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ベトナム保健省傘下の食品安全局(Cục An toàn thực phẩm)で発生した大規模収賄事件の控訴審が、2025年5月20日から25日にかけてハノイの最高人民裁判所控訴法廷で開かれた。元局長グエン・タイン・フォン(Nguyễn Thanh Phong)被告は948億ドン超の賄賂受領で起訴されており、控訴審では被告らが企業から金銭を受け取った目的が改めて審理された。検察側は主要被告全員に対し一審判決からの減刑を提案しており、ベトナムの反汚職キャンペーンの行方を占う注目の裁判である。
事件の全容——2018年から2025年にかけた組織的収賄
一審判決によると、2018年から2025年にかけて、食品安全局の幹部・専門職員らが複数の企業・個人と共謀し、食品製品の公告登録受理証明書の発行、広告内容確認書の発行、GMP(適正製造規範)認証の審査・事後検査といった行政手続きにおいて、賄賂の授受を繰り返していた。食品安全局はベトナム国内で流通するすべての食品・健康食品の安全基準認証を管轄する極めて重要な機関であり、その許認可権限を利用した組織的汚職は、食品安全行政そのものへの信頼を根本から揺るがす事態である。
元局長フォン被告の法廷証言——「規定外の時間外手当」と釈明
5月25日午前の補充尋問において、フォン被告は次のように証言した。「部下たちが金を持ってきて分配した。事情を聞くと、一部の企業が申請書類を何度提出してもうまくいかないため、部下たちが翻訳支援や書類作成の手助けをしたところ、企業側から謝礼として金銭を渡されたという。部下たちは正規の手続きを経て初めて許可を出しており、受け取った金は時間外労働に対する報酬だった。しかしそれ自体が自分の過ちである」。
さらにフォン被告は、毎年各部署に対し許可済み書類の抜き取り検査を指示しており、事後検査でも不備は発見されなかったと主張。2023年には政府監察院(Thanh tra Chính phủ)が、その後は中央検査委員会(Ủy ban Kiểm tra Trung ương)がそれぞれ書類を抽出して再検査したが、いずれも規定通りであったと強調した。「専門職員が金銭を受け取って規定に反する許可を出した案件は一件もない」とフォン被告は断言している。
裁判長が「企業が規定通りの書類を提出して金銭を渡さなかった場合、許可は下りたのか」と質問すると、フォン被告は「大企業には法務部門がしっかりしており、食品安全局の公文書に基づいて正確に書類を作成すれば、金銭を渡さずとも許可されていた。その比率は非常に大きい」と回答した。
他の主要被告の証言
元副局長で食品安全局の元管理室長であるレー・ホアン(Lê Hoàng)被告は、2022年12月に部下に対し金銭の受け取りを禁止する指示を出したと証言。金銭受領は自分が着任する以前から行われていた慣行であり、「フォン被告が述べた通り、金銭を受け取って違反を見逃すためではなかった」と主張した。
元局長チャン・ヴィエット・ガー(Trần Việt Nga)被告は、2018年8月から広告分野の管理を任されたが、フォン被告から直接「企業から金銭を徴収せよ」との方針は聞いていなかったと証言。ただし、専門職員が企業から「感謝の金」を受け取っていることは認識しており、部下のリエウ(Liễu)被告に事情を確認したという。
専門職員のグエン・ティ・ゴック・ヒエン(Nguyễn Thị Ngọc Hiền)被告、グエン・ティ・ハイ・ハー(Nguyễn Thị Hải Hà)被告はいずれも「室長からの指示に従った」と証言している。
検察の減刑提案——夫婦関係も考慮
注目すべきは、チャン・ヴィエット・ガー被告とレー・ホアン被告が夫婦関係にあることである。検察側はこの点を考慮し、ホアン被告に寛大な処分を適用するよう求め、一審の懲役5年から懲役3年・執行猶予付きへの減刑を提案した。
その他の主要被告に対する検察の減刑提案は以下の通りである。
- グエン・タイン・フォン被告(一審:懲役20年)→ 4〜5年の減刑を提案
- チャン・ヴィエット・ガー被告(一審:懲役15年)→ 2〜3年の減刑を提案
- グエン・フン・ロン被告(元副局長、一審:懲役12年)→ 1〜2年の減刑を提案
- ドー・フー・トゥアン被告(元副局長、一審:懲役7年)→ 3〜4年の減刑を提案
控訴しなかった被告にも3〜6か月の減刑が提案されるなど、全被告に対して検察側が減刑方針を示した点は異例ともいえる。
各被告の収賄額
一審判決で認定された主要被告の収賄責任額は以下の通りである。
- グエン・タイン・フォン被告:収賄額948億ドン超、個人利得439億ドン超
- グエン・フン・ロン被告:収賄額225億ドン超、個人利得86億ドン超
- チャン・ヴィエット・ガー被告:収賄額127億ドン超
投資家・ビジネス視点の考察
本事件はベトナムの食品・健康食品産業に直接関わる許認可行政の腐敗を白日の下にさらしたものであり、日本企業を含む外資系食品メーカーにとっても看過できない事案である。
第一に、ベトナムで食品・サプリメントの製造販売を行う企業にとって、食品安全局の許認可プロセスが不透明であったことが改めて浮き彫りとなった。今後は許認可手続きのデジタル化・透明化が加速する可能性が高く、コンプライアンス体制の整った企業にとっては追い風となる。日本の食品メーカーでベトナム市場に進出済みまたは検討中の企業は、今後の制度改革を注視すべきである。
第二に、ベトナムが2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げを控える中、こうした反汚職の取り組みは市場の透明性向上というシグナルとして海外投資家に評価される面がある。一方で、許認可行政の混乱が食品関連上場企業の業績に一時的な影響を与えるリスクも否定できない。ホーチミン証券取引所に上場する食品・飲料セクター銘柄(VNM=ビナミルク、MSN=マサングループなど)への短期的な風評リスクには注意が必要である。
第三に、チョン・ミン・チン(Tô Lâm)政権下で継続する「溶鉱炉」と呼ばれる大規模反汚職キャンペーンの一環として、本事件はベトナム政府が保健・食品安全分野にもメスを入れる姿勢を明確にしたものだ。投資環境の健全化という長期的な観点からは、ベトナム市場全体のガバナンス改善として肯定的に捉えることができる。
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