こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
ハノイに来た頃の移動手段は、バイクタクシーか、白バイに怯えながらオンボロのバスに乗るかの二択でした。それが今では、地下鉄で颯爽と移動できる。この街が変わったな、と実感する瞬間のひとつです。
そのハノイ地下鉄を運営するハノイ地下鉄株式会社が、2025年に純利益「約370億VND(約2億2,200万円)」を達成し、前年比2.5倍という成長を記録しました。わかりやすく換算すると、「1日あたり1億VND(約60万円)の利益」を生み出しているペースです。コロナ禍の開業時代を知っている身としては、正直、感慨深い数字です。
赤字640億VNDから黒字370億VNDへ——4年間の軌跡
2021年11月、カットリン〜ハドン線(2A号線)が商業運転を開始しました。タイミングが悪かった。コロナ禍のど真ん中で、開業後56日間の乗客数はわずか約87万4,000人。15日間の無料乗車キャンペーンを設けても、チケット収入は53億VND強にとどまり、その期間だけで約640億VNDの損失を出しています。
その後は急回復でした。2022年に乗客820万人超で初の黒字(160億VND超)を達成。2023年に乗客1,080万人、純利益130億VND超。2024年には2本目の路線(ニョン〜ハノイ駅線高架区間)が開通し、乗客数は1,480万人まで伸びました。そして2025年、純利益370億VNDという水準に到達しています。
開業から4年で黒字が2.5倍。数字だけ見ればきれいな成長ストーリーですが、財務の中身を見ると、もう少し複雑な構造が見えてきます。
「補助金85%」という現実を正直に見ておく
2025年の総収益9,380億VND(約56.3億円)の内訳を確認すると、チケット販売・輸送サービスによる自力収入は約1,440億VND(約8.6億円)。残りの7,940億VND超(約47.6億円超)はハノイ市からの公共交通補助金です。つまり収益の約85%が補助金によるものです。
これを問題と見るか、普通と見るかは、視点によります。世界の多くの都市鉄道は補助金なしには成立しておらず、東京の地下鉄でさえかつては巨額の累積赤字を抱えていました。ハノイ地下鉄の補助金も、ハノイ市が公共交通の運営コストとして予算化している正規の仕組みです。重要なのは、その補助金依存度が将来に向けて下がる構造になっているかどうかです。
実際、チケット収入は年々増加しており、2024年には約900億VNDを記録しています。2026年には輸送量・チケット収入ともに前年比11%以上の増加を目標として掲げており、自力収益の比率を少しずつ高めていく方向性は明確です。
タイ湖エリアから見た「乗り方の変化」
少し個人的な観察を挟みます。
私が住んでいるタイ湖(Tay Ho)エリアは、今のところ地下鉄駅まで少し距離があります。それでも、週に何度か3号線(ニョン〜ハノイ駅線)を利用しますが、最近明らかに車内の雰囲気が変わってきました。スーツ姿のビジネスパーソン、ランドセルを背負った子どもたち、ベビーカーを押す若い親御さん。2年前には見かけなかった光景です。
カットリン〜ハドン線では月額定期券の利用比率が約70%に達しているというデータがあります。この数字が示しているのは、観光客や物珍しさで乗っている層ではなく、毎日使う「生活インフラ」として定着してきたということです。都市の使い方が、静かに変わっています。
「技術自立」という2026年の野心
2026年の目標は、総売上高1兆2,800億VND(約76.8億円)、純利益450億VND以上(約2.7億円)。数字自体よりも、私が注目しているのは「技術自立」への踏み込み方です。
開業当初、ハノイ地下鉄は中国・ベルギー・フランスなどの外国技術パートナーに運行・保守の多くを依存していました。それを今後は段階的に内部化していくという方針を、今回の計画に明記しています。カットリン〜ハドン線13編成のオーバーホール技術移転、都市鉄道の技術・研修・研究開発センターの設立、地下鉄インフラ専門の保守企業の設立——このラインナップは単なるコスト削減の話ではありません。ベトナムが「技術の受け手」から「自力で回せる運営主体」へと転換しようとしているプロセスです。
フン王没後記念日(4月30日・5月1日)の連休中に実施した無料乗車デーでは、41万7,000人以上が地下鉄を利用し、前年比16%増を記録しました。イベント時の動員力は、インフラとしての存在感を示しています。
投資家として見ておくべき間接的な視点
ハノイ地下鉄株式会社は現在、ハノイ市が100%出資する非上場企業です。直接投資の対象ではありませんが、この事業の成長は複数の投資テーマと連動しています。
地下鉄沿線の不動産価値上昇は既に顕著で、特に新路線開通エリアでの動きは早い。建設・インフラ分野では、今後計画されている4号線・5号線・6号線の工事発注が見込まれます。そして地下鉄利用者の増加は、ハノイの生活圏拡大を通じて商業施設・小売業にも恩恵をもたらします。
財務面では、2025年末の総資産が7兆9,000億VND(約474億円)に達し、自己資本も2兆6,700億VNDから7兆5,000億VNDへと大幅に増加しています。ニョン〜ハノイ駅線の資産(約4兆9,000億VND相当)がハノイ市から管理委託されたことによるものですが、これは財務基盤の強化として読めます。
一点、留意しておきたいのは監査部門の指摘です。ニョン〜カウザイ間の高架区間について、一部収益・費用が「暫定的な単価」に基づいて計上されているとされており、正式な単価が承認された際に業績の修正が発生する可能性があります。現時点の数字をそのまま鵜呑みにせず、確定値が出た段階で改めて確認する価値があります。
「1日1億VNDの黒字」は、インフラ成熟を告げる象徴的な数字です。開業時の赤字640億VNDから、年間黒字370億VNDへ。ハノイという都市が、バイクと渋滞の街から、公共交通が機能する都市へと変わっていく。その変化を毎日この街で見ています。そういうことなんです。
いかがでしたでしょうか。今回のハノイ地下鉄の業績と都市インフラの変化について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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