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中国の化粧品業界で、いわゆる「dupe(デュープ)」——高級品と同等の品質・体験を謳う廉価版製品——をめぐる知的財産訴訟が相次いでいる。2026年4月26日、Joy Group(上海巨熠化粧品)傘下のJudydollとJoocyeeが模倣ブランドに対し計258万人民元(約35万7,000ドル)の賠償金を勝ち取った判決は、業界の転換点として大きな注目を集めている。この動きは、急成長するベトナムの化粧品市場にも重要な示唆を与えるものである。
「コピー工場」から「コピーされる側」へ——中国コスメの逆転劇
今回の訴訟の焦点となったのは、Joocyeeの大ヒット商品「クリスタルゼリー」リップシリーズと、Judydollのベストセラーであるコントゥアリングパレットである。これらの製品が、KekemoodやSweet Mintといった低価格ブランドによって外観・色名・パッケージデザインに至るまでほぼそのまま模倣され、Pinduoduo(拼多多)、Douyin(抖音=中国版TikTok)、Xiaohongshu(小紅書)といったECプラットフォーム上で10人民元(約40,000ドン)未満の価格で販売されていた。
裁判所は、これらの模倣品が単なる外見の類似にとどまらず、色名の完全コピー、画像レイアウトの流用、構造的パッケージデザインの盗用を行っており、消費者に対する意図的な混同を狙ったものであると認定した。
注目すべきは、この訴訟が孤立した事例ではないという点である。Perfect Diary(完美日記)、Carslan(卡姿兰)、Florasis(花西子)、Kato-Katoといった中国の有力国産コスメブランドが、近年相次いで模倣ブランドに対する知財訴訟を提起している。かつて「世界のコピー工場」と揶揄された中国コスメ業界が、今やコピーされる側に回っているのである。
国際ブランドが中国ブランドを「模倣」?——逆転の構図
この逆転現象はさらに興味深い展開を見せている。2026年1月、仏ランコム(Lancôme)が中国で展開したキャンペーンビジュアルが、中国国産ブランドFan Beauty Diary(凡尔赛日记)の既存広告と酷似していると中国の消費者から指摘され、オンライン上で大きな反発を招いた。
さらに遡ると、2021年11月には米歌手アリアナ・グランデのコスメブランド「r.e.m. beauty」が、中国国産ブランドColour Zone(彩色地带)のパッケージデザイン——2019年のPentawards金賞受賞作を含む——を模倣したとして中国消費者から非難を浴びた。
こうした事態が生じる背景には、中国コスメ業界の急速な成熟がある。FlorasisやFlower Knows(花知晓)といったブランドは、独自の美学だけでグローバルなファン層を獲得するに至っており、そのデザイン投資はもはや装飾ではなく、法的保護に値するコア資産となっている。中国の裁判所も、パッケージ、ビジュアル言語、さらにはキャンペーンのコンセプトまでを知的財産として認定する姿勢を強めている。
「dupe」文化の功罪——インスピレーションと模倣の境界線
「dupe」という概念自体は、TikTok・YouTube・Xiaohongshuなどのプラットフォームで一種の消費者文化として定着している。若い消費者にとって、高級品と同等の機能を持つ廉価製品を発見することは「賢い消費」の証であり、過度に高い価格設定に対する合理的な抵抗でもある。
しかし、「dupe」の名の下に、ほぼ同一の商品名・意図的に混同を狙うパッケージ・国際的な受賞歴を持つデザインの丸ごとコピーが横行する状況は、明らかに「インスピレーション」の範疇を超えている。今回のJoy Groupの勝訴をはじめとする一連の判決は、創造性への投資が法的に保護されるという明確なシグナルを市場に送っている。
投資家・ビジネス視点の考察——ベトナム市場への示唆
この中国での動きは、ベトナムの化粧品・消費財市場に対しても複数の重要な示唆を含んでいる。
第一に、ベトナムの化粧品市場は年率10%超の成長を続けており、国産ブランドの台頭も始まっている。中国と同様に、ベトナムでもECプラットフォーム(Shopee、TikTok Shop、Lazadaなど)を通じた低価格模倣品の流通が課題となっている。中国で知財保護が強化される流れは、ベトナムの規制当局や企業にとっても参考事例となるだろう。
第二に、ベトナム株式市場の観点では、化粧品・日用品セクターに関連する銘柄——例えばSao Thai Duong(SJF)やLG Vina Cosmetics関連——にとって、知財保護の強化はブランド価値の向上を通じた長期的なプラス材料となり得る。模倣品の氾濫が抑制されれば、正規ブランドの利益率改善につながるためである。
第三に、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げとの関連で言えば、知的財産権の保護強化は市場の制度的成熟を示す要素の一つであり、海外機関投資家からの評価にも間接的にプラスに作用する。ベトナム政府が知財保護の法整備を加速させれば、格上げ実現に向けた追い風となるだろう。
第四に、日本企業にとっても見逃せない動きである。資生堂やコーセーなど、ベトナム・中国双方で事業展開する日本の化粧品メーカーは、現地ブランドとの競争環境が知財訴訟によって変化する可能性を織り込む必要がある。中国国産ブランドが「コピーされる側」として法的保護を得る時代において、日本ブランドも自社のデザイン資産の保護戦略を再検討すべきタイミングにある。
中国コスメ業界が「dupe経済」との決別を宣言しつつあるこの転換期は、ベトナムを含むアジア新興国の化粧品市場が今後たどる道筋を示唆するものである。創造性と知財保護への投資が、ブランドの持続的競争力を左右する時代が、確実に到来している。
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