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ベトナムの電力需要が史上最高水準に達する見通しを受け、国家電力系統運営機関(NSMO)が2025年6月から「ピーク時間帯(17時30分〜22時30分)」と「オフピーク時間帯(0時〜6時)」の料金枠を即時適用する案を提示した。猛暑が続くベトナムで電力供給の逼迫がいよいよ現実味を帯びてきた格好であり、産業界や一般家庭、さらにはベトナムに進出する日系企業にとっても無視できない動きである。
なぜ今、ピーク料金制の導入が急がれるのか
ベトナムは毎年5月から8月にかけて猛烈な暑さに見舞われる。特に北部のハノイ周辺では気温が40度近くに達する日も珍しくなく、エアコン需要が爆発的に増加する。2023年と2024年にはすでに夏季の電力ピークが過去最高を更新しており、一部地域では計画停電や電圧低下が発生して社会問題化した。
NSMOは、2025年6月の電力需要がさらに記録的な水準に達すると予測している。背景には、(1)経済成長に伴う産業用電力の増加、(2)都市化の進展による家庭用電力の拡大、(3)気候変動の影響で平年以上の高温が続くとの気象予報——の3つの要因がある。こうした状況の中、ピーク時間帯に電力消費を抑制し、オフピーク時間帯への需要シフトを促すことが急務と判断された。
提案の具体的な中身
NSMOが提案した時間帯区分は以下のとおりである。
- ピーク(高負荷)時間帯:17時30分〜22時30分——夕方から夜にかけて、帰宅後のエアコン使用や照明需要が集中する時間帯。この間は電力料金が割高に設定される見込みである。
- オフピーク(低負荷)時間帯:0時〜6時——深夜から早朝にかけて電力消費が最も少なくなる時間帯。この間は割安な料金が適用される方向である。
注目すべきは、この制度を「来月(6月)から直ちに」適用しようとしている点である。通常、電力料金体系の変更には相応の周知期間や行政手続きが必要だが、NSMOは電力逼迫の切迫性を理由に早期導入を求めている。最終的にはベトナム商工省(MoIT)およびベトナム電力グループ(EVN=Electricity of Vietnam、ベトナム最大の国営電力公社)の承認が必要となる。
ベトナムの電力事情——構造的な課題
ベトナムの電力システムは、急速な経済成長に供給能力が追いついていないという構造的な問題を抱えている。過去10年間、電力需要は年平均10%前後の伸びを示してきたが、新規発電所の建設は用地取得や環境アセスメントの遅れ、資金調達の問題などで計画どおりに進んでいない。
ベトナム政府は2023年に承認した「第8次国家電力開発計画(PDP8)」で、2030年までに再生可能エネルギーの比率を大幅に引き上げる方針を掲げている。しかし、太陽光や風力の導入拡大には送電網の整備が不可欠であり、特に南部で発電した電力を北部に送る南北連系線の容量不足が深刻なボトルネックとなっている。さらに、LNG(液化天然ガス)火力発電所の建設も遅延しており、短期的には水力発電への依存度が依然として高い。ダムの貯水量が天候に左右されやすいことも、電力供給の不安定要因となっている。
2023年・2024年の「電力危機」の教訓
2023年6月、ベトナム北部では大規模な電力不足が発生し、ハノイやその周辺の工業団地で断続的な停電が実施された。日系を含む外資系製造企業が操業を一時停止せざるを得ない事態となり、「ベトナムのインフラリスク」として国際的にも大きく報じられた。2024年も同様の懸念が夏季に浮上し、政府は節電キャンペーンやピークシフトの呼びかけを強化した。
今回のNSMOの提案は、こうした過去の教訓を踏まえ、「事前に制度的な枠組みを整えることで需要ピークを分散させる」という予防的アプローチであると評価できる。単なる呼びかけではなく、料金インセンティブによって消費者行動を変えようとする点で、一歩踏み込んだ施策といえる。
投資家・ビジネス視点の考察
電力関連銘柄への影響
ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する電力関連銘柄にとって、今回の動きは複合的な影響をもたらす。ピーク料金制の導入は、発電事業者にとっては高単価での販売機会が増えることを意味し、特にガス火力やピーク対応の発電所を運営する企業にはプラス材料となり得る。一方、EVN傘下の配電会社は料金改定に伴うシステム対応コストが発生する可能性がある。
また、再生可能エネルギー関連銘柄にも注目すべきである。ピーク時間帯(17時30分〜22時30分)は太陽光発電の出力が低下する時間帯と重なるため、蓄電池やバッテリー関連のビジネスに追い風が吹く可能性がある。
日系企業・製造業への影響
ベトナムに生産拠点を持つ日系製造企業にとって、ピーク料金制は電力コストの上昇要因となる。特に交代制勤務を導入している工場では、夕方から夜間にかけての操業コストが増加する。一方で、オフピーク時間帯の料金が引き下げられれば、深夜操業へのシフトによってコスト最適化を図る余地も生まれる。いずれにせよ、ベトナム進出企業は電力コストの変動を織り込んだ事業計画の見直しが必要になるだろう。
FTSE新興市場指数格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げにとって、電力インフラの安定性は間接的ながら重要なファクターである。海外の機関投資家はベトナムの「インフラリスク」を格上げ判断における懸念材料の一つとして注視している。今回のように、需要管理を制度的に整備しようとする動きは、ベトナム政府がインフラ課題に真剣に取り組んでいる姿勢を示すものとして、長期的にはポジティブに評価される可能性がある。
ベトナム経済全体の文脈
ベトナムは2025年のGDP成長率目標を8%以上と設定しており、製造業の拡大やFDI(外国直接投資)の誘致が経済政策の柱となっている。しかし、電力供給がボトルネックとなれば、工場の稼働率低下やサプライチェーンの混乱を通じて成長の足かせとなりかねない。ピーク料金制の導入は短期的な対症療法に過ぎないが、需要側管理(DSM=Demand Side Management)の制度化は中長期的なエネルギー政策の基盤づくりとして意義がある。今後はPDP8に基づく発電・送電設備の整備がどこまで加速するかが、ベトナム経済の持続的成長を占う上で最大の注目点となる。
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出典: 元記事












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