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ベトナム共産党のトーラム(Tô Lâm)書記長兼国家主席が、レアアース(希土類)をはじめとする鉱物資源について「原料のまま輸出せず、深加工・技術自立の方向で開発する」と明確に指示した。環境を犠牲にした成長も否定しており、ベトナムの資源・産業政策が大きな転換点を迎えている。
トーラム書記長が示した「3つの原則」
トーラム書記長兼国家主席は、素材産業の発展に関する会議の場で、ベトナムの鉱物資源開発に対して以下の3点を明確に打ち出した。
- 深加工の推進:原鉱石(未加工のまま)での輸出を行わず、国内で付加価値をつけた加工品として活用・輸出すること。
- 技術の自主化:外国技術への過度な依存から脱却し、自国で精錬・加工技術を確立すること。
- 環境との両立:成長のために環境を犠牲にする「交換」は認めないこと。
この発言は、単なるスローガンではなく、ベトナムが世界第2位とも推定されるレアアース埋蔵量を持つ国として、資源を「戦略的カード」として位置づける姿勢を鮮明にしたものである。
ベトナムのレアアース埋蔵量と世界的な位置づけ
米国地質調査所(USGS)の推定によると、ベトナムのレアアース埋蔵量は約2,200万トンとされ、中国(約4,400万トン)に次ぐ世界第2位の規模である。主な鉱床は北西部のライチャウ省(Lai Châu)やイエンバイ省(Yên Bái)、中部のハティン省(Hà Tĩnh)などに分布している。
レアアースは電気自動車(EV)のモーター用永久磁石、風力発電タービン、スマートフォン、半導体製造装置、さらには軍事用途に至るまで、現代のハイテク産業に不可欠な素材である。現在、世界のレアアース精錬・加工の約9割を中国が握っており、米中対立が深まる中で中国以外の供給源の開拓は世界各国にとって喫緊の課題となっている。
こうした地政学的背景の中、ベトナムは長らく「埋蔵量は豊富だが開発が進んでいない」状態が続いていた。技術不足、インフラの未整備、環境問題への懸念などが主な理由である。しかし近年、米国、韓国、日本、オーストラリアなどがベトナムのレアアース開発への協力を相次いで申し出ており、国際的な注目度は急速に高まっている。
「原料輸出禁止」が意味する産業政策の転換
ベトナムはこれまでも石炭やボーキサイトなど一部の鉱物資源で原料輸出を行ってきたが、付加価値の大部分を海外の加工企業に渡してしまうという構造的な問題を抱えていた。インドネシアが2020年にニッケル鉱石の輸出を禁止し、国内での精錬・加工を義務化したことで製錬投資を呼び込んだ「インドネシア・モデル」は、ベトナムの政策立案者にも大きな影響を与えたとみられる。
トーラム書記長の今回の指示は、レアアースにとどまらず「素材産業(công nghiệp vật liệu)」全般に向けられている点が重要である。これは、ベトナムが単なる「安価な労働力による組み立て拠点」から「素材・部品の国産化を進める産業国家」への脱皮を明確に志向していることを示している。
具体的には、レアアースの精錬(酸化物への分離)、さらには永久磁石やバッテリー材料などへの加工まで国内で完結させるサプライチェーンの構築が目標になるとみられる。ただし、レアアースの精錬技術は放射性物質の処理を含む高度な化学プロセスであり、技術的・環境的なハードルは極めて高い。書記長が「環境を犠牲にしない」と釘を刺したのは、過去に中国で深刻な環境汚染を引き起こしたレアアース精錬の教訓を踏まえたものとも読み取れる。
日本との関係——「脱中国」で重要性が増すベトナム
日本にとって、ベトナムのレアアース戦略は極めて重大な意味を持つ。2010年の尖閣諸島問題を契機に中国がレアアース輸出を事実上制限した「レアアースショック」以降、日本政府と産業界はレアアース調達先の多角化を国家的課題として取り組んできた。
日本はベトナムとの間で既にレアアース開発に関する政府間協力を進めており、独立行政法人JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を通じた探査支援や、住友商事をはじめとする日本企業による共同開発プロジェクトの実績がある。今回の「原料輸出禁止」方針は、単にベトナムから原鉱石を輸入するというビジネスモデルが成立しなくなることを意味するが、逆に言えば、精錬・加工技術を持つ日本企業がベトナム国内で合弁事業を展開する好機ともなりうる。
トーラム書記長の「技術の自主化」という方針は、外国企業の排除ではなく、技術移転を伴うパートナーシップを求めるものと解釈するのが自然であろう。日本企業にとっては、技術供与と引き換えにベトナム国内での加工拠点へのアクセスを確保する、というウィンウィンの枠組みが求められることになる。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響
今回の方針転換は、ベトナム国内の鉱業・素材関連銘柄にとって中長期的なポジティブ材料となる可能性がある。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するラムドン・アルミ(LDA)や、レアアース開発への参入が取り沙汰されるビナケム(Vinachem、ベトナム化学総公社)グループ傘下の企業群などが注目対象となりうる。ただし、現時点ではレアアースの商業生産を本格的に行っている上場企業はほぼなく、実際の業績への反映には相応の時間がかかる点に留意が必要である。
日本企業・ベトナム進出企業への含意
素材産業の深加工方針は、レアアースだけでなく、鉄鋼、アルミニウム、化学品など幅広い分野に波及する可能性がある。ベトナム国内に加工拠点を持つ日系企業——たとえば素材メーカーや商社——にとっては、ベトナム政府との協業チャンスが広がるとともに、規制環境の変化にも注意を払う必要がある。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSEラッセルによるベトナムの「新興市場」への格上げは、海外機関投資家の資金流入を大幅に促進すると予想されている。ベトナムが資源国としての付加価値を高め、環境配慮と経済成長を両立させる姿勢を国際的に示すことは、格上げ審査における「市場の成熟度」評価にもプラスに作用する。ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視するグローバル投資家にとって、トーラム書記長の「環境を犠牲にしない」という発言は好意的に受け止められるだろう。
ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ
ベトナムは2024年以降、半導体・AI関連のサプライチェーン誘致、デジタル経済の推進、そして今回の資源・素材産業の高度化と、従来の「低コスト製造拠点」からの構造転換を急速に進めている。米中対立の長期化、中国からの供給リスク回避(チャイナ・プラス・ワン)の流れ、さらには2045年までに「先進国入り」を目指すという国家目標が、こうした政策の背景にある。レアアースの原料輸出禁止方針は、その大きな流れの中の重要なピースの一つであり、ベトナムが「世界の工場」から「世界の素材サプライヤー」へと進化する意思表示とも言える。
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出典: 元記事












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