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ベトナム中部高原(タイグエン地方)のザライ省(Gia Lai)で、雨季の始まりとともにセミの抜け殻(脱皮殻)を拾い集めて仲買人に販売する「副業」が住民の間で活況を呈している。買取価格は1kgあたり約200万ドンに達しており、農閑期の貴重な現金収入源として注目を集めている。
雨季到来でセミの抜け殻拾いがラッシュに
ベトナム中部高原地域では毎年5月頃、モンスーンの影響で「ムア・ダウ・ムア」(mưa đầu mùa=初夏の雨)と呼ばれる最初のまとまった降雨が訪れる。この雨をきっかけに地中で数年間を過ごしたセミの幼虫が一斉に地上へ出て羽化し、大量の抜け殻(xác ve sầu)が森やコーヒー農園(rẫy cà phê)の木々に残される。ザライ省の住民たちはこの時期を待ちかねたように森や自家農園に入り、木の幹や枝にしがみついた状態の抜け殻をひたすら手作業で集めている。
ザライ省はベトナム有数のコーヒー生産地であり、省内には広大なロブスタ種のコーヒー農園が広がる。コーヒーの木はセミの幼虫が好む根を張る樹木でもあり、農園内には特に多くの抜け殻が見つかるという。住民の中には1日で数kgを集める者もおり、仲買人(thương lái)への売却価格が1kgあたり約200万ドンという高値であることから、日当換算でかなりの収入になるケースもある。
なぜセミの抜け殻に高値がつくのか——漢方・伝統医学での需要
セミの抜け殻は、漢方医学(東洋医学)において「蝉退(ぜんたい)」と呼ばれる生薬として古くから利用されてきた。中国やベトナムの伝統医学では、解熱・鎮痙・抗炎症・目の充血改善などの効能があるとされ、煎じ薬や粉末として処方されている。近年は中国市場からの需要が特に旺盛で、ベトナム産のセミの抜け殻は品質が良いとして高い評価を受けている。
ベトナム国内でも、伝統医学(thuốc Đông y)の原料としての需要は根強い。さらに近年では健康食品やサプリメントの原料としても注目されており、乾燥・選別された良質な抜け殻には安定した引き合いがある。仲買人たちは集めた抜け殻を乾燥・梱包した上で、主にホーチミン市やハノイの漢方薬問屋、あるいは中国向けの輸出業者に卸しているとみられる。
中部高原の農村経済と「森の副産物」の位置づけ
ザライ省をはじめとするベトナム中部高原5省(ザライ、コントゥム、ダクラク、ダクノン、ラムドン)は、コーヒー・胡椒・カシューナッツ・ゴムなどのプランテーション農業が主産業である。しかし、これらの一次産品は国際市場価格の変動に左右されやすく、農家の収入は不安定になりがちだ。特にコーヒー価格が低迷する年には、農村部の生活は厳しさを増す。
こうした背景から、森林や農園から得られる「副産物」——蜂蜜、薬草、キノコ、そしてセミの抜け殻のような生薬原料——は、農家にとって重要な補助的収入源となっている。セミの抜け殻は特に初期投資がほぼ不要で、体力さえあれば誰でも参入できるため、高齢者や女性、少数民族の住民にとっても貴重な現金獲得手段である。ザライ省は人口の約半数をバナール族(Ba Na)やジャライ族(Gia Rai)などの少数民族が占めており、彼らの生計にとってこうした季節的な副収入の意味は大きい。
ただし、セミの抜け殻の採取シーズンは雨季の初めの短期間に限られるため、年間を通じた安定収入とはなり得ない点には留意が必要である。また、乱獲的な採取が続けばセミの個体数減少や森林環境への影響が懸念されるとの指摘もある。
投資家・ビジネス視点の考察
本ニュースは直接的に上場企業の業績やベトナム株式市場(VN-Index)を動かすようなテーマではないが、ベトナム経済・社会の「地層」を理解する上で示唆に富む内容である。以下の観点から整理したい。
1. 農村部の購買力と「ボトムアップ」の内需
ベトナムの農村人口は全体の約6割を占める。こうした季節的な副収入が農村部の可処分所得を底上げし、日用消費財や通信サービスなどの内需を支えている側面がある。農村向けの小売・FMCG(日用消費財)関連銘柄——たとえばマサングループ(MSN)やビナミルク(VNM)——の売上基盤を理解する一つの補助線となる。
2. 農産物・天然素材の輸出多角化
ベトナムは農林水産物の輸出大国であり、コーヒー・胡椒・水産物などが主力だが、漢方原料や天然素材といったニッチ品目も裾野を広げている。中国向け輸出の多角化という文脈で、こうした「非伝統的」な輸出品目の動向は地方経済の底堅さを測る指標となり得る。
3. 日本企業への示唆
日本の製薬・健康食品メーカーにとって、ベトナムは天然素材の調達先としてのポテンシャルがある。セミの抜け殻に限らず、中部高原地域の豊かな生物多様性を活用した原料調達は、サプライチェーンの分散化を進める日本企業にとって検討に値するテーマだ。
4. FTSE新興市場指数への格上げとの関連
直接の関連は薄いが、ベトナムが2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが正式決定されれば、海外からの資金流入は上場大型株に集中する見込みである。一方で、農村経済の実態やインフォーマルセクターの活力といった「数字に表れにくい強さ」は、ベトナム経済の長期的な成長基盤として投資家が把握しておくべきファクターである。
セミの抜け殻を黙々と集める農民の姿は、ベトナム経済のマクロ統計には現れにくいが、この国の「したたかな生活力」と「自然資源を活かす知恵」を象徴するエピソードと言えるだろう。
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出典: 元記事












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