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ベトナム財務省は、税関法改正案における「通関後検査(キエムチャーサウトンクアン)」の期間短縮提案を受け入れない方針を明確にした。Samsung(サムスン)やCanon(キヤノン)といった大手外資系企業や、繊維・皮革靴業界団体が柔軟な運用を求めたにもかかわらず、政府側は現行制度の維持を選択した形である。ベトナムでビジネスを展開する日本企業にとっても、コンプライアンスコストに直結する重要な論点である。
通関後検査の「5年ルール」をめぐる論争
今回の焦点は、税関法改正案第77条第4項に定められた通関後検査の適用範囲である。現行の草案では、税関申告書の登録日から検査決定の発出日まで「最長5年」という上限が設けられている。
これに対し、ホーチミン市人民委員会、バクニン省(ハノイ近郊の工業集積地)、国防省、そして企業コミュニティから異論が噴出した。5年という期限を厳格に設定すると、長期間経過後に違反が発覚した場合、検査範囲を拡大できず、税務管理法に基づく税金の全額回収が困難になるという懸念である。
ベトナム商工会議所(VCCI)は、5年の上限自体は合理的としつつも、税務管理法(法律第108/2025/QH15号)第44条第7項・第8項への明確な参照規定を設けるべきだと主張した。VCCIの具体的な提言は以下の通りである。
「最初の5年間は追徴課税と罰則の両方を適用可能とし、5年超10年以下の期間については追徴課税のみとする——この区分を明確にしなければ、税関当局が処分決定を下す際に法律間の矛盾が生じるリスクがある」
しかし財務省はこれらの意見に対し、現行規定の維持を表明した。その理由として、5年の上限は政策の安定性を確保し、企業が将来を予測する基盤となること、また通関後検査と他の専門分野の監査・検査との境界を明確にし、執行の重複を防止できることを挙げている。さらに財務省は、税務違反が発見された場合には税務管理法の規定に基づき独立して処理が可能であり、通関後検査の範囲拡大に依存する必要はないと強調した。
検査日数「最長20日」の短縮要求も却下
もう一つの争点が、改正案第79条に規定された検査実施期間である。草案では、検査開始時点から最長20日間とし、範囲が広い場合や内容が複雑な場合に限り1回に限って20日以内の延長が認められている。つまり最大40日間の検査が可能な設計である。
これに対し、Samsung、Canonをはじめとする大手外資系企業、繊維・アパレル業界団体、皮革靴業界団体などが、検査期間の短縮と柔軟化を強く要望した。具体的な提案内容は多岐にわたる。
第一に、検査期間の起算点を「検査開始時」ではなく「検査決定の公布時」に変更し、透明性と追跡可能性を高めること。第二に、暦日ではなく「営業日」ベースで計算し、祝日・休日を含むことによる形式的な期間の長期化を防止すること。第三に、期間そのものを10日ないし15日に短縮すること。第四に、リスクレベルに応じた分類制度を導入し、コンプライアンス実績の良好な企業や書類が簡易な案件は短期間で検査を完了させ、複雑な案件のみ延長を適用するという仕組みである。
こうしたリスクベースのアプローチは、生産活動の中断を最小化し、コンプライアンスコストを削減するとともに、行政手続き改革の方向性にも合致するものとして期待されていた。
しかし財務省は、これらの提案をいずれも受け入れなかった。通関後検査は大量の書類・帳簿・会計データ・長期にわたる事業活動を対象とする特殊な業務であり、包括的かつ正確な評価には十分な時間が不可欠であるという立場である。「検査期間を短縮すれば、違反の見落としや複数回の検査実施を余儀なくされるリスクが相当大きい」と財務省は警告している。
起算点についても、「検査開始時」からの計算は業務プロセスに適合しており、事前準備期間を確保する必要があると説明。他分野との計算方法の不一致についても、税関分野固有の特性によるものであり、申告者の権利・利益を損なうものではないとの見解を示した。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の決定は、ベトナムの通関・税務環境に関わるすべての企業にとって注目すべき動向である。以下の視点から影響を整理する。
日本企業・外資系企業への影響:ベトナムには数千社の日系製造業が進出しており、輸出入を伴う事業では通関後検査の対象となる可能性が常にある。検査期間の短縮が見送られたことで、最大40日間にわたる検査対応のための人員・コスト負担は従来通り続く。特に中小規模の日系サプライヤーにとっては、コンプライアンス部門の体制強化が引き続き課題となる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナムは2025年3月にFTSEのウォッチリストに追加され、2026年9月の格上げ決定が見込まれている。市場アクセスの改善や制度の透明性向上が格上げの条件とされる中、今回のような「企業側の柔軟化要求を退け、管理・監督を優先する」姿勢は、規制環境の予測可能性を担保するという点ではプラスに評価できる一方、ビジネスフレンドリーな制度改革の速度に疑問を呈する声も出かねない。
株式市場への直接的影響:本件は税関法の改正論議であり、特定銘柄への即時的なインパクトは限定的である。ただし、物流関連企業(ジェマデプト〈GMD〉など)や、輸出入比率の高い製造業上場企業にとっては、中長期的なコンプライアンスコストの見通しに関わるテーマである。
制度設計の方向性:財務省が「管理の実効性」を優先する姿勢を鮮明にしたことは、ベトナムの行政改革が依然として「緩和」一辺倒ではなく、国家収入の確保・違反抑止とのバランスを重視していることを示している。企業側としては、VCCIが提言した5年・10年の区分明確化など、今後の国会審議で修正が盛り込まれるかどうかを注視する必要がある。
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