はそう単純ではない。指数の上昇をけん引しているのは、ビングループ傘下の銘柄群——具体的にはVIC(ビングループ本体)、VHM(ビンホームズ、不動産開発)、VRE(ビンコム・リテール、商業施設運営)などの「ビン一族」銘柄が中心である。これらの銘柄はVN-Indexにおける時価総額ウェイトが極めて大きく、ビングループ系だけで指数を数十ポイント押し上げる力を持つ。
つまり、ビングループ系銘柄を保有していない投資家にとっては、VN-Indexの最高値更新はほとんど「自分ごと」ではないのである。
証券・テクノロジー・石油ガス——取り残されたセクター
元記事によれば、含み損を抱えている投資家の多くは、ポートフォリオが証券セクター、テクノロジーセクター、石油ガスセクターに集中しているケースだという。これらのセクターは2022年後半から2023年にかけてのベトナム株式市場全体の急落局面で大きく値を下げ、その後の回復も限定的にとどまっている。
証券セクターについては、2022年の社債市場危機やFLC・タントゥイミン不動産グループなどの不正事件を受けた投資家心理の冷え込みが長引いた。テクノロジーセクターは、世界的な金利上昇局面でグロース株全般が敬遠された流れを受けた。石油ガスセクターは、原油価格の乱高下に加え、ベトナム国営石油ガスグループ(PVN)傘下企業の業績が市場の期待を下回ったことが重荷となっている。
こうしたセクターに資金を集中させ、ビングループ系銘柄を保有していなかった投資家は、VN-Indexが高値を更新するのを横目に、自身のポートフォリオが依然として数十パーセントのマイナス圏にあるという皮肉な状況に置かれている。
ベトナム株式市場の構造的課題——指数と実態の乖離
この現象は、ベトナム株式市場が抱える構造的な課題を如実に表している。VN-Indexはホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する全銘柄を時価総額加重平均で算出する指数であるため、ビングループのような超大型株の動向に過度に左右される。これは日本の日経平均株価がファーストリテイリングやソフトバンクグループなど一部の値がさ株に大きく影響される構造と類似しているが、ベトナムの場合はその偏りがさらに顕著である。
ベトナムには約1,700万の証券口座が存在するとされるが、その大半は個人投資家であり、機関投資家の比率は先進国と比べて著しく低い。個人投資家はテーマ株や中小型株に資金を振り向ける傾向が強く、指数を動かす大型株とは異なるセグメントに投資していることが多い。その結果、「指数は上がっているのに自分は儲かっていない」という声が頻繁に聞かれることになる。
ビングループ系銘柄が買われる背景
では、なぜビングループ系銘柄にこれほど資金が集中しているのか。いくつかの要因が挙げられる。
第一に、ビングループ傘下のビンファスト(VinFast)がEV(電気自動車)メーカーとして北米市場に上場しており、ベトナム発のグローバルブランドとしての期待が根強いことである。第二に、ビンホームズはベトナム最大の不動産開発企業であり、政府のインフラ投資拡大や都市化の恩恵を最も受けやすいポジションにある。第三に、FTSE新興市場指数への格上げが2026年9月に決定される見込みであり、格上げが実現すれば大型で流動性の高いビングループ系銘柄に海外パッシブ資金が大量に流入するとの思惑が先行している。
こうした複合的な期待が、ビングループ系銘柄への資金集中をさらに加速させ、指数全体を押し上げる一方で、その他のセクターとの二極化を深刻化させている。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場・関連銘柄への影響:今回の現象は、VN-Indexという指数そのものの「代表性」に対する疑問を投げかけている。指数連動型のETFやインデックスファンドを通じてベトナム市場に投資している海外投資家は、実質的にビングループへの集中投資を行っていることになる。個別銘柄の選定能力がリターンを大きく左右する市場であり、指数だけを見て楽観するのは危険である。
日本企業・ベトナム進出企業への影響:ベトナムに進出している日本企業の中には、現地法人の余剰資金をベトナム株で運用しているケースもある。こうした企業にとっても、セクター分散の重要性を改めて認識させる事例と言える。また、証券・金融セクターの低迷が続けば、日系証券会社のベトナム事業にも逆風となる可能性がある。
FTSE格上げとの関連:2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判定は、ベトナム株式市場にとって最大のカタリストである。格上げが実現すれば、推定で数十億ドル規模のパッシブ資金が流入するとされるが、その恩恵は時価総額と流動性が大きい銘柄——すなわちビングループ系や大手銀行株——に偏る可能性が高い。中小型株や低流動性銘柄への波及効果は限定的と見るべきである。
ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ:ベトナム経済はGDP成長率6〜7%台を維持し、FDI(外国直接投資)の流入も堅調である。しかし、株式市場における大型株一極集中は、市場の健全な発展という観点からは課題である。ホーチミン証券取引所が進めるKRX(韓国取引所)システムへの移行が完了し、空売りやデリバティブ商品の充実が図られれば、市場の厚みが増し、こうした偏りは徐々に解消される可能性がある。
いずれにせよ、ベトナム株式市場で「指数に騙されない」投資判断を行うためには、個別セクターの動向やポートフォリオの分散状況を常に意識することが不可欠である。VN-Indexの最高値更新に沸く市場の裏側で、多くの投資家が含み損に苦しんでいるという現実は、ベトナム市場のリスクとリターンの非対称性を象徴するエピソードと言えるだろう。
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