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ベトナムで「山の宝石」とも称される高級食材シロアリタケ(ナムモイ/nấm mối)の2025年シーズンが始まった。しかし今年は雨季の到来が例年より遅れた影響で初物の収穫量が激減し、小売価格が1kgあたり100万ドンを超える水準に高騰している。前年同時期と比較して7〜8%の値上がりであり、ベトナム南部を中心にグルメ層や飲食業者の間で話題となっている。
シロアリタケとは何か——ベトナムが誇る「天然の高級キノコ」
シロアリタケ(学名:Termitomyces)は、シロアリの巣と共生関係を持つ特殊なキノコである。人工栽培が極めて困難で、毎年雨季の初めにシロアリの巣の周辺から自然に生えてくるものを手作業で採取するしかない。そのため供給量が天候に大きく左右され、「天然もの」としての希少価値が非常に高い。ベトナム南部のタイニン省、ビンフォック省、ドンナイ省などの丘陵・森林地帯が主な産地として知られる。
味わいは独特の芳香と歯ごたえが特徴で、ベトナム料理ではスープ、炒め物、鍋料理などに用いられる。日本でいえば松茸に近い「季節限定の天然高級キノコ」というポジションであり、ベトナム人にとって雨季の訪れを告げる風物詩でもある。
今年の価格高騰の背景——雨季の遅延と供給不足
ベトナム南部では通常5月上旬から本格的な雨季に入るが、2025年は降雨の開始が例年より2〜3週間ほど遅れた。シロアリタケは最初のまとまった雨が降った直後に一斉に芽を出す習性があるため、雨の遅れはそのまま収穫時期の後ろ倒しと初期供給量の減少に直結する。
この供給不足を受け、小売市場では初物のシロアリタケが1kgあたり100万ドンを優に超える価格で取引されている。前年同期比で7〜8%の上昇であり、特に鮮度の高い「朝採れ」のものはさらにプレミアムが乗るケースも報告されている。ホーチミン市内の市場やオンライン販売プラットフォームでも品薄状態が続いており、予約販売の形をとる業者も少なくない。
ベトナムの農産物市場と気候変動リスク
シロアリタケの価格変動は一見するとニッチな話題に映るが、実はベトナム農業セクター全体が直面する気候変動リスクを象徴する事象でもある。近年、ベトナムでは雨季・乾季のサイクルが不安定化しており、コーヒー、コショウ、カシューナッツといった主要輸出農産物の生産にも影響が及んでいる。エルニーニョ現象やラニーニャ現象の頻発に伴い、降雨パターンの予測が難しくなっていることは、農業GDP比率が依然として10%超を占めるベトナム経済にとって無視できないファクターである。
また、シロアリタケのような天然採取型の農林産物は、人工栽培への転換が技術的に困難であるがゆえに、気候変動の影響をダイレクトに受けやすい。ベトナム農業科学アカデミーなどではシロアリタケの人工栽培研究が進められているものの、商業化にはまだ時間を要するとされている。
「食」から見るベトナムの消費トレンド
1kgあたり100万ドン超という価格は、ベトナムの一般的な都市部労働者の日給に匹敵する金額である。それでも需要が衰えない背景には、ベトナム中間層の拡大と「食の高級志向」の強まりがある。ホーチミン市やハノイ市を中心に、高級食材を求める消費者層は年々厚みを増しており、オーガニック食品や天然食材への関心も高い。SNS上では毎年この時期になると「ナムモイを手に入れた」という投稿が飛び交い、一種のステータスシンボルにもなっている。
こうした消費トレンドは、ベトナムの小売・食品セクターの成長を裏付けるものであり、日系を含む外資系食品企業にとっても市場参入の好機を示唆している。イオンベトナムやファミリーマートといった日系小売チェーンが高級食材の品揃えを拡充しているのも、こうした流れに沿った動きである。
投資家・ビジネス視点の考察
シロアリタケそのものが上場企業の業績を左右する規模の市場ではないが、本件から読み取れるポイントはいくつかある。
第一に、気候変動が農業関連銘柄に与えるリスクである。ベトナム株式市場(HOSE/HNX)に上場する農業・食品加工企業——たとえばビナミルク(VNM)、パンパシフィック(PAN)グループ傘下の水産・農業企業など——にとって、天候不順は原材料調達コストの上昇要因となる。今年の雨季遅延が一過性のものか、構造的な気候変動の兆候かは注視が必要である。
第二に、ベトナム内需消費の底堅さが改めて確認できる点である。高級食材がインフレ率を上回る値上がりを見せながらも需要が維持されていることは、中間層の購買力が依然として健在であることを示す。小売セクター銘柄(モバイルワールド/MWG、マサングループ/MSN傘下のWinCommerce等)の中長期的な成長ストーリーを補強する材料といえる。
第三に、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナム経済のファンダメンタルズがどのように評価されるかという観点がある。農業を含む実体経済の安定的な成長は、格上げ審査における「市場の厚み」を支える重要な要素であり、天候リスクへの対応力もESG(環境・社会・ガバナンス)の文脈で注目されうる。
日本企業にとっては、ベトナムの農業テック(アグリテック)分野への技術協力・投資機会として捉えることもできる。人工栽培が困難な品種の研究開発、気象データを活用したスマート農業、コールドチェーン(低温物流)の整備など、日本の技術力が活かせる領域は多い。
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出典: 元記事(VnExpress)












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