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ベトナム北東部クアンニン省(Quảng Ninh)の名峰イエントゥ(安子山、Yên Tử)の麓で、IT系の学士号を持つ青年がマカダミアナッツ栽培と加工に情熱を注ぎ、ISO認証を取得した加工工場を運営しながら循環型経済(サーキュラー・エコノミー)を実践している。都市部のテック産業からあえて地方の農業へと転身したこの挑戦は、ベトナム農業の高付加価値化と地方経済振興の新たなモデルケースとして注目を集めている。
IT技術者から農業起業家へ——グエン・ヴァン・リエム氏の転身
主人公のグエン・ヴァン・リエム(Nguyễn Văn Liêm)氏は、情報技術(IT)分野の学士号を持つ人物である。ベトナムでは近年、ソフトウェア開発やBPOなどIT産業が急成長を遂げ、理系・IT系の人材需要は極めて高い。その中でリエム氏はあえてテクノロジー業界でのキャリアを選ばず、クアンニン省イエントゥ山の麓という自然豊かな土地でマカダミアナッツ(ベトナム語で「mắc ca」)の栽培に取り組む道を選んだ。
イエントゥ山は、ベトナム仏教の聖地として知られる標高1,068メートルの山で、13世紀にチャン朝(陳朝)の皇帝チャン・ニャントン(Trần Nhân Tông)が出家し竹林禅派(Trúc Lâm)を開いた場所として歴史的にも極めて重要な地である。日本人観光客にも人気の高い世界遺産候補地の一つであり、その麓は温暖で湿度が高く、農業に適した気候条件を備えている。
マカダミアナッツ——ベトナム農業の「新星」
マカダミアナッツはもともとオーストラリア原産で、「ナッツの王様」とも呼ばれる高級ナッツである。世界市場では需要が年々拡大しており、ベトナムでは2000年代後半からタイグエン省(Thái Nguyên)やラムドン省(Lâm Đồng)、ダクラク省(Đắk Lắk)などの中部高原地帯を中心に試験栽培が始まった。ベトナム政府は農業の多角化・高付加価値化の柱の一つとしてマカダミアナッツ栽培を奨励しており、2025年時点で全国の栽培面積は数万ヘクタール規模に拡大しているとされる。
リエム氏が拠点とするクアンニン省はベトナム北部に位置し、世界遺産ハロン湾で有名な観光地であると同時に、石炭産業を中心とした工業省でもある。農業分野ではコメや茶の栽培が盛んだが、マカダミアナッツの商業栽培はまだ珍しく、リエム氏の取り組みは同省における農業イノベーションの先駆けといえる。
ISO認証取得の加工工場と循環型経済モデル
リエム氏の事業の特筆すべき点は、単なる一次産品の栽培・出荷にとどまらず、ISO規格を取得した加工工場を自ら運営していることである。ベトナムの農産物加工は、従来は小規模で品質管理が十分でないケースも多かったが、リエム氏は国際標準の品質管理体制を導入し、製品の付加価値と信頼性を高めている。
さらに注目すべきは、リエム氏が「循環型経済(kinh tế tuần hoàn)」の考え方を事業に取り入れている点である。マカダミアナッツの殻は非常に硬く、従来は廃棄物として処理されることが多かったが、バイオマス燃料や堆肥、活性炭の原料として再利用することが可能である。リエム氏は、こうした副産物を無駄なく活用する仕組みを構築し、廃棄物ゼロに近い生産体制を目指している。
ベトナム政府は2022年に環境保護法を改正し、循環型経済の推進を法的に位置づけた。2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言したベトナムにおいて、農業分野での循環型モデルの実践は国家戦略とも合致しており、リエム氏の取り組みはまさに時代の潮流に乗ったものといえる。
IT人材の農業参入が意味するもの
リエム氏のようにIT分野の教育を受けた人材が農業に参入する動きは、ベトナムでは「帰農(về quê lập nghiệp)」トレンドの一環として近年増加している。デジタル技術を活用したスマート農業、EC(電子商取引)を活用した販路拡大、SNSマーケティングによるブランディングなど、IT知識を農業経営に応用することで、従来の農業とは一線を画す高収益モデルを実現する若手農業起業家が各地で誕生している。
ベトナムの農業はGDPに占める割合こそ低下傾向にあるものの、依然として労働人口の約30%が従事する基幹産業である。政府は「農業の近代化・工業化」を重要政策として掲げており、リエム氏のような高学歴の若手人材が地方で起業することは、地方経済の活性化と都市部への人口集中の緩和という二重の効果が期待される。
投資家・ビジネス視点の考察
マカダミアナッツをはじめとするベトナムの高付加価値農産物セクターは、直接的に上場企業の大型銘柄に結びつくケースはまだ少ないものの、農業関連のサプライチェーン全体を視野に入れると投資の観点でも無視できない動きである。
まず、ベトナムの農産物加工・輸出関連企業にとって、ISO認証を取得した加工施設の増加は、輸出先での品質基準クリアを容易にし、国際市場での競争力向上につながる。日本企業にとっては、ベトナム産マカダミアナッツの品質が安定すれば、菓子メーカーや食品商社にとって新たな調達先候補となり得る。実際、日本のナッツ市場は健康志向の高まりを背景に拡大しており、ベトナムからの輸入増加が見込まれる。
また、循環型経済モデルの実践は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からもポジティブに評価される。2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げが実現した場合、海外機関投資家の資金流入に伴いESG基準を満たす企業やセクターへの関心がさらに高まることが予想される。農業分野でのサステナビリティの取り組みは、ベトナム市場全体の「格上げ対応力」を底上げする要因の一つとなるだろう。
さらに、ベトナム政府が推進するグリーン成長戦略や農村振興政策に沿った事業には、税制優遇や補助金が適用されるケースも多く、同様のビジネスモデルの横展開が進む可能性がある。日本のODA(政府開発援助)や官民連携プロジェクトとしても、こうした循環型農業モデルへの支援は親和性が高い分野である。
ベトナム農業の高付加価値化と若手人材の地方回帰という二つのトレンドが交差する今回の事例は、個別銘柄の投資判断に直結するものではないが、ベトナム経済の「次の成長ドライバー」を理解するうえで重要なピースの一つといえる。
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