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2025年5月18日、米国財務長官スコット・ベッセント氏は、ロシア産石油に対する制裁免除措置を30日間延長すると発表した。イラン情勢の緊迫化とホルムズ海峡の封鎖による原油供給の混乱が続くなか、低所得国や脆弱な新興国への原油供給確保が狙いである。原油価格がブレント先物で112ドル超に達するなか、ベトナムを含むエネルギー輸入依存国にとっても重大な意味を持つ動きだ。
制裁免除の経緯と今回の延長措置
米国は昨年、ウクライナ戦争をめぐりロシアへの圧力を強化する目的で、ロシアの二大石油企業ロスネフチ(Rosneft)およびルクオイル(Lukoil)に対する制裁を発動した。これによりロシア産原油を積載したタンカーが制裁に抵触し、各地で「滞留」する事態が発生した。
しかし、米国とイスラエルによるイラン攻撃がペルシャ湾岸からの原油供給を大きく混乱させたことを受け、米財務省は2025年3月に初回の制裁免除措置を導入。滞留していたロシア産原油・石油製品の売買を一時的に認め、供給不足の緩和と原油価格の高騰抑制を図った。
初回の免除は一度失効した後に再延長され、今回が2度目の「失効後の延長」となる。5月16日(土)に失効した免除措置を、18日(月)に改めて30日間延長する形をとった。ベッセント長官はSNS「X」上で、「この免除措置は市場の安定化と、最も脆弱な国々への原油供給確保に寄与する」と説明した。
免除措置の具体的な内容と制限
今回の免除で取引が認められるのは、2025年4月17日までにタンカーに積載されたロシア産原油および石油製品に限られる。それ以降に積載された分は対象外であり、現在ロシアが新たに生産・出荷している原油には適用されない。つまり、流通する量には明確な上限がある。
ロイター通信によれば、今回の延長は複数の低所得国からの要請を受けたものである。これらの国々は、イラン情勢の悪化とホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ世界最重要の原油輸送ルート、世界の海上原油輸送の約2割が通過)の封鎖により、湾岸産原油へのアクセスが困難になっていた。
米国内の政治的反応
この決定に対し、民主党のジーン・シャヒーン上院議員(ニューハンプシャー州)およびエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)は即座に批判を展開し、「プーチン大統領への贈り物だ」と断じた。
一方、ベッセント長官は、この措置により各国が中国と競争しながら制裁対象だったロシア産原油にアクセスできるようになると主張。中国とインドがロシア産原油の最大の買い手となっている現状を踏まえ、他国にも調達の選択肢を与えることで、中国の独占的な立場を牽制する狙いも透けて見える。
専門家の見方と原油市場の動向
米財務省外国資産管理局(OFAC)の元政策ディレクターで現在はホランド&ナイト法律事務所に所属するステファニー・コナー氏は、「これらの短期的な免除措置が米国内のガソリン価格に意味のある影響を与えるかどうかは依然として不透明だ」と指摘。英国やEUによるロシア産原油の購入制裁は引き続き有効であることも強調した。
アトランティック・カウンシル地経学センターのチャールズ・リッチフィールド副所長は、原油価格が既に高騰している中でこうした免除措置はロシアの石油収入を増やす可能性があると警告。「ロシア経済が困難に直面している兆候がある今こそ制裁圧力を強める好機だが、政権がその方向に進んでいるようには見えない」と述べた。
18日のブレント原油先物は約2.6%上昇し、112ドル超で引けた。ホルムズ海峡の封鎖継続による供給逼迫懸念が主な要因である。一方、イラン国営メディアが「米国がイラン産原油の制裁一時解除を検討」と報じたことで一時下落する場面もあったが、米当局者がこの情報を否定したことで再び上昇に転じた。
トランプ大統領はSNS「Truth Social」で、19日(火)に予定されていたイランへの攻撃を交渉継続のために一時停止するよう指示したことを明かしている。
G7会合とイラン制裁強化の動き
ベッセント長官はパリで開催中のG7(主要7カ国)財務相会合に出席しており、G7および同盟国に対しイランへの制裁をより厳格に執行するよう要請。「イランの軍事活動を支える不正資金の流れを断ち、その資金をイラン国民に還元すべきだ」と訴えた。
ベトナム経済・投資家への影響と考察
今回の動きは、ベトナム経済および株式市場にとって以下の点で注視すべきである。
①原油輸入コストへの直接的影響:ベトナムは近年、国内原油生産量の減少に伴い原油の純輸入国に転じつつある。ブレント原油が112ドルを超える水準は、ペトロリメックス(PLX)をはじめとする石油流通企業のコスト増につながる一方、ペトロベトナム・ガス(GAS)やペトロベトナム・ドリリング(PVD)など上流企業にとっては追い風となる。
②インフレ圧力とベトナム国家銀行の金融政策:原油高はベトナムのCPI(消費者物価指数)を押し上げる要因となり、ベトナム国家銀行(中央銀行)の金融緩和余地を狭める可能性がある。2025年後半の利下げ期待が後退すれば、不動産株や銀行株にとってネガティブ材料となりうる。
③ホルムズ海峡リスクと海運・物流:ホルムズ海峡の封鎖長期化は、ベトナムの海運セクター(例:ベトナム海運総公社=VIMC)にとって運賃上昇というプラス材料になる反面、輸入原材料コストの上昇を通じて製造業全般には逆風となる。
④FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げに向け、マクロ経済の安定性は重要な評価要素である。原油高に伴うインフレや経常収支の悪化が長期化すれば、格上げ判断にマイナスの影響を及ぼすリスクもある。
⑤日系企業への影響:ベトナムに生産拠点を持つ日系製造業にとって、エネルギーコストの上昇は操業コストに直結する。特に鉄鋼、化学、食品加工など電力・燃料依存度の高いセクターは影響を受けやすい。一方で、再生可能エネルギー関連投資(太陽光・風力)への追い風ともなりうる。
中東情勢の不透明感が続く限り、原油市場のボラティリティは高止まりが予想される。ベトナム投資家は、エネルギー関連銘柄のポジション管理と、マクロ指標(CPI、貿易収支、為替動向)のモニタリングを一層強化すべき局面である。
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出典: 元記事












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